電子に働く力の定量化に初めて成功

平成25年6月3日

電子に働く力の定量化に初めて成功
~ハードディスクの大容量化や送電ロスの無いケーブルの実用化へ期待~

ポイント

  • 強相関電子※1材料中の電子が、電子や格子から受ける効果を、それぞれ定量化することに成功
  • 従来の電子・格子相互作用※2の評価手法の問題点を初めて見出し、その改善方法を導出
  • 次世代エレクトロニクス材料の機能の解明や新機能の探索に向けた強力なツールを提示

広島大学 放射光科学研究センター(以下「HiSOR」という)の岩澤英明助教、島田賢也教授、産業技術総合研究所 電子光技術研究部門 酸化物デバイスグループの相浦義弘研究グループ長を中心とする研究グループは、HiSORの高輝度シンクロトロン放射光※3を利用した、世界最高水準の分解能の角度分解光電子分光実験※4により、電子同士が互いに強く避け合う効果(電子相関※1)と電子が結晶格子の振動から受ける効果(電子・格子相互作用)を定量化することに成功しました。
電子相関と電子・格子相互作用は、電子の運動、ひいては、物質の電気・磁気・光学的性質を決める非常に重要な要素です。しかし電子相関の取扱いは極めて難しく、これまでの研究の多くは、電子相関の効果を漠然と仮定し、電子・格子相互作用の評価を行っていました。今回、研究グループは、電子相関の効果を明確に考慮した上で、電子・格子相互作用を評価しました。その結果、従来の評価方法では、電子・格子相互作用の効果が、著しく過小評価されていたことを見いだすとともに、正しく電子・格子相互作用の強さを評価する手法を初めて導出しました。本手法は、多くの物質に広く適用可能であり、特に、電子相関の効果が大きい強相関電子材料の研究に威力を発揮します。
強相関電子材料は、磁場をかけることで電気抵抗が激減する「巨大磁気抵抗効果」や電気抵抗が低温でゼロになる「高温超伝導」など、置かれた環境によって劇的に性質が変化することから、次世代のエレクトロニクス材料として期待されています。例えば、巨大磁気抵抗素子はハードディスクの磁気ヘッドとして応用・製品化され、近年のハードディスクの飛躍的な大容量化を担っています。また、高温超伝導体を用いた送電ロスの無い高温超伝導ケーブルも実用化への期待が高まりつつあります。
こうした強相関電子材料の優れた性質は、電子相関に加え、電子・格子相互作用などの相互作用が競合・協同的に働いているためです。今後、本手法により、強相関電子材料で働く複数の相互作用の強さを正しく評価できることで、その機能・メカニズムの解明、さらには、相互作用の強さを新しい評価基準とした、次世代電子エレクトロニクス材料の探索・開発が大きく進展することが期待されます。

本研究の成果は、平成25年5月31日、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌『Scientific Reports』電子版3巻(記事番号:1930)に掲載されました。掲載論文は下記URLからどなたでも無料で閲覧することができます。

論文タイトル: `True` bosonic coupling strength in strongly correlated superconductors
著者: Hideaki Iwasawa, Yoshiyuki Yoshida, Izumi Hase, Kenya Shimada,
Hirofumi Namatame, Masaki Taniguchi, Yoshihiro Aiura
掲載雑誌:Scientific Reports 3, 1930 (2013).
論文URL:http://www.nature.com/srep/2013/130531/srep01930/full/srep01930.html

本研究成果につきまして、下記のとおり、記者説明会を開催しご説明いたします。
ご多忙とは存じますが、是非ご参加いただきたく、ご案内申し上げます。

日 時:平成25年6月6日(木) 14:00~15:00
場 所:キャンパス・イノベーションセンター4階 408号室
(広島大学東京オフィス 同センター4階 TEL:03-5440-9065)
出席者:岩澤 英明(国立大学法人 広島大学 放射光科学研究センター 助教)
島田 賢也(国立大学法人 広島大学 放射光科学研究センター 教授)
相浦 義弘(独立行政法人 産業技術総合研究所 研究グループ長)

会場へのアクセスマップ
本件に関するお問い合わせ先

【研究内容に関するお問い合わせ先】
国立大学法人 広島大学 放射光科学研究センター
助教 岩澤 英明 (いわさわ ひであき)
教授 島田 賢也 (しまだ けんや)
Tel: 082-424-6293 Fax:082-424-6294
E-mail: h-iwasawa*hiroshima-u.ac.jp (岩澤)
kshimada*hiroshima-u.ac.jp(島田)

【記者会見に関するお問い合わせ先】
国立大学法人 広島大学 学術・社会産学連携室 広報グループ
新藤季奈(しんどう きな)
TEL:082-424-4518 FAX:082-424-6040
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

(*は@に置き換えてください)

用語説明

※1 電子相関、強相関電子
電子相関は、マイナスの電荷をもつ電子同士が互いに避け合う効果のことです。固体の中では電子は波として振る舞いますが、遷移金属酸化物などでは電子の波としての広がりが小さくなり、原子核のまわりに局在する傾向が強まります。このような電子同士は互いに強く避け合うようになります。強相関電子とは強く電子相関が働いている状態を指します。

※2 電子・格子相互作用
結晶は、プラスの電荷をもつ原子核が周期的に配列して「格子」を組み、マイナスの電荷をもつ電子がその周りを運動して結合をつくっています。プラスの電荷をもつ原子核は互いに反発しますが、マイナスの電子がいることで、安定した構造(格子)を保つことができます。熱を加えると原子核はちょうどバネにつながれたおもりのように振動します。この原子核の振動(格子振動)によって力を受け、電子は運動の方向を変化させます。これを電子・格子相互作用と呼びます。

※3 シンクロトロン放射光
電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向(電子軌道)が曲げられた時に電子軌道の接線方向に放射される強い光のことです。HiSORでは、真空紫外から軟X線の領域の波長の光を利用して、世界最高水準の精密な角度分解光電子分光実験を行うことができます。

※4 角度分解光電子分光実験
結晶の表面に紫外線を照射して、光電効果により結晶外に放出される電子のエネルギーと運動量を同時に測定する実験手法です。この方法により、固体中の電子のエネルギーと運動量の関係(これをバンド分散といいます)を観測することができます。精密に観測された微視的なバンド分散から、超伝導をはじめとしたさまざまな巨視的な物質の性質を説明することができます。


up