金星にプレートテクトニクスが存在しない原因について新たな粘性構造モデルを提唱!

平成26年3月12日

金星にプレートテクトニクスが存在しない原因について新たな粘性構造モデルを提唱!

概要

広島大学大学院理学研究科の片山郁夫准教授と東真太郎さん(博士課程後期3年)らの研究グループは、室内での岩石変形実験と数値計算の結果をもとに、金星にプレートテクトニクスが存在しないのは、内部での粘性構造が原因であるとの新たな説を提唱しました。地球ではプレートテクトニクスが働いているが故に、海が存在し生命が誕生しました。金星でプレートテクトニクスが働いていない原因が解明されれば、なぜ金星が地球と異なる進化を経ているのか、また他の惑星の進化や生命の存在に関して新たな知見が得られると期待されます。
この成果は、3月18日(日本時間)、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載される予定です。

論文タイトル:Rheological decoupling at the Moho and implication to Venusian tectonics
著者名:東真太郎、片山郁夫、中久喜伴益
所属:広島大学大学院理学研究科

背景

金星は、地球と大きさや内部構造が似ていることから兄弟星ともいわれていますが、近年の観測結果から、金星には地球にみられるようなプレートテクトニクス(*1)が働いていないことが分かりました。その原因として、これまでさまざまな説が提案されていますが、未だコンセンサスは得られていませんでした。
当研究グループは、惑星内部の粘性構造の違いがプレートテクトニクスの有無を左右しているとの仮説のもと、惑星内部の高温高圧条件を実験室で再現し(図1)、金星内部の粘性構造を求め、数値計算によりプレートテクトニクスの有無を検証しました。

研究成果の内容

金星の地殻とマントルの境界であるモホ面(*2)では、岩石の粘性強度に違いがみられ、モホ面より浅い地殻部分は柔らかいために潤滑層として働くことが分かりました(図2)。この場合、金星内部を対流する動きが、上部の地殻に伝わらないデカップリング(*3)が起きることが数値計算より明らかになりました。地球ではそのような粘性構造の違いがないため、表層のプレートがマントルまで運び込まれますが、金星では上述の潤滑層の存在のため、地殻が表面に取り残されるテクトニクスが起きていると予想されます(図3)。このように、惑星内部での粘性構造が、プレートテクトニクスの有無を支配していると考えられます。

今後の展望

今回の研究成果は、金星以外の地球型惑星や近年注目されているスーパーアース(*4)でプレートテクトニクスが働いているかどうかを検証するのにも有効であると考えられます。プレートテクトニクスは惑星の物質・熱循環とも密接に関わっており、海の形成や生命の誕生とも関連しています。つまり、地球外生命がいるかどうかも、プレートテクトニクスが他の惑星で存在するかに関わっているといっても過言ではありません。今後は、この研究成果を他の惑星にも応用し、地球以外の惑星でプレートテクトニクスが働いているかどうかを検証していきたいと考えています。

用語解説

(*1)プレートテクトニクス
地球の表面が何枚かの硬いプレートによって構成されており、そのプレートは対流するマントルに乗って移動しています。地球では、海嶺で新しいプレートが形成され、海溝で地球の内部に沈み込んでいきます。この地球を特徴づけるプレートの一連の運動をプレートテクトニクスと呼んでいます。

(*2)モホ面
地球内部は地殻・マントル・核という層構造をしており、モホ面は地殻とマントルの境界にあたり、岩石種が変化します。地殻は主にはんれい岩(主に斜長石)、マントルはかんらん岩(主にかんらん石)から構成されます。

(*3)デカップリング
ここでは運動力学的に分離という意味で用いています。つまり、デカップリングとは、マントルの対流や変形から地殻の部分が切り離されることを意味しています。

(*4)スーパーアース
太陽系外惑星のうち、地球の数倍以上の質量を持つが、地球と同じように岩石と金属などの物質からなると推定される巨大地球型惑星のことをスーパーアースといいます。

参考資料

図1:室内実験の模式的な概要と回収した実験試料

図1:室内実験の模式的な概要と回収した実験試料

図2:地球と金星内部の模式的な粘性(強度)構造

図2:地球と金星内部の模式的な粘性(強度)構造

図3:地球と金星内部の運動を模式的に示した図

図3:地球と金星内部の運動を模式的に示した図
お問い合わせ先

広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学
准教授 片山郁夫(かたやま いくお)
Tel:082-424-7468 FAX:082-424-0735
E-mail:katayama*hiroshima-u.ac.jp
(E-mailの*は半角@に置き換えてください。)


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