(−)鎖RNAウイルスが「(−)鎖RNAウイルス」になる仕組みを発見!

平成25年11月6日

(−)鎖RNAウイルスが「(−)鎖RNAウイルス」になる仕組みを発見!

ポイント

  • (−)鎖RNAウイルスが実際に(−)鎖RNAを遺伝子として持ち「(−)鎖RNAウイルス」となるための、新しいメカニズム「センダイウイルスパラダイム」を提起した。

研究の概要

広島大学大学院医歯薬保健学研究院の坂口剛正教授・入江崇准教授らの研究グループは、(−)鎖RNAウイルスが実際に「(−)鎖RNAウイルス」となるための動的なウイルスRNA合成の制御メカニズムを世界で初めて明らかにしました。

ウイルスの世界には、一本の(−)鎖RNAをゲノムに持つモノネガウイルスと総称される数多くのウイルスが存在し、麻疹、流行性耳下腺炎、狂犬病、エボラ出血熱などさまざまな脅威の原因となっています。感染細胞の中でウイルスが増殖する際には、親ウイルスの持つ(−)鎖ゲノムRNAが(+)鎖アンチゲノムRNAにコピーされ、次いで、この(+)鎖RNAから子ウイルスの(−)鎖RNAがコピーされ、子ウイルスに取り込まれる、(−)鎖 →(+)鎖 →(−)鎖という経過が繰り返されます(図1)。

モノネガウイルスは、子ウイルスが(+)鎖を排除し(−)鎖を選択的に取り込む仕掛けを持たず、(+)鎖を取り込んだ欠陥ウイルスも出来てしまう事から、なぜ、どうやって「(−)鎖RNAウイルス」になるのか?という問題は、ウイルス学における大きな謎でした(図1)。

モノネガウイルスの一つである水疱性口内炎ウイルス(VSV)では、鋳型RNAの末端にあるプロモーター活性の差により、ウイルス複製期間を通して一定(およそ1:50)の割合で静的に(+)鎖および(−)鎖RNAが合成される結果、子ウイルスの大部分が(−)鎖RNAを持つことが明らかにされています。このVSVパラダイムが、他の全てのモノネガウイルスにも適用されるというのが、これまで長い間信じられてきた学説でした。

同研究グループは、モノネガウイルスの一つのマウスの呼吸器病ウイルスであるセンダイウイルスを用いて、ウイルス自らが持つ蛋白質(C蛋白質)が(+)鎖RNA合成に対して抑制的に作用することで、ウイルス感染の適切な時期に(+)鎖合成と(−)鎖合成の動的な切換えが生じ、結果として(−)鎖ゲノムRNA合成が優位になることを明らかにし、なぜ(−)鎖RNAウイルスが(−)鎖RNAウイルスであるのか?というウイルス学の大命題について、全く新しい機構である「センダイウイルスパラダイム」の提起に至りました(図2および3)。

波及効果

本研究成果は、さまざまな(−)鎖RNAウイルスの複製メカニズムに対する理解に新しい展開をもたらすものです。また、組換えセンダイウイルスを用いた実験から、C蛋白質の欠損やプロモーター部位に導入した変異によりRNA合成の切換えが効かなくなったウイルスでは、感染性ウイルスの産生量が著しく減少することから、この制御を担うウイルス蛋白質をターゲットとした抗ウイルス薬の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、平成25年10月30日発行の米国ウイルス学専門誌「Journal of Virology」の電子版で公開されました。また、同誌Vol.88, No.1に掲載予定です。

論文タイトル:Sendai virus C proteins regulate viral genome and antigenome synthesis to dictate the negative genome polarity
著者:Takashi Irie, Isao Okamoto, Asuka Yoshida, Yoshiyuki Nagai, Takemasa Sakaguchi
Doi:10.1128/JVI/-2798-13

図1:ウイルスのゲノム長RNA合成とウイルス粒子への非選択的取り込み

図1:ウイルスのゲノム長RNA合成とウイルス粒子への非選択的取り込み

図2:(-)鎖ウイルス感染における(-)鎖ゲノム及び(+)鎖アンチゲノムRNA

図2:(-)鎖ウイルス感染における(-)鎖ゲノム及び(+)鎖アンチゲノムRNA

図3:新規(-)鎖RNAウイルスRNA合成制御モデル(センダイウイルスパラダイム)

図3:新規(-)鎖RNAウイルスRNA合成制御モデル(センダイウイルスパラダイム)

問い合わせ先

広島大学大学院医歯薬保健学研究院 基礎生命科学部門ウイルス学研究室
教授 坂口 剛正(さかぐち たけまさ)、准教授 入江 崇(いりえ たかし)
TEL: 082-257-5157 FAX: 082-257-5159
E-mail: tsaka*hiroshima-u.ac.jp(坂口)、tirie*hiroshima-u.ac.jp(入江)
(E-mailの*は半角@に置き換えてください。)


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