日本のカエルで性の機能を解明

平成28年1月21日

日本のカエルで性の機能を解明:組換えが突然変異の蓄積を抑える

本研究成果のポイント

  • 日本棲息のツチガエル(注1)を用いて、"オス駆動進化" (注2)理論を両生類で初めて証明
  • 異なる性決定様式の間で、オスにおける突然変異率の差異を初めて検出
  • 生殖細胞における減数分裂時の相同組換え(注3)がDNA複製エラーによる突然変異の蓄積を抑制することを発見

概要

広島大学の三浦郁夫准教授と北里大学の回渕修治特任助教、伊藤道彦准教授らの研究グループは、日本棲息のツチガエル(地域集団によって性決定システムが異なる世界でも稀な動物種)を用いて、"オス駆動進化(オスを介した突然変異)"が減数分裂時の相同染色体間でおきる"相同組換え"によって抑制されることを発見しました。一般に有性生殖における減数分裂は種の遺伝的多様性に貢献すると考えられます。しかし、今回の結果は、DNA複製エラーによる突然変異の蓄積を、減数分裂機構が防止する機能ももつことを分子的に初めて示唆したものです。
この研究成果は、2016年1月20日、英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal Society B」に掲載されました。

背景

性の役割は、オスとメスの遺伝子を混合し、多様性を生み出すことにあります。一方、オスではメスよりも突然変異が多く蓄積し、進化に大きく貢献する(オス駆動進化)ことが知られています。この理論は哺乳類と鳥類で検証されていましたが、性決定様式が異なる生物間で同時に検証されていなかったという背景がありました。
そこで、本研究者らは、初めて両生類である日本のカエルを用いて、しかも性決定様式が異なる地域集団を同時に解析することで、オス駆動仮説の検証に取り組みました。特に、有性生殖の特徴である減数分裂時の"相同組換え" と、DNA複製回数に立脚した"オス駆動進化" 理論との関連性に注目しました。

研究成果の内容

日本棲息のツチガエル(図1:地域集団によってXX/XY型とZZ/ZW型が存在する世界で稀有な動物)を用いて、"オス駆動進化" 理論を両生類で初めて証明しました。さらに、XX/XY型とZZ/ZW型の集団において、メスに対するオスの突然変異率がZZ/ZW型に比べXX/XY型で有意に高いこと、ツチガエルの精子形成過程では染色体末端以外はペアリングが起きない(すなわち相同組換えも起きない)こと(図2)が明らかになりました。この結果から、従来のオス駆動進化と突然変異との関係式に、相同組換えのファクターを付加した新たな関係式を構築しました(図3)。その解析から、オス生殖細胞における染色体DNAの複製エラーによってもたらされる突然変異(オス駆動進化)は、相同組換えによって抑制されると考えられます。有性生殖における組換えという仕組みが、生物の進化における複製エラーの負の側面を解消する機能を明らかにしました。

今後の展開

本研究成果は、生命進化の駆動力となる突然変異率が、実は染色体の相同組換えの頻度によって強く影響を受けることを示しました。すなわち、生命進化におけ る染色体の組換えの役割を新しく提唱するものです。今後、集団内(種内)の多様性や種分化における減数分裂時の"相同組換え"機構の新たな役割が解明さ れ、生命進化といった壮大な仕組みの解明への足掛かりとなることが期待されます。

論文に関する情報

タイトル(和訳)
"Meiotic recombination counteracts male-biased mutation (male-driven evolution) "
(減数分裂時の相同組換えはオスに偏った突然変異(オス駆動進化)に対抗する)

著者名
Shuuji Mawaribuchi, Michihiko Ito, Mitsuaki Ogata, Hiroki Oota, Takafumi Katsumura, Nobuhiko Takamatsu, and Ikuo Miura

掲載誌
英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal Society B」

URL
http://rspb.royalsocietypublishing.org/

用語解説

(注1)ツチガエル
地域集団によってXX/XY型とZZ/ZW型の性決定システムをもつ世界でも稀有な動物種。北海道以外の日本各地に棲息する無尾両生類。

(注2)オス駆動進化
進化学者の宮田隆(京大名誉教授)らが1987年に提唱した進化仮説。生殖細胞の分裂回数は卵形成に比べ精子形成で多く、複製エラーがオスで多くなるという説で、哺乳類や鳥類などで検証されている。

(注3)減数分裂時の相同組換え
配偶子形成過程の減数第一分裂において、ペアリング(対合)した相同染色体間の相同領域でおこる組換え。

お問い合わせ先

広島大学大学院理学研究科附属両生類研究施設 准教授 三浦郁夫
TEL:082-424-7323
FAX:082-424-0739
E-mail:imiura*hiroshima-u.ac.jp(注:*は半角@に置き換えてください)

参考図

図1. ツチガエル

図1. ツチガエル(Glandirana rugosa)<写真提供. 檜垣俊忠>
日本各地に生息する日本の固有種. 性決定様式がXX/XY型とZZ/ZW型の地域集団がそれぞれ独立に存在するという世界でも稀有な動物.

図2. XX/XY型とZZ/ZW型のツチガエルのオス(XY、ZZ)精母細胞における減数第一分裂中期像

図2. XX/XY型とZZ/ZW型のツチガエルのオス(XY、ZZ)精母細胞における減数第一分裂中期像.
両者ともに相同染色体の染色体末端のみがペアリング(対合)している。矢印はXとY染色体のペア。

図3. オス駆動進化・相同組換え要因・性染色体上の突然変異との関係式

図3. オス駆動進化・相同組換え要因・性染色体上の突然変異との関係式.
上段:従来の関係式/下段:本研究により、組換えを考慮して考案した関係式


up