地球の中心「コア」の軽元素を明らかに!

平成28年3月1日

記者説明会(3月2日14時00分・東広島)のご案内
地球の中心「コア」の軽元素を明らかに!

本研究成果のポイント

  • これまで、地球のコアの軽元素の成分構成は推測値しかなかった。
  • 地球コアの温度・圧力下での密度と地震波速度の測定を行い、地球のコアの軽元素の成分構成を決定した。
  • 本研究成果は、地球の内部温度が、これまでの推定値より低温(500-1,000度程度)であることを示唆し、今後の地球の形成史研究に大きな影響を与える。

概要

広島大学大学院理学研究科 関根利守教授らのグループは、中国工程物理研究院衝撃爆轟研究所や西南交通大学高温高圧物理研究所との共同で、地球のコアに存在する軽元素構成成分とその量の特定に成功しました。
この結果は、地球の内部温度の見積もりにも大きな影響を及ぼし、これまで考えられていた約6,000度より低温(500-1,000度程度)であることを示唆しています。このことはマントル最下部の温度にも影響を及ぼし、今後の地球の形成史研究に大きな影響を与えると考えられます。

本研究の成果は、平成28年3月2日午後7時(日本時間)公開の欧州科学雑誌「Scientific Reports」電子版に掲載されます。

発表論文

論文題目:Experimental constrains on light elements in the Earth’s outer core
著者名:Youjun Zhang, Toshimori Sekine*(以上広島大), Hongliang He, Yin Yu(以上中国工程物理研究院), Fusheng Liu & Mingjian Zhang(以上西南交通大学)
* Corresponding author(責任著者)
掲載誌:Scientific Reports オンライン版
DOI番号:10.1038/srep22473

 

本件につきまして、下記のとおり、記者説明会を開催しご説明いたします。
ご多忙とは存じますが、是非ご参加いただきたく、ご案内申し上げます。

日 時:平成28年3月2日(水)14時~15時
場 所:広島大学東広島キャンパス法人本部棟4階会議室
出席者:広島大学大学院理学研究科 教授 関根 利守

 

背景

従来、地球コアは地球の体積のうち16.3%を占め、液体の外核が15.6%, 固体の内核が0.7%と推定されています(図1)。
また、コアにはおよそ8重量%の軽元素が含まれることが地震波観測結果から推定されています。
しかし、その軽元素の種類と量が異なると、コアの密度や音速*1が変化するとともに融解温度が変化します。従って、軽元素の特定は重要な課題の一つでしたが、従来は実験的にコア環境(温度・圧力)を再現することや、液体状態の密度・地震波速度の測定が困難であり、共存する軽元素の成分構成の特定化が困難でした。
本研究では、地震波解析から得ることができるコア外核の密度と音速を満足させる軽元素の構成成分と量を実験結果と比較することで特定化できました。
この結果は、地球内部の温度の推定、特に外核と内核との境界での温度やマントルとコアとの境界での温度の見積もりに大きく影響します。

図1 地球内部のモデル

研究成果の内容

関根教授らの研究グループは、地球コアの高温高圧状態でのFe, Ni, Siの3成分に関する密度と音速を測定し、地球コアを伝播する地震波の解析から得られる密度と地震波速度の値を比較することで鉄を主成分とするコア中に存在する軽元素の種類と量を見積もりました。
コアに相当する高温高圧状態は通常の方法では実現が困難で、衝撃圧縮法*2を利用しました。
今回の研究では、外核に相当する圧力(135-330GPa*3)条件下で鉄、ニッケル、シリコン組成に関して密度と音速の衝撃圧縮下での測定を行い、その結果、密度と音速の両者をコア条件下で満足するには軽元素としてシリコンが十分に(6wt%)あり少量の硫黄(2wt%)と酸素(1-2.5wt%)も必要であることが明らかになりました。

今後の展開

この結果は、地球の内部温度の見積もりにも大きな影響を及ぼし、これまで考えられていたものより低温(500-1,000度程度)であることを示唆しています。このことはマントル最下部の温度にも影響を及ぼし、今後の地球の形成史研究に大きな影響を与えると考えられます。

用語の解説・参考資料

*1 音速
個体を伝播する音速には縦波と横波がある。この縦波速度と横波速度の関数でバブク音速が決まる。液体になると横波速度がゼロになり、液体のバルク音速が固体のそれに比べて遅くなる。音速は高温高圧の試料の圧力解放波の速度に相当し、解放波の到着時間に対応する粒子速度の変化から決定される。

*2    衝撃圧縮法
衝撃波を利用した高温高圧発生法で100万秒の1秒程度の時間高温高圧状態が実現し、その間に高速測定する。測定には複数のレーザー干渉速度計を用い、必要なパラメータを高速記録して決定する。衝撃波の発生には、二段式軽ガス銃という15g程度の飛翔体を秒速7km/s程度まで加速可能な装置を使い、試料に高速平面衝突させ衝撃波が試料を伝播中に測定を行う。衝撃波速度*4と粒子速度*5という2つの速度を同時に計測し、衝撃圧縮中の試料の密度と音速(固体では縦波速度、液体ではバルク音速)を決定する。今回の実験では、音速測定結果から融解を検出し、約150GPaまでは固体で、約180GPa以上では液体の密度と音速の比較*6を行った。コアの圧力下での相当する温度に対しては測定結果を補正して、地震波解析からの密度や音速と比較する。

*3 GPa
圧力の単位で1GPaは100万気圧に相当する。

*4 衝撃波速度
衝撃波が媒体中を伝播する速度のとこである。

*5 粒子速度
衝撃波の伝播に伴い媒体中の構成原子が衝撃波の伝播方向に加速され速 度を持つ。ドップラー効果を利用したレーザー干渉速度計で複数の位置で粒子速度を光学的に測定し、衝撃波速度と粒子速度を測定する。この2つのパラメータが決まると質量保存と運動量保存則から高温高圧下の試料の密度や圧力が決まる。

*6    密度と音速の比較
比較に用いたのは標準的地球内部モデル(PREM*7)で、密度と音速が最もよく合うのは、6wt% Si, 2wt% S, 1-2.5wt% Oを含む鉄ニッケル合金である。CMBはマントルとコアとの境界、ICBは外核と内核の境界を意味する。

図2.圧力、密度、音速の実験結果

図2.圧力、密度、音速の実験結果
 

*7 標準的地球内部モデル(PREM)
1970年代までの世界的な地震記録データに基づき、地球を球として内部の地震波速度変化から密度分布や圧力分布を決めたモデル。内部温度は断熱変化を仮定しているが、境界条件が必要である。

研究に関するお問い合わせ先

広島大学大学院理学研究科 教授
関根 利守(せきね としもり)
Tel: 082−424−7474
E-mail: toshimori-sekine@hiroshima-u.ac.jp

記者説明会に関するお問い合わせ先

広島大学学術・社会連携室 広報グループ
三戸 里美(みと さとみ)
Tel: 082−424−3701
E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp


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