プラスティック上での単結晶シリコントランジスタの動作に成功!

平成26年3月10日

プラスティック上での単結晶シリコントランジスタの動作に成功!
~しなやかなエレクトロニクスの普及に期待~

 

広島大学大学院先端物質科学研究科の東清一郎教授らの研究グループは、ペットボトル等に利用される安価なプラスティック上での単結晶シリコントランジスタの動作に成功しました。これは、水のメニスカス力(りょく)1)を利用してウエハ上の単結晶シリコン層を部分的に転写する新しく開発した技術を用いた手法で、この手法を応用してプラスティック上に作製したトランジスタは電界効果移動度609 cm2V-1s-1の高性能を示しました。この技術は、しなやかで曲げられるディスプレイや太陽電池、バイオセンサーといった新しいエレクトロニクスの普及にとって大きなブレークスルーになるものと期待されます。

シリコンはその半導体としての優れた特性から、集積回路、太陽電池、フラットテレビやスマートフォンの液晶画面などに広く利用されていますが、良質の結晶を成長させるためには高い温度が必要であるため、耐熱性の低いプラスティック等の基板上に単結晶シリコンを作る事は困難とされてきました。東教授らの研究グループは、市販されているシリコンウエハ(SOIウエハ)の単結晶シリコン層を水のメニスカス力を利用してプラスティックに転写する技術を着想し、150℃以下の低い温度で(100)面方位を有する単結晶シリコンをプラスティック(PET:ポリエチレンテレフタレート)上に形成する事に成功しました。更にこの単結晶シリコンを用いてPET上で高性能トランジスタを作製するプロセス技術を確立し、電界効果移動度609 cm2V-1s-1の高性能トランジスタの動作に成功しました。この研究成果は、これまで硬い(曲げることができない)基板上でしか作製することができなかった高性能電子デバイス(高度な演算やデータ処理、無線通信などの機能を有する集積回路等)を、しなやかなプラスティック基板上で実現できることを示唆しており、しなやかなエレクトロニクスという新しい技術分野を創生するきっかけとなることが期待されます。

本研究は、独立行政法人日本学術振興会の最先端・次世代研究開発支援プログラムの一環として行われたもので、技術の詳細は3月17日より青山学院大学相模原キャンパスにて開催される第61回応用物理学会春季学術講演会にて発表します(講演番号19a-D2-11)。また、本研究の成果は、米国の学術論文誌Applied Physics Lettersに2013年12月5日に掲載されました。

論文名:Fabricating metal-oxide-semiconductor field-effect transistors on a polyethylene
terephthalate substrate by applying low-temperature layer transfer of a
single-crystalline silicon layer by meniscus force
著者:Kohei Sakaike, Muneki Akazawa, Shogo Nakamura and Seiichiro Higashi
URL:http://scitation.aip.org/content/aip/journal/apl/103/23/10.1063/1.4837696

お問い合わせ先

広島大学大学院先端物質科学研究科 教授 東 清一郎
Mail:sehiga*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)
TEL:082-424-7655、FAX:082-422-7038
(できるかぎりメールでお問い合わせください)

用語説明

1)メニスカス力(りょく):
二枚の板に挟まれた微小空間内の液体により生じる引力。水の表面張力が起源。毛細管現象もメニスカス力により引き起こされる現象の一つ。

参考資料
(図1)

図1 メニスカス力(りょく)を用いたプラスティック(PET)基盤への単結晶シリコン層転写技術の概念図

(図2)

図2 abc
図3 ab


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