新たな周波数資源利用に道を拓くテラヘルツ無線技術

平成28年1月22日

国立大学法人広島大学
国立研究開発法人情報通信研究機構
パナソニック株式会社

記者説明会(1月28日14時30分・広島)のご案内
新たな周波数資源利用に道を拓くテラヘルツ無線技術
~シリコンCMOS集積回路による毎秒100ギガビット超の超高速無線技術を開発~

 

国立大学法人広島大学、国立研究開発法人情報通信研究機構、パナソニック株式会社は共同で、シリコンCMOS集積回路[1]により最大毎秒100ギガビットを超える伝送速度でデジタル情報の無線伝送を可能とする、テラヘルツ波(300GHz帯)を用いた無線送信技術を世界で初めて開発しました。
本研究成果は、「International Solid-State Circuit Conference (ISSCC) 2016」(1月31日〜2月4日、サンフランシスコ)で発表およびデモンストレーション展示されます。
本件につきまして、下記のとおり、記者説明会を開催しご説明いたします。
ご多忙とは存じますが、是非ご参加いただきたく、ご案内申し上げます。

日 時:平成28年1月28日(水) 14:30~15:30
※学長定例記者会見終了後に行います。
場 所:広島大学霞キャンパス臨床管理棟3階 大会議室
出席者:広島大学大学院先端物質科学研究科 教授 藤島 実

 

本件のポイント

  • シリコンCMOS集積回路により、将来の超高速無線用途で利用が期待され国際電気通信連合[2]において無線通信用途への周波数割り当てが検討されている300GHz帯のうち、275GHz~305GHzの信号を生成
  • 多値変調された信号を用いることで最大毎秒100ギガビット相当の無線伝送性能を実現

本件の概要

2016年後半あたりからWi-Fiに利用される周波数であるミリ波[3]帯(57GHz~66GHz)よりもさらに高い周波数であるテラヘルツ波[4]帯は、一般にはまだ利用されていない新たな周波数資源です。テラヘルツ波帯を用いた無線システムは、広い周波数帯域を利用可能で超高速通信に優れているという特長があります。今回、デジタル信号処理回路との接続が容易なシリコンCMOS集積回路を用い、独自の周波数変換回路と電力合成技術を適用することで毎秒100ギガビット相当の無線伝送の可能性を国際的な周波数割り当てが見込まれる300GHz帯で世界で初めて実証しました。本技術が実用化されれば、データセンター内のデジタル情報や、スーパーハイビジョンの映像信号を光ケーブルなどを用いることなく無線で接続できるようになります。

本研究開発は、総務省平成26、27年度「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発-300GHz帯シリコン半導体CMOSトランシーバ技術-」の成果の一環です。

本件の背景

従来、テラヘルツ帯信号を用いた無線通信実験は、高周波動作に有利な化合物半導体を用い、出力をオン・オフし通信を行うような単純な回路方式による検討が主でした。一方、テラヘルツ帯を用いた無線通信技術が広く普及するためには、デジタル信号処理回路との組み合わせや高速化に必須となる多値変調回路との集積化が容易なシリコンCMOS集積回路によりテラヘルツ帯信号の無線伝送を可能とする技術が望まれていました。

研究手法と成果

本開発の無線技術は、シリコンCMOS集積回路により実用的なテラヘルツ帯の信号生成を実現したものであり、以下の技術を用いています。

1. 局部発振信号[5]と中間周波数[6]帯の変調信号を同時に3次非線形回路[7]に入力することで、中間周波数帯から300GHz帯へと変調信号を歪ませることなく周波数変換する独自の周波数変換技術
2. 周波数変換後の信号を32個並列に接続し、300GHz帯の出力信号を大きくするための電力結合技術
3. 無線送信回路に必要となる差動信号[8]を、入力信号を増幅しつつ電力分配することで効率よく発生する増幅回路技術

今後の展開

今回は無線通信システムのうち、300GHz帯の送信回路を実現したものです。テラヘルツ帯無線通信システムの実用化にはこの他に300GHz帯受信回路、高速通信に対応したデジタル信号処理による変復調回路が必要となります。今後これら無線通信システムに必要な回路の基盤技術を開発し、シリコンCMOS集積回路による無線通信システムの実用化を目指します。

