すばる望遠鏡で銀河から吹き出す激しい風をとらえる!

平成28年2月2日

国立大学法人広島大学
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構国立天文台

記者説明会(2月4日10時00分・東広島)のご案内

すばる望遠鏡で銀河から吹き出す激しい風をとらえる!
-銀河風の構造に刻まれた銀河合体とスターバーストの歴史-

本研究成果のポイント

  • すばる望遠鏡主焦点カメラを使って、合体中の銀河NGC6240から吹き出す大量の電離ガスの詳細構造をとらえることに成功
  • 銀河NGC6240に、銀河風がガスを吹き飛ばした形跡-巨大な「破れた泡構造」-があることを発見
  • 今後、銀河合体とスターバーストが銀河進化に与える影響の解明に期待

概要

広島大学、国立天文台、台湾中央研究院、法政大学からなる研究チームは、すばる望遠鏡主焦点カメラ Suprime-Camでの観測によって、スターバーストを起こしている銀河NGC6240から吹き出す大量の電離ガスの詳細構造をとらえることに成功しました(図1)。この電離ガスは差渡し30万光年にも及んでおり、スターバーストによって生成された銀河風(スーパーウィンド)によって銀河から外に吹き飛ばされています。すばる望遠鏡の集光力と高解像度によって、近傍宇宙では最大規模の銀河風の複雑な構造が明らかになりました。

本件につきまして、下記のとおり、記者説明会を開催しご説明いたします。
ご多忙とは存じますが、是非ご参加いただきたく、ご案内申し上げます。

日時: 平成28年2月4日(木) 10:00~11:00
場所: 広島大学東広島キャンパス法人本部棟5階5F2会議室
出席者: 広島大学宇宙科学研究センター 教授 吉田 道利

背景

スターバーストとは、銀河の中で起こる激しい星生成活動 (爆発的星生成) のことを言います。私たちの住む銀河系(天の川銀河)の星生成率は、銀河系全体で1年間に太陽が一つ生まれる程度だと考えられていますが、スターバーストを起こしている銀河(スターバースト銀河)では、この10倍以上の生成率で星が生まれています。中には星生成率が銀河系の100倍〜1000倍に達する激しいスターバーストを起こしている銀河も存在します。

スターバーストは、銀河の進化にとってきわめて重要な現象です。何らかのきっかけでスターバーストが起きると、銀河中の星間ガスが星生成に使われ、急速に減ってしまいます。また、スターバーストで大量に生成された大質量星からの強力な紫外線や、それらの星々が死ぬときの超新星爆発によって、銀河中のガスが銀河の外に吹き飛ばされてしまう現象−銀河風(スーパーウィンド)−が生じると考えられています。銀河風は、銀河内のガスを非常に効率よく銀河外に運ぶので、銀河はより大量のガスを失い、星生成活動が急速に停止します。また、銀河内の金属を豊富に含むガスを銀河の周囲に撒き散らします。こうして、スターバーストとそれに続く銀河風は銀河進化と銀河外のガスの進化に大きな影響を与えると考えられています。

大規模なスターバーストが起こる要因の一つは、銀河同士の衝突・合体です。ガスを豊富に含む渦巻銀河が合体すると、銀河内のガスは混じり合うことで最終的には合体銀河の中心部に落ちていきます。こうして中心部に大量のガスが集まり、そこで爆発的に星が生まれます。すなわち、スターバーストが起きるわけです。そして、スターバーストによって生成された大量の星間塵が、若い大質量星からの紫外線を吸収して温められて、赤外線で明るく輝くのです。

NGC6240は、へびつかい座の方向、約3億5千万光年かなたにあるスターバースト銀河で、その星生成率は銀河系の25倍〜80倍程度(注)であると推定されています。非常に特異なその形態(図1)より、二つの渦巻銀河が合体途上にある天体だと考えられています。銀河合体によって引き起こされたスターバーストによって、NGC6240は赤外線で明るく輝いており、その総放射エネルギーは太陽の1兆倍近くにもなります。NGC6240は、銀河合体とスターバーストの関係を詳しく調べ、そうした現象が銀河進化に与える影響を解明するための格好の研究対象です。そのため、5億光年以内の近傍宇宙において最もよく研究されているスターバースト銀河の一つとなっています。

