原子力事故による健康影響とその教訓を将来に活かすための提言を医学誌「Lancet(ランセット)」に発表

平成27年8月4日

国立大学法人長崎大学
国立大学法人広島大学
公立大学法人福島県立医科大学

原子力事故による健康影響とその教訓を将来に活かすための提言を
医学誌「Lancet(ランセット)」に発表

 

福島県立医科大学、長崎大学、広島大学、放射線影響研究所などの合同研究グループが、世界的な医学誌「Lancet」の原爆70周年の企画に応じて共同論文を8月1日号に発表しました。広島、長崎の教訓等を生かし、福島第一原子力発電所事故後に国内外で行われている調査内容や健康影響についてまとめ、併せて現在も世界で稼働している数多くの原子力発電所とその周辺地域に住む多くの人々に対する防災計画の在り方を提言したものです。

この特集は3つのシリーズ論文で構成されています。(それぞれのパート概要は添付資料参照)

第1部
Long-term effects of radiation exposure on health(放射線被ばくの長期的健康影響)

第2部
Health effects of radiation and other health problems in the aftermath of nuclear accidents with an emphasis on Fukushima
(原子力事故後の放射線及び他の健康障害による健康影響:福島の原発事故を中心に)」

第3部
Nuclear disasters and health: lessons learned, challenges, and proposals
(原子力災害と健康影響:学んだ教訓、課題そしてと将来への提言)

広島、長崎の研究者と福島県立医科大学の合同研究グループが連携し、原爆被爆後70年間にわたり蓄積されてきた放射線被ばく医療の知見と、福島における県民健康調査や海外の健康調査の公開データを体系的に整理分析し、包括的に発表することは初めてのことです。
なお、同号の「Lancet」誌では、これら3シリーズ論文とは別に、さらに福島県立医科大学の研究者による、福島における長期的な復興対策について公衆衛生的な視点からコメントも発表されました。(概要は添付資料参照)

Towards long-term responses in Fukushima (福島における長期的対策にむけて)

今回、このように数多くの研究成果を世界へ発信することができました。これらを広く世界と共有すると共に、今後の被ばく医療や原子力災害への防災計画への教訓として役立てられる大きな発表となります。

添 付

Lancet 2015年8月1日号掲載論文の概要

■From Hiroshima and Nagasaki to Fukushima 掲載シリーズ論文3編

第1部
Long-term effects of radiation exposure on health
(放射線被ばくの長期的健康影響)

原爆被爆70周年を迎え、原爆被爆者の長期的疫学研究をもとにした放射線被ばくの健康影響についての概説から、これらのエビデンスが現在の世界における放射線防護、つまり放射線から身を守る基準となっていることを指摘。さらにチェルノブイリ原子力発電所事故による健康影響から福島、それに現在注目されている医療被ばくや職業被ばくの問題を含め、放射線被ばくと健康影響について概説。

(責任著者;広島大学 神谷研二)

第2部
Health effects of radiation and other health problems in the aftermath of nuclear accidents with an emphasis on Fukushima
(原子力事故後の放射線及び他の健康障害による健康影響:福島の原発事故を中心に)

福島第一原子力発電所事故も含めて、これまで人類が経験した重大な原子力事故は、単に放射線による身体的なものにとどまらず、心理的、精神的な影響、さらには甚大な社会的影響を引き起こすことを示した。加えて今回の福島原発事故では、長期的な避難を強いられることによって、特に高齢者を中心とした人たちにおける深刻な健康問題が引き起こされたことから、放射線被ばくによる直接的な影響に加え、このような幅広い問題に対応することの重要性を述べている。

(責任著者;福島県立医科大学 谷川攻一)

第3部
Nuclear disasters and health: lessons learned, challenges, and proposals
(原子力災害と健康影響:学んだ教訓、課題そしてと将来への提言)

これまでの経験とエビデンスを踏まえ、将来起こり得る原子力災害にどのように備えるべきかについての提言を行っている。平時と災害復興期における医療体制の充実に加え、疫学調査からの保健アプローチだけに留まらない住民へのリスクコミュニケーションの重要性を述べた。また、その困難性と多面的要因を認識したうえで、医療・保健関係者への教育と専門家の育成、トレーニングの重要性を強調し、「科学的な不確実性」についてどのようにコミュニケーションし、住民の主体的な意思決定や対処をいかに支援するか、そしてそのエビデンスを創出してゆくことが重要であると結んでいる。

(責任著者;福島県立医科大学 大津留 晶)

 

■Towards long-term responses in Fukushima 視点

(福島における長期的対策にむけて)

福島の現状をケア・補償・除染という環境問題としての側面から分析した上で、公衆衛生学的視点から長期的対策にむけて以下3つの提言を示した。第一に住民参画のシステムの構築、第二に放射線に特化しすぎないヘルスシステム全体の向上、第三に原子力発電のリスク管理体制の強化が必要であるとしている。

(共著者;ハーバード大学 マイケル・ライシュ、福島県立医科大学 後藤あや)

この情報に関するお問い合わせ先

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