ナノシリコンを発光体とする次世代型の青白色LEDを開発!

平成27年5月20日

 

ナノシリコンを発光体とする次世代型の青白色LEDを開発!

ポイント

  •  次世代型LEDである無機・有機ハイブリッドLED、薄型(厚さ0.5mm程)
  •  主な製法は、常温・大気圧下での溶液の塗布
  •  発光強度は先行研究の350倍、発光面積は一般的なLED素子の40倍

概要

広島大学自然科学研究支援開発センターの齋藤健一(さいとうけんいち)教授、理学研究科の辛韵子(しんいんし)大学院生らの研究グループは、ナノシリコン(シリコン量子ドット)を発光体とする青白色LEDの開発に、世界で初めて成功しました。
これまでのシリコン量子ドットを発光体とするLEDの研究では、赤色、赤外線の報告はありましたが、白色系、青色系は本研究が世界初となります。

シリコンは電子デバイスの基幹材料ですが、原料は砂・石です。従って、シリコンを発光体に用いると原料は無尽蔵でかつ環境に優しく、またレアアースフリー の発光体になります。製造法は簡便で、シリコン量子ドット溶液、高分子溶液を基板に塗布・乾燥する手法です。今後、次世代LEDとして照明、フレキシブル ディスプレーなどへの応用も期待できます。
なおこの研究は、研究プロジェクト、内閣府 最先端・次世代研究開発支援プログラム(グリーンイノベーション)における「低コストで簡便なナノSi白色発光デバイスと高効率ナノSi太陽電池製作法の確立」による成果になります。

<ご連絡事項>
研究成果は、2015年5月20日(米国時間)発行の科学速報誌「Applied Physics Letters」(http://scitation.aip.org/content/aip/journal/apl)のオンライン版で公開されます。掲載誌のプレス解禁日時は、5月21日午前1時(日本時間)(米国時間・ニューヨーク5月20日正午)となっておりますので、ご協力方よろしくお願いいたします。

お問い合わせ先

広島大学自然科学研究支援開発センター
教授 齋藤 健一
TEL:082-424-7487
E-mail:saitow@hiroshima-u.ac.jp(@は半角に置き換えて下さい)

 

概要

広島大学自然科学研究支援開発センターの齋藤健一教授、理学研究科の辛韵子大学院生らは、シリコン(Si)の量子ドット(用語1)を発光体とする青白色LEDの開発に、世界で初めて成功した。LEDの主な製造法は溶液プロセス(用語2)であり、またLEDのタイプは次世代型のハイブリッドLED(用語3)である。
開発したLEDは、低電圧(6V)で青白色のエレクトロルミネッセンス(用語4)で発光する。また、LEDの発光強度の80%程がSi量子ドットからで、発光強度は先行研究の350倍である。なお発光面積は2mm角で、市販されている一般的なLED素子の発光面積(0.3mm角)と比較すると、40倍以上大きい。また薄型LEDでもあり0.5mm程の厚さである。これらの優れた性能は、本研究で作製したSi量子ドットの性能と、LEDの成膜プロセスの最適化による。
そのほか、1)日本が世界に誇る技術と経験を有する半導体SiをLEDの発光材料とし導入、2)発光体にレアアースを用いないこと、ともに大きな特色といえる。今後、平面や曲面での照明、薄型のフレキシブルディスプレー、蛍光体などへの応用が期待される。
この研究は、内閣府 最先端・次世代研究開発支援プログラム(グリーンイノベーション)における「低コストで簡便なナノSi白色発光デバイスと高効率ナノSi太陽電池製作法の確立」による成果であり、 2015年5月20日(米国時間)発行の科学速報誌「Applied Physics Letters」(http://scitation.aip.org/content/aip/journal/apl)のオンライン版で公開される。

背景

エネルギーの多極化と安定供給が世界中で求められ、震災後、これらの重要性が日々増加していることはいうまでもない。経済産業省のエネルギー白書 (2014)によると、国内の使用電力の50%程を電灯が占める(図1)。これは、照明の省電力化が消費電力を大幅に低下し、持続可能な社会の形成に極めて重要であることを示している。一方、無機物質のLEDは、長寿命、高効率、低電力の光源として最近10年で急速に普及し、2014年には青色LEDの研究・開発として日本人研究者にノーベル物理学賞が授与された。
Siは、パソコン・車・携帯電話をはじめ、電気を動力源とする電化製品には、ほとんど全てに使用されている。また、Siは太陽電池や光検出器などの光電変換素子として実用化されているが、発光素子は実用化されていない。その理由は、バルクSiの電子構造による。すなわち、発光強度が弱く発光波長は肉眼で見 えない赤外線であることによる。その一方、量子ドットは粒子サイズを変えることで発光波長を制御できる。また量子ドットは無機半導体を材料とし、高耐久な 次世代発光体としても注目されている。近年、カドミウム系量子ドットは一部のTVで蛍光体として導入されはじめ、またII-VI族、 III-V族などの化合物半導体は、ハイブリッドLEDの光源として、ここ数年精力的に研究されている。
我々の研究グループは、2009年に三原色で発光するSiナノ粒子の製法を報告した。その後、白色で発光するSi量子ドット分散溶液の作製に成功した。また、最先端・次世代研究開発支援プログラムのプロジェクト研究の採択(2011年)により、ハイブリッドLEDの作製と評価を行うための研究の設備・環境が整い、今回の成功へとつながった。

