近畿大学 広報部 担当:角野(かくの)、石川
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平成27年(2015年)11月17日
国立大学法人広島大学
学校法人近畿大学
ゲノム編集技術と発生工学を組み合わせた効率の良い遺伝子改変動物の作出方法を開発
~個体レベルでの迅速な遺伝子機能解析を可能に~
近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)遺伝子工学科講師 宮本圭と広島大学大学院理学研究科/ゲノム編集研究拠点(広島県東広島市)特任准教授 鈴木賢一は、ケンブリッジ大学ガードン研究所の研究者との共同研究により、ゲノム編集技術(※1)と発生工学を組み合わせ、効率良く遺伝子改変動物を作出する手法の開発に成功しました。
本研究成果は、平成27年(2015年)11月19日(木)午前4時(日本時間)、米国Public Library of Scienceの科学雑誌「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されます。
研究グループは、未受精卵の前段階で ある卵母細胞にあらかじめ人工DNA切断酵素(※2)を注入し、培養した後に精子核移植することで、遺伝子を発生の早い段階で効率よく破壊し、モザイク性 (※3)の低い胚を得ることに成功しました。実験で使用したカエルについては、遺伝子改変動物を作出する期間として、最大1年間短縮できることがわかりま した。
本研究成果を他の生物種へ応用することにより、ヒトがかかる疾患のモデルとなる動物を作出することや、基礎生物学・畜産・創薬研究などの発展に寄与することが期待されます。
実験で使用したツメガエル
※メラニン色素合成遺伝子が破壊されているため白色
なお、この発表についての報道解禁は平成27年(2015年)11月19日(木)午前4時(日本時間)とさせて頂きますので、それまでは各社ご協力の程、よろしくお願いいたします。
<本資料配布先> 大阪科学・大学記者クラブ、東大阪市政記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、広島大学関係報道機関
近年、人工DNA切断酵素を用いたゲノム編集技術により、様々な動物種において遺伝子の改変が可能となりました。しかしながら、発生途中に遺伝子を改変するとモザイク性が問題となります。また性成熟が長い(※4)動物などにおいては、当世代で効率よく遺伝子を改変できる新しい技術を開発することが、遺伝子改変動物を用いた研究をさらに進めるために必要とされていました。
宮本らは、未受精卵の前段階である卵母細胞にあらかじめ人工DNA切断酵素を注入すれば、発生の早い段階で遺伝子が改変され、問題であるモザイク性を低減させることができるのではと考えました。ガードン教授の研究室で培われたツメガエルの卵母細胞操作や核移植のノウハウと、ゲノム編集技術を組み合わせたユニークな手法を考案することにより、新たな技術の開発に取り組みました。標的遺伝子に対する人工DNA切断酵素mRNAをツメガエルの卵母細胞に注入し、プロゲステロン(※5)存在下で一晩培養し未受精卵へと成熟させます(IVM法)(※6)。この間に人工DNA切断酵素をmRNAからタンパク質に翻訳させます。この未受精卵に精子核移植(ICSI法)(※7)すると、すでに用意されていた人工DNA切断酵素が標的遺伝子を発生の早い段階で効率よく破壊し、モザイク性の低い胚が発生します。この方法を用いてメラニン色素合成遺伝子を破壊すると、期待通りに全身が白いカエルを得ることが出来ました。また、眼や脳の形成に重要な遺伝子を発生の早い段階で破壊することにも成功しました。加えて、複数遺伝子の同時破壊や染色体上の一部分を抜き取ることにも成功しました。
IVM-ICSIの概略図
現在の生命科学においては、モデル動物とよばれる性成熟の短い小型魚類やげっ歯類を用いた研究が主流です。しかしながら、本技術によって性成熟が長い動物や受精卵が得にくい動物においても、個体レベルでの迅速な遺伝子改変が期待できます。様々な動物種で迅速な遺伝子改変を行えることは、生命現象を比較研究する上で学術的に重要な意味があります。加えて、創薬開発を目的とした様々な動物での疾患モデルの作出や家畜の品種改良などにも応用が期待できます。
PLOS ONE(米国Public Library of Science)
