高温超伝導体機構の解明に繋がる新物質の合成に成功

平成26年8月12日

高温超伝導体機構の解明に繋がる新物質の合成に成功

概要

広島大学大学院理学研究科の西原禎文准教授、張笑さん(博士課程後期3年)、井上克也教授らを中心とする研究チームは、Cu2+と炭酸イオン(CO32-)を交互に配列させることで、高温超伝導体機構の解明に繋がるCu-O系分子性スピンラダー化合物(※1)の合成に世界で初めて成功しました。
今回開発した物質は、今後、スピンラダーのモデル物質として、高温超伝導体機構の解明に重要な役割を果たすと考えられます。
この成果は、英国王立化学会Dalton Transactions(平成26年9月14日号第43巻第34号)に掲載される予定です(オンライン版は既に公開されています)。

発表論文

著者
Xiao Zhang, Sadafumi Nishihara*,Yuki Nakano, Erina Yoshida, Chisato Kato, Xiao-Ming Ren, Kseniya Yu. Maryunina and Katsuya Inoue*
* Corresponding author(責任著者)

論文題目
A magnetically isolated cuprate spin-ladder system: synthesis, structures, and magnetic properties

掲載雑誌
Dalton Transactions(英国王立化学会)
DOI: 10.1039/c4dt01746c

研究の背景

超伝導体は超伝導転移温度(Tc)以下で電気抵抗が0(ゼロ)になるなどの特異な物性を示すことから、さまざまな分野で精力的に研究が行われています。この超伝導体の一種として、高い超伝導転移温度(High-Tc)を有する銅酸化物高温超伝導体(高温超伝導体)があります。銅酸化物高温超伝導体の中には、液体窒素温度以上のTcを有するものも数多くあり、現在、環境材料やリニアモーターカーなどへの展開が期待されています。しかし、高温超伝導体の発現機構は未だ完全には解明されておらず、現在でも、さまざまな観点からその解明を目指して研究が行われています。
このような背景の中、近年、高温超伝導体の母体と似通った物理的性質(物性)をもつスピンラダー物質が提案されました。この物質は、高温超伝導体内で超伝導発現の中心的な役割を果たすCu-O2シートを単純化した梯子(ラダー)状の構造を有しており(図1)、キャリアドーピングによる超伝導相の出現が理論的に指摘されています。

したがって、スピンラダーの物性が解明されれば、これが高温超伝導体機構の解明に繋がると期待されています。現在までに多くのスピンラダー物質が開発されましたが、高温超伝導体と相関の深いCu-O系スピンラダーは無機物で3種類の開発、分子性化合物では未だ報告されていません。これまでに開発された3種類の無機物のCu-O系スピンラダーの一つにおいて、実際に超伝導相が確認されたことから、Cu-O系スピンラダーの重要性がうかがえます。しかし、これら無機物スピンラダーは梯子構造が隣の梯子構造と接しているために、厳密な意味でスピンラダーといえるかどうかの議論があり、モデル物質として取り扱う上で、多くの問題がありました。
上記の理由から、理想的なスピンラダーのモデル物質と成り得る重要な性質として、「高温超伝導体と相関の深いCu-O系物質であること」「梯子構造間が十分に離れており、磁気的に孤立している必要があること」の2つの条件が挙げられます。

研究の内容

今回、広島大学大学院理学研究科の西原禎文准教授、張笑さん(博士課程後期3年)、井上克也教授らを中心とする研究チームは、分子性化合物で、上記の2条件を満たしたCu-O系の分子性スピンラダー化合物の合成に成功しました。
具体的には2つのCu2+と1つのCO32-を交互に積層させることで、ラダー骨格が生成されます(図2(a))。ラダー構造内ではCu2+間をCO32-イオンの酸素原子が架橋することで、梯子の桁(けた)、足(あし)方向共にCu-O-Cuから構成されました。一方、ラダー間にはカウンターアニオン(ClO4-)が存在するために、各々のラダー構造間の磁気的な相互作用は完全に切断されました(図2(b))。実際、この物質の磁化率曲線は磁気的に孤立したスピンラダーモデルで良く再現されました。したがって、本研究で得られた化合物は、純粋なスピンラダーを研究する上で非常に良いモデル物質となり得ると考えられます。また、本化合物の物性解明が進めば、未だ明らかになっていない銅酸化物高温超伝導体の機構解明に繋がることが期待できます。

波及効果と今後の展開

今回開発した物質は、今後、スピンラダーのモデル物質として、高温超伝導体機構の解明に重要な役割を果たすと考えられます。そのため、今後、より詳細な物性測定を行い、基底状態や磁気構造の解明を目指します。
また、スピンラダー物質はキャリアドーピングによる超伝導相の出現が理論的に指摘されていることから、本系へのキャリアドーピングを目指します。これにより、新種の超伝導体である分子性スピンラダー超伝導体の合成を目指します。

参考資料

図1.(a)銅酸化物高温超伝導体に含まれるCu-O2シート。(b)Cu-O2シートを単純化することで得られるスピンラダー構造。
図2.(a)Cu2とCO32-からなるスピンラダー構造。(b)スピンラダー構造を含む結晶構造図。

用語の解説

※1 スピンラダー化合物
銅酸化物高温超伝導体内で超伝導発現の中心的な役割を果たすCu-O2シートを単純化した梯子(ラダー)状の構造を有した物質。Cu-O2シートからCu-O鎖を一列ずつ減らしていくと最終的には一本のCu-O鎖(一次元Cu-O鎖)になる。このとき、Cu-O2シートと一次元Cu-O鎖の中間に属する物質がスピンラダー化合物である。

お問い合わせ先

広島大学大学院理学研究科
准教授 西原 禎文(にしはら さだふみ)
TEL:082-424-7418
E-mail:snishi@hiroshima-u.ac.jp

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