図1 国内における電力,電灯使用電力量の推移

図1 国内における電力、電灯使用電力量の推移 (経済産業省エネルギー白書2014より抜粋)

 

研究手法と成果

Si量子ドットは液相パルスレーザーアブレーション法(用語5)で製造した。Si量子ドットは、透過型電子顕微鏡、動的光散乱、フォトルミネッセンススペクトル、赤外吸収スペクトル、X線光電子分光測定により、構造と物性の評価を行った。ハイブリッドLEDは、以下の製法で作製した。まず、ITO透明電極付きガラスを洗浄し、そこに導電性高分子であるPEDOT:PSS溶液(ホール注入層)、導電性高分子Poly-TPD溶液(ホール輸送層)、Si量子ドット溶液を、それぞれ順番に塗布・乾燥して成膜した。その後、Alq3(電子注入層)、アルミ電極を蒸着し、作製した。
図2は、Si量子ドット溶液の写真とCIE図(用語6)である。これらの結果から、発光は白色または青白色であることがわかる。図3(a)は、ハイブリッドLEDの写真と模式図である。LEDの厚さは0.5mm程で、電極以外は透明で面発光型であることがわかる。発光面積は2mm角で、市販されている一般的なLED素子の発光面積(0.3mm角)と比較すると、40倍以上大きい。図3(b)は、ハイブリッドLEDのELスペクトルである。可視領域(400-600 nm)で広く発光していることがわかる。この発光強度は、類似の先行研究より350程強い。

図2 (a)Si量子ドット溶液の写真、(b)発光のCIE図

図2 (a)Si量子ドット溶液の写真(左:光照射前、右:光照射中)、(b)発光のCIE図

図3 (a)Si量子ドットハイブリッドLEDの写真と模式図

図3 (a)Si量子ドットハイブリッドLEDの写真と模式図

"Reproduced with permission from [White-blue electroluminescence from a Si quantum dot hybrid light-emitting diode, Appl. Phys. Lett. 106, 201102 (2015)]. Copyright [2015], AIP Publishing LLC.”     

 

(b)Si量子ドットハイブリッドLEDのELスペクトル

(b)Si量子ドットハイブリッドLEDのELスペクトル(赤実線)、波線は各成分の発光(青:Si量子ドット、緑とオレンジは有機薄膜)

今後の展開

現在、複数の方法でSi量子ドットならびにLEDの作製を行っている。今後は、更に高強度・高効率であるSi量子ドットとハイブリッドLEDを開発する。また、高強度・高効率化に必要な構造・物性についても研究してゆく。

 

用語説明

用語1:量子ドット    半導体などの物質で数ナノメートルの粒状の構造を作ると、励起子はその領域に閉じ込められ、バルクの電子構造と大きく異なる。特に、粒子サイズにより電子遷移エネルギーが変わる特徴がある。換言すると、同一物質でも粒子サイズにより発光色を自由に制御できるようになり、次世代の発光体として大変期待されている。

用語2:溶液プロセス    LEDや太陽電池の製造には、クリーンルーム、真空、1000度以上の加熱が必要となることが多い。溶液プロセスは大気圧下での溶液の塗布、100度程の低温での10分程の加熱により、LEDや太陽電池を製造する手法である。簡便なデバイス製造法で、設備投資も最小限であるため、デバイスの安価な製造法としても期待されている。

用語3:次世代型LED    商品化されている無機LEDや有機ELの次世代となるLEDを指す。最近数年、半導体量子ドットと導電性高分子からなるハイブリッドLEDが、世界中で精力的に研究されている。特に、無機発光体による高耐久性と溶液プロセスによる製法が期待されている。

用語4:エレクトロルミネッセンス    物質に電界をかけることで発光する現象である。エレクトロルミネッセンスはELと省略される。現象としては、電子と正孔を電界注入しそれらが再結合することによる発光を指す。

用語5:液相パルスレーザーアブレーション法 高強度なパルスレーザーを固体に照射すると、固体表面付近の原子や分子が高密度に高エネルギー状態になる。その後、蒸発・電離などの物理・化学過程を経て、最終的に数100m/sで表面から物質が噴出する。これをパルスレーザーアブレーションとよぶ。そのアブレーションを、液体中で行いナノ粒子を製造する手法である。

用語6:CIE図 国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage) が策定した色度図。LEDの発光色などを定量化する際に用いられる。

 

掲載雑誌名、論文名および著者名

Applied Physics Letters、
White-blue electroluminescence from a Si quantum dot hybrid Light-emitting diode(Si量子ドットハイブリッド発光ダイオード(LED)からの青白色の電界発光)、
Yunzi Xin、 Kazuyuki Nishio、 and Ken-ichi Saitow.

研究内容に関するお問合せ

広島大学 自然科学研究支援開発センター 教授 齋藤 健一
広島大学 大学院理学研究科・化学専攻 教授(併任)
E-mail: saitow@hiroshima-u.ac.jp(@は半角に置き換えて下さい)
TEL: 082-424-7487  FAX: 082-424-7486
URL: http://home.hiroshima-u.ac.jp/saitow/ (または「光機能化学」で検索)

研究支援

最先端・次世代研究開発支援プログラム
URL: http://www8.cao.go.jp/cstp/sentan/about_jisedai.html


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