※インパクトファクター(2014年):3.234
“The Expression of TALEN before Fertilization Provides a Rapid Knock-out Phenotype
in Xenopus laevis Founder Embryos(受精前のカエル胚における人工DNA切断酵素
TALENの発現は、当世代での迅速な遺伝子ノックアウト個体の作出を可能にする)”
Kei Miyamoto*, Ken-ichi T Suzuki*, Miyuki Suzuki, Yuto Sakane, Tetsushi Sakuma,
Sarah Herberg, Angela Simeone, David Simpson, Jerome Jullien, Takashi Yamamoto,
and J B Gurdon *共同筆頭著者及び責任著者
doi:10.1371/journal.pone.0142946
【宮本圭 プロフィール】
所属:近畿大学生物理工学部 遺伝子工学科
学位:農学博士
専門分野:発生生物学、分子生物学
主な研究テーマ:生殖細胞における細胞核のリプログラミング、機構解明
【鈴木賢一 プロフィール】
所属:広島大学大学院理学研究科/ゲノム編集研究拠点
学位:博士(理学)
専門分野:発生生物学
主な研究テーマ:両生類の発生・変態・再生研究及びゲノム編集技術の開発
平成元年(1989年)、ケンブリッジ大学の生物科学学部の一部として、発生生物学およびがん生物学の領域における研究を推進する目的で、前身となる「ウェルカムトラスト/英国がん研究所」が設立されました。平成16年(2004年)、研究所設立者の一人でもあるジョン・ガードン博士にちなんで「ウェルカムトラスト/英国がん研究基金 ガードン研究所」と改名されました。
ガードン博士は、イギリスの生物学者でケンブリッジ大学の名誉教授を務めており、平成24年(2012年)には、京都大学の山中伸弥教授とノーベル生理学・医学賞を共同受賞しています。
(※1)ゲノム編集技術
人工DNA切断酵素によってゲノムDNAにDNA二本鎖切断を誘導し、その修復過程において、標的遺伝子への欠失や挿入変異を導入したり、ドナー構築を用いた相同組換えによって遺伝子を改変したりする技術。本研究では標的遺伝子の欠失を誘導した。
(※2)人工DNA切断酵素
DNAに結合する部分とDNAを切断する部分を人工的に融合させたタンパク質(Transcription Activator-like Effector Nuclease, TALEN)や標的配列に結合するガイドRNAを認識してDNAを切断するタンパク質(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats/ CRISPR associated protein, CRISPR/Cas)がある。どちらも、ゲノム中の特定の遺伝子配列のみを切断することが可能である。
(※3)モザイク性
動物の体は数億から数兆個の細胞から構成されているが、最初は一個の受精卵(細胞)から作られる。受精卵で遺伝子が改変されれば、全ての細胞が同じ変異を持つ。しかし、発生途中に遺伝子が改変されれば、様々な種類の変異を持つ体細胞が生じる。これをモザイク性と呼ぶ。
(※4)性成熟が長い
動物が生殖可能な状態になること。実験動物として用いられるマウスの場合は約2か月以内に生殖可能な状態となるが、ウシ・ブタ・カエルのように1年近く性成熟に要する動物もある。
(※5)プロゲステロン
黄体ホルモン。カエルにおいて卵成熟の引き金となり、卵母細胞を受精可能な卵子へと成熟させる。
(※6)卵母細胞と試験管内成熟法(IVM法)
卵巣内にある雌性生殖細胞。第一減数分裂前期の状態で停止していた卵母細胞がプロゲステロンにより刺激され、成熟した状態(第二減数分裂中期)が卵(卵子)である。本研究では、試験管内で卵母細胞を成熟させる、IVM法を用いている。
(※7)卵細胞質内精子核移植法(ICSI法)
核移植技術の一つであり、卵(卵子)に精子核を移植し接合体(胚)を得る方法。顕微鏡下で、微小なガラス針を用いて精子核を注入する。魚から家畜まで、生命科学研究や畜産分野において用いられている重要な発生工学技術である。
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