簡便な方法で、従来の130倍高性能な光触媒の開発に成功!

平成25年7月23日

簡便な方法で、従来の130倍高性能な光触媒の開発に成功!
~安価で高性能な光触媒作製技術の普及に期待~

 

広島大学自然科学研究支援開発センターの齋藤健一教授らの研究グループは、酸化チタン光触媒の性能を飛躍的に増加させる手法を発見しました。この手法を用いると、従来よりも簡便な方法で、一般的な酸化チタン光触媒の約130倍、市販されている高性能酸化チタン光触媒の約60倍の性能を得ることができ、更に大量に合成することも可能になります。

酸化チタン(化学式:TiO2)光触媒は、その優れた性質により、ビルの窓や外壁のセルフクリーニング材料、住宅の防かび・防菌コート材料、エアコンの脱臭材、手術室の壁の滅菌材料等として、幅広く利用されています。齋藤教授らの研究グループは、物理化学的な合成法である高エネルギーボールミリング法1)を用いて、酸化チタン微粒子を作製し、光触媒としての性能(触媒能)を、メチレンブルー水溶液の還元反応2)で検証しました(図1)。その結果、通常の酸化チタン光触媒で2時間かかった反応が、今回開発した酸化チタン光触媒を用いると1分以内で完了することが明らかとなりました。これは約136倍の触媒能の増加に相当します。また、市販の高性能酸化チタン光触媒3)との比較実験でも、約62倍の触媒能の増加が観測されました(図2)。この著しい触媒能の増加は、高エネルギーボールミリング処理により微粒子化した酸化チタンの構造の半分以上を占める「乱れた構造」4)が原因となっていることが明らかとなりました。この酸化チタン中の「乱れた構造」では、周期構造、化学結合、結晶格子が寸断され、また特異的な結晶相も出現しています。それらの特異的な活性構造が触媒活性を高めたと考えられます。

この高性能な酸化チタン光触媒は、酸化チタンを機械的に粉砕するだけという極めて簡便な手法で作製可能なため、安価かつ高性能な光触媒の市場への提供、更には、超高性能な水質浄化、抗菌・防かびコート、大気浄化、脱臭等の材料として幅広い利用が期待されます。

本研究は、独立行政法人日本学術振興会の最先端・次世代研究開発支援プログラム(グリーン・イノベーション)に採択された研究課題「低コストで簡便なナノSi白色発光デバイスと高効率ナノSi太陽電池作製法の確立」の一環として行われたもので、国際的に権威のある応用物理学の速報誌「Applied Physics Letters」の最新号オンライン版で2013年7月18日に公開されました。

論文タイトル:130-fold enhancement of TiO2 photocatalytic activities by ball milling
著者:Ken-ichi Saitow and Tomoji Wakamiya
URL:http://apl.aip.org/resource/1/applab/v103/i3/p031916_s1

お問い合わせ先

広島大学自然科学研究支援開発センター 教授 齋藤健一
Mail:saitow@hiroshima-u.ac.jp
TEL:082-424-7487、FAX:082-424-7486
(できるかぎりメールでお問い合わせください)

@は半角に置き換えて送信してください。

用語説明

1)高エネルギーボールミリング法:
硬質容器に、固体試料と硬質ボールを一緒に入れ、試料をボールとともに高速回転(例えば、回転速度600 rpm以上)させ、機械的に粉砕し、試料を微粒子化する手法を指す。高エネルギーボールミリング法により、新材料や新反応が進行することが期待され、最近注目され始めている。

2)メチレンブルー水溶液の還元反応:
メチレンブルーは染料や抗菌剤として用いられる薬品であり、その溶液は鮮やかな青色を示すが、還元されると無色になる。反応による色の変化が顕著であり、反応の進行を明確に示すため、光触媒反応の性能評価によく用いられる。

3)市販の高性能酸化チタン光触媒:
比較実験に用いた市販の高性能酸化チタン光触媒は、世界的に最も有名でよく研究されている、ドイツのEvonik Degussa 社の「P25」である。

4)乱れた構造:
酸化チタンの構造は、アナターゼ型とルチル型の結晶系が有名である。本実験では、酸化チタンとしては珍しい、アモルファス構造とスリランカイト型の生成が観測された。前者は結晶とは異なるランダムな構造体である。後者は1GPa(約10、000気圧)以上の高圧でしか生成しない、特に珍しい結晶相である。

参考資料

(図1)
(a) 通常の酸化チタンを用いた場合

(図1) (a) 通常の酸化チタンを用いた場合

(b) 高エネルギーボールミリング処理を施した酸化チタンを用いた場合

図1(b) 高エネルギーボールミリング処理を 施した酸化チタンを用いた場合

メチレンブルーの吸収スペクトルの紫外線照射による時間変化。(a)のグラフでは、吸収ピークが半分程になるまで120分ほどかかることが分かるが、(b)のグラフでは吸収ピークが45秒の時点でほぼ消えることが分かる。このように、高エネルギーボールミリング処理を施した酸化チタンを用いると、圧倒的に速く(136倍速く)反応が進行することが分かる。

図2)
紫外線照射による吸光度の時間変化

図2) 紫外線照射による吸光度の時間変化

(1)高エネルギーボールミリング処理を施した酸化チタン
(2)市販の高性能酸化チタン光触媒
(3)通常の酸化チタン
速い時点での吸光度の減少は、反応が速く進行していることを示している。高エネルギーボールミリング処理を施した酸化チタンの信号の減衰が極めて速く、圧倒的に速く反応が完了することがわかる。すなわち、通常の酸化チタンの136倍、高性能酸化チタン光触媒の62倍の速さで反応が進行する。


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