不整脈により突然死を起こすブルガダ症候群(ポックリ病)の発症リスクが低減する遺伝子を発見

平成28年1月6日

国立大学法人広島大学
国立研究開発法人理化学研究所

不整脈により突然死を起こすブルガダ症候群(ポックリ病)の発症リスクが低減する遺伝子を発見
~突然死の予防や不要な治療侵襲の抑止へ期待~

本研究成果のポイント

  • 無症候(致死的不整脈の既往のない)のブルガダ症候群にHEY2(※1)遺伝子多型(※2)変異型が多いことを確認しました。
  • HEY2遺伝子多型変異型を持つブルガダ症候群は、致死的不整脈を起こす割合が低いことを確認しました。
  • HEY2遺伝子多型変異型はブルガダ症候群の発症を抑える役割を果たしており、リスクの層別化のマーカーとなる可能性があります。

概要

広島大学病院の中野由紀子講師、本学大学院医歯薬保健学研究院の木原康樹教授、越智秀典講師、茶山一彰教授と理化学研究所らの研究グループは、ブルガダ症候群の人は健康な人に比べHEY2遺伝子多型(rs9388451)の変異型が多いことを確認し、中でも無症候のブルガダ症候群に多いことを初めて発見しました。
また、HEY2遺伝子多型の変異型を有するブルガダ症候群の患者さんは、平均63ヶ月の観察期間内に致死的不整脈を起こす割合が有意に少なく(変異型有6% vs 変異型無19%)、この遺伝子がブルガダ症候群の発症を抑える役割を果たしている可能性を示唆しています。
今回の結果は、突然死を起こすブルガダ症候群のリスクの層別化に有用であり、突然死の予防や不要な治療侵襲の抑止に役立つ可能性があり、患者さんに大きなメリットとなります。
本研究成果は、平成28年1月4日(米国東部時間)、米国科学誌「Circulation:Arrhythmia and Electrophysiology」(オンライン版)に掲載されました。

発表論文

著 者
Yukiko Nakano*, Hidenori Ochi, Yuko Onohara, Masaaki Toshishige, Takehito Tokuyama, Hiroya Matsumura, Hiroshi Kawazoe, Shunsuke Tomomori, Akinori Sairaku, Yoshikazu Watanabe, Hiroki Ikenaga, Chikaaki Motoda, Kazuyoshi Suenari, Yasufumi Hayashida, Daiki Miki, Nozomu Oda, Shinji Kishimoto, Noboru Oda, Yukihiko Yoshida, Satoshi Tashiro, Kazuaki Chayama, Yasuki Kihara
* Corresponding author(責任著者)
論文題目
Common variant near HEY2 has a protective effect on ventricular fibrillation occurrence in Brugada syndrome by regulating the repolarization current
掲載雑誌
Circulation:Arrhythmia and Electrophysiology
DOI番号
10.1161/CIRCEP.115.003436

研究の背景

ブルガダ症候群は、2,000人に1人発症する病気で、普段は全く症状がなく、致死的不整脈により突然死を起こすポックリ病と言われています。
近年、検診時の心電図(ブルガダ型心電図)などで症状の無い(無症候性)ブルガダ症候群患者を早期発見できるようになりました。無症候性ブルガダ症候群の一部の方に対して、突然死予防のために植え込み型徐細動器というデバイスの埋め込みが行われています。しかしながら、無症候性ブルガダ症候群の突然死のリスクの予測判断材料として現在確立されたものはありません。HEY2遺伝子多型の情報を組み入れることでブルガダ症候群における突然死ハイリスク、ローリスクの選別精度が高まれば植え込み型徐細動器移植手術適応基準の適正化によって患者さんの無用な負担が減り、医療経済的にも費用対効果の改善につながることが期待されます。
ブルガダ症候群の原因遺伝子はまだ3割足らずしか解明されていません。HEY2遺伝子は心臓の発生に関係する遺伝子で、近年Genome Wide Association Study (GWAS研究)でHEY2遺伝子がブルガダ症候群のリスクになることが示唆されました。

研究成果の内容

ブルガダ症候群の人95人と健康な人1,978人でHEY2遺伝子多型(rs9388451)変異型の保有の有無を調べました。ブルガダ症候群ではHEY2遺伝子多型変異型の保有率が高く(健康な人 57% vs ブルガダ症候群 69%)、しかも致死的不整脈既往のある有症候ブルガダ症候群よりも既往のない無症候ブルガダ症候群に高いことがわかりました(無症候 74% vs 有症候 59%)。
また、ブルガダ症候群の患者さんを63 ± 28 ヶ月の経過観察したところ、HEY2遺伝子多型変異型を有する患者さんでは有意に致死的不整脈の発症が少ないことを確認しました(変異型有 6% vs 変異型無 19% )(図1)。 心電図指標では、変異型を有する症例の方がQTc時間が長く、HEY2mRNA発現量は少ないことも確認しました。
HEY2遺伝子多型(rs9388451)変異型は心臓の活動電位を修飾することで、ブルガダ症候群における致死的不整脈の発症を抑える役割を果たしている可能性が示唆されました。
GWAS研究でブルガダ症候群の発症リスクと考えられていたHEY2遺伝子が、実はブルガダ症候群において心室細動の発症を低減し、予後を改善するという役割があるというのは今回の研究での大きな発見です。

図1:ブルガダ症候群観察期間内の致死的不整脈の発症状況

図1:ブルガダ症候群観察期間内の致死的不整脈の発症状況
HEY2遺伝子多型変異型を有するブルガダ症候群症例の方が致死的不整脈の発症が少ない。

今後の展開

今回の結果は、突然死を起こすブルガダ症候群のリスクの層別化に有用であり、突然死の予防や不要な治療侵襲の抑止に役立つ可能性があります。
今後は、非侵襲的な日常診療で得られる情報(心電図指標など)と組み合わせて、より精度の高いリスク評価の方法を確立することを目指します。またHEY2遺伝子がブルガダ症候群の発症を抑える役割を果たしているという発見は、突然死予防のための創薬、遺伝子治療につながるものと思われます。

用語説明

※1 HEY2
Hairy/enhancer-of-split related with YRPW motif protein 2の略。
胎生期に心臓の発生に関与する遺伝子である。
※2 遺伝子多型
個人毎の塩基配列の違いのことである。

【お問い合わせ先】

広島大学病院循環器内科
講師 中野 由紀子
TEL:082-257-5540
FAX:082-257-1602
E-mail:nakanoy*hiroshima-u.ac.jp(注:*は半角@に置き換えてください)


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