新しい規則性を持つペロブスカイト型酸化物超伝導体を発見

2014年3月3日

国立大学法人山梨大学
国立大学法人東京工業大学
国立大学法人広島大学

新しい規則性を持つペロブスカイト型酸化物超伝導体を発見

トピック

  • 新規ビスマス酸化物超伝導体(Na0.25K0.45)(Ba1.00)3(Bi1.00)4O12を発見した。
  • A-サイトオーダーダブルペロブスカイト型構造における初めての超伝導物質である。
  • 高温超伝導体の探索や超伝導メカニズムの解明の新たな指針となる。

概要

山梨大学クリスタル科学研究センターの熊田伸弘教授、同センター田中 功教授、東京工業大学応用セラミックス研究所の東 正樹教授、広島大学大学院理学研究科の黒岩芳弘教授らの研究グループは、新規ビスマス酸化物超伝導体(Na0.25K0.45)(Ba1.00)3(Bi1.00)4O12を発見しました。この超伝導体はバリウムとナトリウムおよびカリウムが規則的に配列するA-サイトオーダーダブルペロブスカイト型構造(注1)であり、高温超伝導体探索およびメカニズムの解明に新たな指針を与えるものです。
この研究成果は、ドイツの科学誌「Angewandte Chemie International Edition(応用化学誌 国際版)」のオンライン版で2月27日(日本時間)に公開されました。

背景

超伝導体(注2)は、リニアモーターカーやMRIなどで用いられている重要な機能材料ですが、超伝導を示す温度が極低温であるため、冷却に膨大なエネルギーが必要です。この問題を解決する夢の材料「室温超伝導体」(注3)を目指し、これまでに銅系超伝導体、ビスマス系超電導体、鉄系超伝導体などさまざまな種類の高温超伝導体がこれまでに開発されています。また、高温超伝導発現メカニズムの解明は、科学的に重要な未解決問題の一つとなっています。

研究の経緯と研究成果

本研究では、人工水晶などの合成に用いられている水熱反応(注4)を用いることでナトリウム、カリウム、バリウム、ビスマス、酸素で構成されるペロブスカイト化合物を合成し、超伝導転移を27 Kで確認しました(図1)。また、圧粉体においてゼロ抵抗(注5)を確認しました。電子線回折とSPring-8を用いた高輝度放射光回折実験(注6)により、これまでに報告されているペロブスカイト型超伝導体とは異なり、A-サイトオーダーダブルペロブスカイト型構造と呼ばれる、長周期の結晶構造をもつことがわかりました(図2)。この構造中では、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物のAサイトが、バリウムを占めるサイトとナトリウムまたはカリウムが占めるサイトの二種類になり、通常のペロブスカイト型構造の二倍の周期性を持ちます。A-サイトオーダーダブルペロブスカイトは磁気抵抗効果(注7)、負の熱膨張(注8)など多彩な機能を示すことから近年注目を浴びている物質群ですが、超伝導が見つかったのはこれが初めてです。また、無機材料としては比較的低温の220 ℃で合成できることおよび毒性の強い元素が使われていないことも、この新規超伝導体の優れた特徴です。

今後の展開

この新規超伝導体の転移温度は低温ですが、組成や結晶構造を調整することによるさらなる超伝導転移温度の向上や、長周期規則性を持つ結晶構造と超伝導発現との関連性を解明することで、高温超伝導体探索の新たな指針となることが期待できます。

付記

本研究は、Rubel M.K. Mirza 山梨大学グリーンエネルギー変換工学特別教育プログラム博士課程2年生、三浦章 山梨大学助教、武井貴弘 同教授、M. Mozahar Ali 同研究生、長尾雅則 同助教、綿打敏司 同准教授、岡研吾 東京工業大学特任助教、馬込栄輔 広島大学大学院理学研究科助教、森吉千佳子同准教授、A. K. M. Azharul Islam ラジャヒ大学物理学科教授(バングラデシュ人民共和国)との共同で行われました。

用語説明

(注1)ペロブスカイト型構造:一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。本研究で発見されたA-サイトオーダーダブルペロブスカイトは二つのAサイトを持ち、A’A’’3B4O12で表される。
(注2)超伝導体:ある温度(転移温度:Tc)以下電気抵抗がゼロになる現象。基礎科学だけではなく、エネルギー分野、産業・輸送分野、医療分野、情報・通信分野など、幅広い領域で応用に向けた研究が行われている。
(注3)室温超伝導体:転移温度(Tc)が室温である超伝導体。これまでの超伝導体とは異なり冷却の必要がない。
(注4)水熱反応:高温高圧の熱水下で行われる化合物の合成手法。人工水晶やナノ材料の合成等に幅広く用いられている。
(注5)ゼロ抵抗:電気抵抗がなくなる超伝導特有の現象。
(注6)放射光回折実験:物質の構造を調べる方法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。結晶構造解析は、大型放射光施設SPring-8のBL02B2ビームラインで行われた。
(注7)磁気抵抗効果:外部磁場によって電気抵抗が変化する現象。
(注8)負の熱膨張:温めることで収縮する現象。

論文名

“Superconducting double perovskite bismuth oxide (Na0.25K0.45)(Ba1.00)3(Bi1.00)4O12 prepared by a low-temperature hydrothermal reaction”
「低温水熱反応より合成されたビスマス酸化物ダブルペロブスカイト超伝導体(Na0.25K0.45)(Ba1.00)3(Bi1.00)4O12」

問い合わせ先

山梨大学 クリスタル科学研究センター教授 熊田 伸弘
E-mail: kumada*yamanashi.ac.jp
TEL: 055-220-8615, FAX: 055-254-3035

東京工業大学 応用セラミックス研究所教授 東 正樹
Email: mazuma*msl.titech.ac.jp
TEL: 045-924-5315, FAX: 045-924-5318

広島大学大学院理学研究科教授 黒岩 芳弘
Email: kuroiwa*sci.hiroshima-u.ac.jp
TEL: 082-424-7397, FAX: 082-424-7398

(*は半角@に置き換えてください)

図1 合成された新規超伝導体の磁化率曲線

図1 合成された新規超伝導体の磁化率曲線。27 Kでの超伝導転移が確認できる。

図2 ペロブスカイト構造とA-サイトオーダーダブルペロブスカイト構造の模式図

図2 ペロブスカイト構造とA-サイトオーダーダブルペロブスカイト構造の模式図。ペロブスカイトは一種類のAサイトを持つが、A-サイトオーダーダブルペロブスカイト構造ではAサイトがA’とA”サイトの二種類のサイトを持つことで、二倍の周期構造を持つ。本研究で発見された超伝導体では、A’サイトにはナトリウムとカリウム、A”サイトにはバリウムが占有している。


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