研究成果の内容

研究チームは、重要な天体のスターバーストの歴史を解明するために、すばる望遠鏡主焦点カメラSuprime-Camを用いた観測を行いました。電離ガスから放たれる水素の光(Hα輝線)を選択的に通す特殊なフィルターを使って観測することで、銀河風の詳細な構造を明らかにしようとしたのです。

観測の結果、複雑な構造を持つ巨大な電離ガスの様子がNGC6240の中に浮かび上がってきました(図1、図2)。電離ガスの差渡しは30万光年にも及び、複雑なフィラメント構造やループ構造も見られます(図3)。NGC6240に広がった電離ガスがあることは知られていましたが、これほど淡いところまではっきりと内部構造が捉えられたのはこれが初めてです。特に、銀河の北西(図2の右上方向)と南東(図2の左下方向)には巨大な「破れた泡構造」があることが初めて発見されました。「これは銀河風が銀河円盤の垂直方向(北西−南東方向)にガスを吹き飛ばしたことを示しているのでしょう」と、研究チームリーダーの吉田道利教授 (広島大学) は語ります。

得られたデータを詳細に解析した結果、NGC6240は過去に少なくとも3回の激しいスターバーストを起こしており、各々のスターバーストによって発生した銀河風が、今回明らかになった複雑な電離ガス構造を形成したことが分かりました。最も古いスターバーストは今から約8千万年前に起こっています。NGC6240の銀河合体は約10億年前に始まったと考えられているため、今回の結果は、銀河合体がかなり進んだ段階で突然スターバーストが引き起こされたことを示しています。これらの結果は、今後、銀河合体を通じた銀河進化の研究に貴重な示唆を与えるものと期待されます。

この研究成果は、アメリカ天文学会の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載予定です。また、この研究成果は、日本学術振興会の科学研究費補助金23244030、15H02069、文部科学省科学研究費補助金24103003のサポートを受けています。

発表論文

・論文タイトル: Giant H-alpha Nebula Surrounding the Starburst Merger NGC 6240

・著 者:
吉田道利(広島大学)
八木雅文(国立天文台/法政大学)
大山陽一(台湾中央研究院天文及天文物理研究所)
小宮山裕(国立天文台/総合研究大学院大学)
柏川伸成(国立天文台/総合研究大学院大学)
田中久志(広島大学)
岡村定矩(法政大学)

・掲載雑誌: 『アストロフィジカル・ジャーナル』
※プレプリントはhttp://arxiv.org/abs/1512.09208 をご覧ください。

 

(注)推定値に幅があるのは、星生成率の推定方法の違いによるものです。

図1:すばる主焦点カメラで得られたNGC6240の擬似カラー画像

図1:すばる主焦点カメラで得られたNGC6240の擬似カラー画像。青、緑、赤にそれぞれBバンド画像、Rバンド画像、Hα輝線(電離水素が放つ光)画像を割り当てて合成。銀河から吹き出す巨大な電離ガスが赤く見えている。(クレジット:広島大学/国立天文台)

図2:NGC6240の巨大な電離ガスのイメージ(Hα輝線画像)

図2:NGC6240の巨大な電離ガスのイメージ(Hα輝線画像)。星からの光を除去し、電離ガスだけの画像を作成した。複雑なフィラメント構造が何十万光年にもわたって広がっているのが分かる。(クレジット:広島大学/国立天文台)

図3:NGC6240の電離ガスのスケッチ

図3:NGC6240の電離ガスのスケッチ。図2に写っている主な構造を示した。(クレジット:広島大学/国立天文台)

研究に関するお問い合わせ先

広島大学宇宙科学センター センター長・教授 吉田 道利(よしだ みちとし)
E-mail:yoshidam@hiroshima-u.ac.jp

すばる望遠鏡に関するお問い合わせ先

国立天文台ハワイ観測所 広報担当サイエンティスト 藤原英明(ふじわら ひであき)
Tel:+1-808-934-5922
E-mail:hideaki@naoj.org
※日本との時差は -19時間あります。時差にご配慮願います

記者説明会に関するお問い合わせ先

広島大学学術・社会産学連携室 広報グループ 三戸 里美
Tel:082-424-3701 FAX:082-424-6040
E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp


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