技術の説明

1. 局部発振信号と中間周波数帯の変調信号を同時に3次非線形回路に入力することで、中間周波数帯から300GHz帯へと変調信号を歪ませることなく周波数変換を可能にする技術

これまで高速伝送を実現するために多値変調を用いる通信システムでは局部発振信号の周波数帯を搬送波の周波数の近くに設定する必要があり、最大発振周波数が300GHzに満たないシリコントランジスタを用いたシリコンCMOS集積回路でこの方式をとる場合、十分な局部発振信号が得られず300GHz帯の無線通信システムを構成することは困難でした。この課題に対し、3次非線形回路を用いる周波数変換技術により局部発振信号の周波数帯を搬送波(300GHz帯)の1/3の周波数(100GHz帯)に下げることが可能となります。今回この技術を用いることで、シリコンCMOS集積回路により、変調信号を歪ませることなく周波数変換を行うテラヘルツ波帯周波数変換回路を実現しました。

2. 周波数変換後の信号を32個並列に接続し、300GHz帯の出力信号を大きくするための電力結合技術

今回用いた3次非線形回路による周波数変換技術により、変調信号を歪ませることなくテラヘルツ波帯への周波数変換が可能となりますが、増幅動作までは行えないため、無線通信を実現するには出力信号レベルが小さいことが課題となります。そこで3次非線形回路を並列接続し電力を結合する技術を開発することでテラヘルツ波帯信号の出力を向上しました。今回は、並列化回路の配置設計が効率的に行え、電力結合が効果的に行えることを考慮し32並列としました。

3. 無線送信回路に必要となる差動信号を、入力信号を増幅しつつ電力分配することで効率よく発生する増幅回路技術

従来、互いに位相の反転した信号対である差動信号を用いる回路は、受動素子を組み合わせた差動信号を生成する回路とトランジスタによる増幅回路をそれぞれ設計し接続する構成をとっていました。この構成では回路面積が大きくなる課題がありました。今回、トランジスタによる回路に増幅機能と差動信号を生成する機能を組み込むことで、回路の小型化を実現しました。

研究に関するお問い合わせ先

国立大学法人広島大学大学院先端物質科学研究科 教授 藤島 実
電話:082-424-6269 E-Mail:fuji@hiroshima-u.ac.jp
(@は半角に置き換えて送信してください)

報道関係者 お問い合わせ先

国立大学法人広島大学 学術・社会産学連携室広報グループ
電話:082-424-3701 E-Mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp
(@は半角に置き換えて送信してください)
※記者説明会に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人情報通信研究機構 広報部 報道担当
電話:042-327-6923 E-mail:publicity@nict.go.jp
(@は半角に置き換えて送信してください)

パナソニック株式会社
オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 広報2課
電話:06-6904-4732

用語の説明

[1]シリコンCMOS集積回路:
CMOS(complementary metal oxide semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)を用いた集積回路であり、電子の多い n チャンネル型の電界効果トランジスタと正孔が多い p チャンネル型の電界効果トランジスタの組み合わせで構成される回路素子
[2] 国際電気通信連合:
国際連合の専門機関の一つで、電気通信の改善と合理的利用のため国際協力を増進し、電気通信業務の能率増進、利用増大と普及のため、技術的手段の発達と能率的運用の促進を目的とするもの。この下部組織である無線通信部門において周波数利用計画や分配を検討している。
[3]ミリ波:
周波数にして30GHzから300GHz、波長にして1mmから1cmまでの電波を指す。
[4] テラヘルツ波:
周波数にして1THz(1000GHz)前後の電波を指す。情報通信分野においては0.1THz(100GHz)から3THzを対象とすることが多い。(図1)
[5] 局部発振信号:
高い周波数の電波を搬送波として用いる無線通信において、送信信号を搬送波に変換する際、あるいは搬送波から受信信号を取り出す際に使用する基準信号を指す。
[6] 中間周波数:
無線通信において、送信信号を搬送波に変換する際、あるいは搬送波から受信信号を取り出す際に使用する信号の周波数を指す。通常、搬送波と送信信号あるいは受信信号の間に位置する周波数とする。
[7] 3次非線形回路:
入力信号の3乗を出力する回路を指す。
[8] 差動信号:
互いに位相の反転した信号対を指し、並行した2本の信号線を用いることで高速の信号伝送を可能とする。

図1. テラヘルツ波の周波数帯

図1. テラヘルツ波の周波数帯


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