白血病細胞の増殖制御に 長鎖非コードRNA CCDC26が関与する可能性

平成27年6月2日
 

白血病細胞の増殖制御に 長鎖非コードRNA CCDC26が関与する可能性

本研究成果のポイント

  • 長鎖非コードRNA(long noncoding RNA: 以下、lncRNA)(*1)の遺伝子CCDC26からの転写物が骨髄性白血病細胞株の核に集積していることを発見した。
  • 骨髄性白血病細胞内のCCDC26を遺伝子ノックダウン(*2)することにより、その細胞の低血清/無血清条件下で増殖能、生存率の上昇が見られた。
  • CCDC26遺伝子ノックダウン細胞で受容体型チロシンキナーゼKIT(*3)の顕著な活性化が見られた。

概要

広島大学大学院総合科学研究科平野哲男助教らの研究グループは、骨髄性白血病細胞においてCCDC26が受容体型チロシンキナーゼKITの活性化に関与している可能性を明らかにしました。

lncRNAの1つであるCCDC26は急性骨髄性白血病(以下、AML)の中でも、特に小児AMLにおいて増加する頻度が最も高い遺伝子であり、従来からAMLとの関連性が示唆されていますが、白血病細胞の増殖との関係は不明でした。
平野哲男助教らの研究グループは、バイオデータベース解析と生化学実験によって骨髄性白血病細胞内でCCDC26が活発に転写されている領域を同定し、CCDC26転写物が細胞核に集積していることを発見しました。
このCCDC26の遺伝子をノックダウンすると、低血清/無血清条件下で骨髄性白血病細胞の増殖能、生存率が非ノックダウン細胞に比べて上昇しました。
同時に、CCDC26遺伝子ノックダウン細胞では、がん遺伝子である受容体型チロシンキナーゼKIT(以下、KIT)の発現が顕著に上昇しました。
このことにより、CCDC26は、KITを制御していることと、小児AMLでみられるCCDC26の変異がKITの発現を通して骨髄性白血病細胞の増殖に影響を及ぼしていることが示唆されました。

今後、さらにCCDC26の機能の解明が進み、臨床実験に発展すれば、CCDC26遺伝子が変異した骨髄性白血病への治療戦略に指針を与えることが期待できます。

受容体型チロシンキナーゼKITの発現

図 受容体型チロシンキナーゼKITの発現(赤色の部分)
(Graduate School of Integrated Arts and Science, Hiroshima University)

 

発表論文

著者
Tetsuo Hirano*,  Ryoko Yoshikawa, Hironori Harada,  Yuka Harada、 Atsuhiko Ishida and Takeshi Yamazaki
* Corresponding author(責任著者)
論文題目
Long noncoding RNA, CCDC26, controls myeloid leukemia cell growth through regulation of KIT expression.
掲載雑誌
Molecular Cancer 2015, 14:90 doi:10.1186/s12943-015-0364-7

研究の背景

通常、細胞のゲノムから転写されたメッセンジャーRNA (mRNA) はタンパク質に翻訳されて機能しますが、lncRNAはmRNAと同程度の長さをもちながらタンパク質には翻訳されず、それ自体が転写制御などさまざまな機能を持つと考えられています。しかし、個々のlncRNAの機能は、ごく一部を除いてまだほとんど解明されていません。その一方で、lncRNAが、がんを始めとした様々な疾患に関係しているという報告が近年急速に増えています。
lncRNAの1つであるCCDC26についても、これまでその機能はよく分かっていませんでした。
本研究では、バイオデータベース解析と生化学実験によって骨髄性白血病細胞内でCCDC26が活発に転写されている領域を同定すると同時に、CCDC26の機能的解析を行いました。

研究成果の内容

平野哲男助教らの研究グループは、CCDC26転写物が骨髄性白血病細胞株の核に集積していることを発見しました。その機能を調べるために遺伝子ノックダウン(KD)を行い、CCDC26の発現が元の細胞より1%以下まで抑制された細胞を単離しました。これらのKD細胞は高血清培養条件化では非ノックダウン(non-KD)細胞に比べ若干の細胞増殖の遅れが見られましたが、低血清条件下では、KD細胞の増殖能は逆に大きくなり、また、無血清条件下においてはKD細胞の生き残り期間は延長しました。DNAマイクロアレイと定量PCRにより、KD細胞とnon-KD細胞で発現に差のある遺伝子をスクリーニングしたところ、受容体型チロシンキナーゼKITがKDクローンにおいて顕著な活性化を受けていることがわかりました。KITは白血病のみならずさまざまながんにおいて活性化を示すがん遺伝子です。KD細胞をKIT阻害剤であるISCK03 で処理したところ、無血清条件下における生存期間延長は解除されました。
この結果はCCDC26の制御ターゲットの一つが受容体型チロシンキナーゼKITであり、KITの制御を通じて細胞増殖を調節していることを示唆しています。

今後の展開

KITはよく知られたがん遺伝子であり、小児AMLの化学治療後の再発にも関係していると言われています。また、AMLは多様な性質を示す疾患で、複雑な遺伝子の変異を持ち、それぞれに応じた治療法を確立しなければなりません。本研究から、CCDC26に変異の見られるAMLに対して、KITを標的とした治療法が有効であると考えられます。
今後、さらにCCDC26の機能の解明が進み、臨床実験に発展すれば、CCDC26遺伝子が変異した骨髄性白血病への治療戦略に指針を与えることが期待できます。

 

用語解説

(*1)長鎖非コードRNA:全転写物解析プロジェクトにより、ヒトを始めとする動物細胞にはタンパク質をコードしない多くのRNAが存在することがわかった。これらを非コードRNAと呼び、特に200塩基を超える程度の長さを持つものを長鎖非コードRNAと呼んでいる。

(*2)遺伝子ノックダウン:RNA干渉法などにより特定の遺伝子発現を抑制する技術。

(*3)受容体型チロシンキナーゼ:細胞膜貫通型タンパク質の1グループで、細胞外側部分で増殖因子に対する受容体として機能し、その情報は細胞質側部分のリン酸化(キナーゼ)活性として伝達される。

研究に関するお問い合わせ先

広島大学大学院総合科学研究科 助教 平野 哲男
TEL:082-424-6562 FAX:082-424-0759
E-mail:thirano*hiroshima-u.ac.jp
(*は半角@に変換して送信してください)

報道に関するお問い合わせ先

広島大学学術・社会産学連携室広報グループ 三戸 里美
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E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp
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