慢性皮膚粘膜カンジダ感染とマイコバクテリア感染をともに起こしやすく 発症原因が不明な原発性免疫不全症の原因遺伝子の同定に成功

平成27年7月31日

記 者 説 明 会 (8月4日14時・東京)の ご 案 内

慢性皮膚粘膜カンジダ感染とマイコバクテリア感染をともに起こしやすく発症原因が不明な原発性免疫不全症(*1)の原因遺伝子の同定に成功
~先天的な免疫疾患の治療に光~

研究成果のポイント

  • ヘルパーT細胞に属するTh17細胞(*2)のマスター転写因子であるRORC遺伝子(*3)の先天的な異常により、免疫系が障害され、慢性粘膜皮膚カンジタ感染(CMC)とマイコバクテリア感染を起こしやすくなることを発見しました。
  • ヒトにおいて、Th17細胞が産生するIL-17を介したカンジダに対する粘膜免疫と、IFN-γ産生を介したマイコバクテリアに対する全身性免疫応答に、RORCという遺伝子が必須であることを発見しました。

概要

広島大学大学院医歯薬保健学研究院小児科学の岡田賢講師は、同研究院小林正夫教授の指導のもと、米国ロックフェラー大学のJean-Laurent Casanova教授らと共同研究を行い、CMCとマイコバクテリアに対する易感染性を合併する原発性免疫不全症の原因となる遺伝子の同定に成功しました。
近親婚の3家系7人の患者に対し遺伝子解析を行った結果、全員がRORC遺伝子のホモ接合性変異を有していました。同定されたRORC遺伝子変異は、機能が完全に失われるタイプの変異でした。RORC遺伝子の機能が欠損した(RORC-/-)患者は、IL-17を産生するT細胞が欠損しており、このことがCMC発症の原因と考えられました。
一方、RORC-/-患者におけるマイコバクテリアに対する易感染性は、マイコバクテリアに対する抗原特異的なIFN-γ産生障害に起因していました。
RORC遺伝子異常による原発性免疫不全症の発見により、カンジダに対する粘膜免疫、マイコバクテリアに対する全身性免疫応答にRORC遺伝子が必須であることが明らかとなりました。さらに、患者におけるマイコバクテリア感染にIFN-γの投与が有用な可能性が見いだされました。
今回の発見は、RORC異常による原発性免疫不全症の病態・予後の解明とともに、治療法の確立につながると期待されます。
本研究成果は2015年7月9日発行の米国の科学誌「Science」のオンライン版に掲載されました。

論文情報

雑誌名:Science
論文タイトル:Impairment of immunity to Candida and Mycobacterium in humans with bi-allelic RORC mutations
著者名:Satoshi Okada, Janet G. Markle, Elissa K. Deenick, Federico Mele,Dina Averbuch, Macarena Lagos, Mohammed Alzahrani, Saleh Al-Muhsen, Rabih Halwani, Cindy S. Ma, Natalie Wong, Claire Soudais, Lauren A. Henderson, Hiyam Marzouqa, Jamal Shamma, Marcela Gonzalez, Rubén Martinez-Barricarte, Chizuru Okada, Danielle T. Avery, Daniela Latorre, Caroline Deswarte, Fabienne Jabot-Hanin, Egidio Torrado, Jeffrey Fountain, Aziz Belkadi, Yuval Itan, Bertrand Boisson, Mélanie Migaud, Cecilia S. Lindestam Arlehamn, Alessandro Sette, Sylvain Breton, James McCluskey, Jamie Rossjohn, Jean-Pierre de Villartay, Despina Moshous, Sophie Hambleton, Sylvain Latour, Peter D. Arkwright, Capucine Picard, Olivier Lantz, Dan Engelhard, Masao Kobayashi, Laurent Abel, Andrea M. Cooper, Luigi D. Notarangelo, Stéphanie Boisson-Dupuis, Anne Puel, Federica Sallusto, Jacinta Bustamante, Stuart G. Tangye and Jean-Laurent Casanova

DOI番号:10.1126/science.aaa4282

本研究成果につきまして、下記のとおり、記者説明会を開催しご説明いたします。
ご多忙とは存じますが、是非ご参加いただきたく、ご案内申し上げます。

日 時:平成27年8月4日(火) 14:00~15:00

場 所:キャンパス・イノベーションセンター4階408号室(JR田町駅徒歩1分)
(広島大学東京オフィス 同センター4階 TEL:03-5440-9065)

会場へのアクセスマップ

出席者:広島大学大学院医歯薬保健学研究院 講師 岡田賢

研究内容に関するお問い合わせ先

広島大学大学院医歯薬保健学研究院 統合健康科学部門医学分野 小児科学 講師 岡田 賢(おかだ さとし)
TEL:082-257-5212
E-mail:sokada@hiroshima-u.ac.jp(@は半角に直して送信してください)

※可能な限りメールでお問い合わせください。

記者説明会に関するお問い合わせ先

広島大学学術・社会産学連携室 広報グループ
楠本記章(くすもと のりあき)
TEL:082-424-6762
FAX:082-424-6040
E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp(@は半角に直して送信してください)

用語説明

*1 原発性免疫不全症
先天的に免疫系のいずれかの部分に欠陥がある希少疾患。障害される免疫担当細胞の種類や部位により200近くの疾患に分類される。
 
*2 Th17細胞
ヘルパーT細胞の一分画で、近年発見された。関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬などの発症に関与すると考えられている。
 
*3 RORC遺伝子
白血球の一種であるヘルパーT細胞に存在するTh17細胞というサブセットのマスター転写因子


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