うつ病治療薬の新しい薬理作用をグリアに発見!

平成24年11月19日

国立大学法人広島大学
独立行政法人国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター

うつ病治療薬の新しい薬理作用をグリアに発見!

 

独立行政法人 国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター(竹林 実 精神科科長)と国立大学法人 広島大学(仲田義啓 大学院医歯薬保健学研究院教授)の共同研究グループは、抗うつ薬の開発において、神経に作用する治療薬だけではなく、脳内のグリア細胞(※1)の一種「アストロサイト」をターゲットにした治療薬も有用であることを証明しました
 
現在、抗うつ薬は、脳内の神経(セロトニンやノルアドレナリンなどのモノアミン(※2))への作用が重要と考えられていて、それらの神経をターゲットとした選択性の高い治療薬(SSRIやSNRIなど)の開発がなされていますが、この開発には限界も指摘されています。
同研究グループは、ラット培養細胞を用いた実験により、大脳皮質および海馬のアストロサイト(※3)において抗うつ薬が直接作用し、抗うつ作用に関連が深いことが知られている4つの神経栄養因子・成長因子群(※4)(FGF-2、BDNF、GDNF、VEGF)をいずれも増加させることを見出しました。この作用は、神経の作用を介しておらず、一方、神経細胞に対しては抗うつ薬は無影響でした。
これらの成果は、抗うつ薬の作用点が神経のみならずアストロサイトにもあることを示すものであり、抗うつ薬の開発においてアストロサイトをターゲットにした治療薬が有用である可能性を示しています。
 
本研究成果は、2012年12月5日17時(日本時間12月6日7時)発行の科学誌「PLOS ONE」の、オンライン版http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0051197 で公開されます。

用語説明

※1 グリア細胞:神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)とも呼ばれ、神経系を構成する神経細胞ではない細胞の総称であり、ヒトの脳では細胞数で神経細胞とほぼ同数存在していると見積もられている。

※2 モノアミン:分子内にアミノ基やイミノ基の窒素原子を一つだけもつアミン。生体分子としてはノルアドレナリン,アドレナリン,ドーパミン,セロトニンなど,神経伝達物質として重要なものが多い。うつ病の病態に関連すると考えられている。

※3 アストロサイト: 中枢神経系に存在するグリア細胞の1つ。グリア細胞の大多数を占める。多くの染色法(抗GFAP免疫染色など)では星型の形態を示すことから、「星状」グリアの名称を持つ。以前は、単なる神経の支持機能として考えられていたが、近年、さまざまな重要な生理機能(脳血流:イオンの制御や後述する神経栄養因子・成長因子群の貯蔵庫など)が見つかっている。

※4 神経栄養因子・成長因子群:神経細胞は、発生の過程で増殖を停止すると、シナプスを形成し分化する、その際に標的細胞から生存に必要な栄養因子(タンパク質)を受けとる。これを標的細胞由来の神経栄養因子および成長因子と呼び、 神経成長因子:NGF、脳由来神経栄養因子:BDNF、グリア細胞株由来神経栄養因子:GDNF,など多数のファミリーが知られている。成長因子は特定の細胞の増殖や分化を促進する内因性のタンパク質の総称である。線維芽細胞成長因子:FGFや血管内皮細胞成長因子:VEGFなども含まれ、神経幹細胞などの増殖や分化を調節することが知られている。近年、BDNF・GDNF・FGF・VEGFの複数の神経栄養因子・成長因子群が抗うつ作用に深く関与することがわかってきている。

問い合わせ先

独立行政法人 国立病院機構呉医療センター・中国がんセンタ-
精神科・臨床研究部
竹林 実(たけばやし みのる)
TEL:0823-22-3111 FAX:0823-21-0478
E-mail: mtakebayashi*kure-nh.go.jp
 
広島大学大学院医歯薬保健学研究院
医療薬学講座薬効解析科学
仲田 義啓(なかた よしひろ)
電話:082-257-5310
メール:ynakata*hiroshima-u.ac.jp

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