アントシアニン色素蓄積を制御する転写因子の機能が植物間で保存されていることを証明

平成26年9月26日

アントシアニン色素蓄積を制御する転写因子の機能が植物間で保存されていることを証明

研究成果のポイント

  • シロイヌナズナ(アブラナ科)の表皮細胞分化関連遺伝子をトマト(ナス科)に導入し解析
  • シロイヌナズナの遺伝子がトマトでもアントシアニン蓄積を制御することを証明
  • アントシアニンをはじめとする有用物質の産生向上への貢献に期待

概要

広島大学大学院生物圏科学研究科冨永 るみ講師らの研究グループは、シロイヌナズナ(アブラナ科のモデル植物)の表皮細胞(植物の一番外側の細胞層)形成に関わる2種類の転写因子(特定の遺伝子群の発現開始を制御する重要な制御タンパク質)をトマトに遺伝子導入し、2つの転写因子がトマト内でも同様の機能を発揮し、アントシアニンの蓄積に影響を及ぼすことを明らかにしました。

この発見で、アブラナ科のシロイヌナズナとナス科のトマトで、アントシアニン蓄積が共通の遺伝子機能により制御されていることを明らかにしました。一方、トマトの根毛やトライコーム(葉の表面に生える毛)の形成は、シロイヌナズナの遺伝子導入では変化しなかったことから、異なる制御機構があることがわかりました。

今後は、表皮細胞分化およびアントシアニン蓄積を制御するメカニズムの植物種による違いを明らかにし、進化的に検証したいと考えます。また、本研究の成果は、アントシアニンをはじめとする有用物質の産生向上や観葉植物の作出にも将来役立つと期待されます。

本研究成果は、米国の科学誌「PLoS ONE」(http://www.plosone.org/)に、平成26年10月1日(日本時間)に掲載される予定です。本論文はオープンアクセス出版であり、インターネット上で無料で閲覧出来ます。

発表論文

著者
Takuji Wada, Asuka Kunihiro and Rumi Tominaga-Wada

論文題目
"Arabidopsis CAPRICE (MYB) and GLABRA3 (bHLH) Control Tomato (Solanum lycopersicum) Anthocyanin Biosynthesis"

研究の背景

これまでの研究により、シロイヌナズナでは、アントシアニン蓄積制御に関して「GLABRA3(GL3)(*1)」および「CAPRICE(CPC)(*2)」という2種類の転写因子の存在が報告されています。GL3はアントシアニン量を増加させるのに対し、CPCがアントシアニン量を減少させます。
アントシアニンは、主に植物の表皮細胞に蓄積される赤紫色の色素で、ブドウやブルーベリーの色の原因物質です。一般的に、眼精疲労や筋疲労抑制に効果があるとされ、最近では健康食品等にも用いられています。
今回の研究では、モデル植物であるシロイヌナズナを用いた基礎研究で明らかにした転写因子の機能が、作物に応用できるかどうかを明らかにするために、トマトでの転写因子の働きを調べました。

研究の内容

今回、GL3とCPCの2種類の遺伝子をトマトに導入したところ、GL3がトマトのアントシアニン量を増加させ、CPCがトマトのアントシアニン量を減少させるという、シロイヌナズナで得られたものと同様の結果を得ることができました。
特に、この効果は葉や茎で顕著で、GL3を導入したトマトでは、葉の葉脈のところに紫色の色素(アントシアニン)が蓄積しているのが見られるのに対し、CPCを導入したトマトの葉では、そのような色素の蓄積は野生型よりも少なくなりました。

(図1)GL3を導入したトマトの葉

(図1)GL3を導入したトマトの葉

(図2)CPCを導入したトマトの葉

(図2)CPCを導入したトマトの葉

 

アントシアニンは、何段階もの酵素の働きによって合成されています。GL3やCPCは、これらの酵素群の発現を制御するマスター遺伝子です。これらの酵素群に対するGL3やCPCの働きかけ方についても、リアルタイムPCR(*3)という手法を用い、シロイヌナズナとトマトで同様の結果が得られることを確認しました。

今後の展開

今回の研究でGL3とCPCのアントシアニン蓄積に関する効果は、シロイヌナズナ(アブラナ科)とトマト(ナス科)で同様であることがわかりました。
今後、他の植物種においても、この機構が保存されていないか調査することにより、双子葉植物の進化や分類に関して考察できると考えています。
また、本来シロイヌナズナでは、GL3とCPCは、葉にある毛(トライコーム)や根にある毛(根毛)の形成に関わっていることで知られていました。ところが、トマトでは、この2つの遺伝子は、毛の形成には関与していないようです。この2つの遺伝子が毛の形成に関与している植物種とそうでない種を分類していくことも興味深い研究だと考えています。

用語の解説

(※1)GLABRA3(GL3)
GL3はbHLH型転写因子をコードするシロイヌナズナの遺伝子。シロイヌナズナの表皮細胞において、根毛形成抑制、トライコーム形成促進、アントシアニン合成促進等の機能がある。

(※2)CAPRICE(CPC)
CPCはMYB型転写因子をコードするシロイヌナズナの遺伝子。シロイヌナズナの表皮細胞において、 GL3とは逆に、根毛形成促進、トライコーム形成抑制、アントシアニン合成抑制等の機能がある。

(※3)リアルタイムPCR
遺伝子発現量を調べる手法。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅をリアルタイムで測定し、増幅率により発現量を解析する。同一遺伝子の発現量を異なるサンプル間で比較することができる。

お問い合わせ先

広島大学 大学院生物圏科学研究科
講師 冨永 るみ (トミナガ ルミ)
Tel&FAX:082-424-7966
E-mail:rtomi*hiroshima-u.ac.jp
研究室HP:http://home.hiroshima-u.ac.jp/shokkan/

(E-mailの*は半角@に置き換えてください。)


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