平成26年12月24日
国立大学法人広島大学
独立行政法人産業技術総合研究所
記 者 説 明 会 の ご 案 内
広島大学が産・官の協力を経て開発したトランジスタモデル
「HiSIM-SOTB」が日本で4つめの国際標準に選定-迅速な開発シナリオの実現
広島大学HiSIM研究センターが独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研という)をはじめとする産・官の協力を得て開発したトランジスタコンパクトモデル(注1)「HiSIM-SOTB(Hiroshima university STARC IGFET Model-Silicon-on-Thin BOX)」が、2014年6月20日に米国・ワシントン市で開催されたSilicon Integration Initiative (Si2) 、Compact Modeling Coalition (CMC)(注2)会議において、約2年にわたる国際標準化活動を経て国際標準モデルに選定され、2014年12月18日に、産業界の利用に耐える標準モデルとして公開されることが決定しました。この決定を受けて、広島大学は、2015年1月9日からHiSIM-SOTBをHiSIM研究センター・ホームページ(http://www.hisim.hiroshima-u.ac.jp/)にて一般公開します。これにより、極低電圧分野の集積回路回路設計・製品開発に迅速に対応できる体制が整います。
極薄膜SOIトランジスタの開発は世界的に進められ、その実用化を前に2010年にCMCで極薄膜SOIトランジスタの標準トランジスタモデル選定が開始されました。CMCでは、大学が研究開発したモデルを企業が実際の集積回路設計に使えるかという視点から評価します。2012年末に、最終候補に残った広島大学のHiSIM-SOTBとカリフォルニア大学バークレー校のBSIM-IMGの評価が始まりました。モデル評価の主担当は、HiSIM-SOTBは産総研が、BSIM-IMGはSTMicroelectronicsが行いました。評価期間を1年間延長してモデルの改良と評価を進めた結果、最終的に両モデルともCMCの要求仕様を満足したという評価結果が承認され、HiSIM-SOTBとBSIM-IMGの2つが極薄膜SOIトランジスタの標準トランジスタモデルに選ばれました。
また、LEAPが実施するNEDOプロジェクトの中で、産総研や国内大学はLEAPで試作する大規模論理回路やアナログデジタル混載回路のシミュレーションにHiSIM-SOTBを活用し、デバイスのメリットを明らかにしたり、極低電圧動作の実証に取り組んだりしました。これを通して、実際の回路設計用コンパクトモデルとしてのHiSIM-SOTBの安定性と実用性の高さは、CMCのみならず国内連携機関でも高く評価されました。
研究チームが限られた時間内で問題を解決し、HiSIM-SOTBを標準化に足る完成度にまで開発できた理由は、これまでの標準化活動を通して、産・官・学それぞれの強みを生かす協力体制を迅速に構築できたためといえます。
デバイスが完成したときに、すでにそれらの回路特性評価も終わり、大規模回路設計ができる環境が整ったという理想的なシナリオを実現することができました。
これは今後設計力がさらに重要になってくる、あらゆるタイプのトランジスタに対しても実現可能で、産・官・学それぞれの強みを生かす協力体制を築くことによって、省エネ半導体分野において国内企業が世界に先行する鍵を握ることが期待できます。
本研究成果につきまして、下記のとおり、記者説明会を開催しご説明いたします。ご多忙とは存じますが、是非ご参加いただきたく、ご案内申し上げます。
記
日時: 平成27年1月9日(金)14:00~15:00
場所: キャンパス・イノベーションセンター5階 508号室
(広島大学東京オフィス 同センター4階 TEL:03-5440-9065)
出席者: マタウシュ・ハンス ユルゲン(広島大学 HiSIM研究センター長(ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 教授)
三浦 道子(広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授)
坂本 邦博(独立行政法人産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門)
注1 トランジスタコンパクトモデル
集積回路回路設計に用いられるトランジスタの端子に電圧をかけた時に端子を流れる電流量などの特性を数式で記述したモデル。回路シミュレーターから呼び出され、与えられた端子電圧に対して端子電流を返す。大規模回路のシミュレーションを行うために、正確性と高速性のバランスが求められる。
HiSIMの特徴:世界初の物理原理に基づくモデル
注2 Silicon Integration Initiative (Si2), Compact Model Coalition (CMC)
Si2は、半導体設計技術の標準化を進める非営利団体。半導体業界を中心に世界の約80社が参加。本部は米国テキサス州オースチン。CMCは、その中で、コンパクトモデルの国際的・非排他的標準化を行い、その普及を図ることを目的とする活動。約40社の有力半導体メーカーとEDAベンダーが参加している。主に大学が開発したモデルを、産業界の実用条件で評価して最良のものを標準モデルとして選定し、選定されたモデルの開発・維持を技術・資金両面で支援する。標準モデルは商用のツールに組み込まれ幅広く流通している。現在広く使われているMOSFETのモデルBSIMや高耐圧MOSFETモデルHiSIM_HVは、CMCの標準モデルとなったことで普及した。