アトピー性皮膚炎患者における汗アレルギーの原因物質を同定

平成25年6月6日

アトピー性皮膚炎患者における汗アレルギーの原因物質を同定

ポイント

  • 汗に含まれる「ヒスタミン遊離活性」を指標に「汗を精製」
  • 精製した汗から汗抗原のアミノ酸配列の一部を決定し組換え蛋白質を作製
  • 人の皮膚表面のカビが分泌する蛋白質がアレルギー反応を起こすことが判明

研究の概要

広島大学大学院医歯薬保健学研究院の秀 道広(ひで みちひろ)教授らの研究グループは、ヒトの汗の中に含まれるヒスタミン遊離活性物質(汗抗原)の同定に成功しました。
アトピー性皮膚炎は、特徴的な皮疹の分布と痒みを伴い、慢性の経過をとる皮膚疾患です。アトピー性皮膚炎患者には数々の悪化因子が存在しますが、汗のたまりやすい部位(肘の内側、膝の裏、顔面、首など)に湿疹がでやすいことなどから、汗は特に重要な悪化因子として認識されています。

今回、ヒトの汗に含まれるヒスタミン遊離活性を指標に精製した成分から、アミノ酸配列の一部を決定、それがマラセチア属真菌の一種であるM. globosaが産生する蛋白質MGL_1304に含まれるものであることを同定しました。
汗がアトピー性皮膚炎の悪化因子であることはこれまでも知られていましたが、マラセチアという、ヒトの皮膚の表面に常在するカビの一種が分泌する蛋白質がアトピー性皮膚炎患者にアレルギー反応を起こすということは、全く知られていませんでした。
今後、汗アレルギーの簡便で正確な診断方法とともに、この抗原(MGL_1304)を効率的に吸着したり不活化する製品を開発することで、アトピー性皮膚炎のための新たな治療やスキンケアの方法が開発されることが期待されます。

本研究成果は、平成25年5月31日(金)(日本時間6月1日午前6時)発行の科学誌「Journal of Allergy and Clinical Immunology」のオンライン版(Article In Press)で公開されました

研究の内容

秀教授のグループは、これまでアトピー性皮膚炎患者が自らの汗に対する即時型アレルギー反応を示すことを見出していましたが、今回、汗がヒト白血球の一種である好塩基球を刺激する活性(ヒスタミン遊離活性)を指標にして汗を精製し(精製汗抗原)、アミノ酸配列の一部を決定しました。
得られた配列は、蛋白質のデータベースからマラセチア属真菌の一種であるM. globosaが産生する蛋白質、MGL_1304に含まれるものであったことから、さらに秀教授のグループは、MGL_1304の組換え蛋白質を作製しその性質を検討しました。
作製した蛋白質は、アトピー性皮膚炎患者血液中のIgEと結合し、また好塩基球からはヒスタミン遊離を起こすなど、これまで汗アレルギーの原因物質として想定されていた物質であることが証明されました。MGL_1304は、M. globosaから分泌され、ヒト肥満細胞株から脱顆粒を起こすとともに、アトピー性皮膚炎患者末梢血好塩基球からはアレルギー反応に重要なサイトカインの一つであるIL-4の産生を引き起こすこともわかりました

参 考

図1

(図1) ヒト汗からの抗原の精製

図1) ヒト汗からの抗原の精製。アトピー性皮膚炎患者好塩基球のヒスタミン遊離活性(A, B, 下段)を指標にカラム精製を行い、MGL_1304のアミノ酸配列の一部を検出(B, 上段)。

図2

図2組換えMGL_1304でヒト末梢血好塩基球を刺激

図2)換え組MGL_1304でヒト末梢血好塩基球を刺激。アトピー性皮膚炎患者好塩基球(AD1~3)はヒスタミンを遊離するが、健常人コントロール好塩基球(HC1~3)はヒスタミンを遊離しない。

さらに詳しい内容は、本日16時30分から(1時間程度)病院外来棟3F中会議室において、秀教授がご説明いたします。

お問い合わせ先

広島大学病院
特命広報・調査担当役 山内
電話:082-257-5418


up