NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(以下、本事業)の一環で、国立大学法人長岡技術科学大学(以下、長岡技科大)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)、国立大学法人広島大学、株式会社オンチップ・バイオテクノロジーズ、株式会社ニコンソリューションズは共同で、未培養・難培養微生物を高効率に可培養化し、その中から有用な機能を持つ微生物が含まれるドロップレットを100万ドロップレット規模で探索・取得できる「ミリオンスクリーニング技術」を開発しました(図1)。
本技術により、従来は取得が困難だった多様な生物資源へのアクセスが可能となり、バイオものづくりに必要な微生物・遺伝資源の探索を大幅に効率化できます。また、その成果を実装するシステムとして、多数のドロップレットから候補を絞り込む一次選別、画像による二次選別および回収を一連の工程として行うことが可能な「ドロップレット表現型スクリーニングシステム(Droplet Phenotypic Screening System)」を世界で初めて開発しました。
なお、本技術の成果の一部は、2026年10月7日(水)から9日(金)までパシフィコ横浜で開催される「BioJapan 2026」に出展します。
図1 「ミリオンスクリーニング技術」の適用例
(提供:広島大学、産総研、オンチップ・バイオテクノロジーズ)
1.背景
近年、産業界では大気中の二酸化炭素(CO2)の削減、炭素循環型社会の実現といった社会課題の解決と、持続的経済成長の両立が求められています。こうした中、バイオマス資源から植物や微生物などの生物を用いて物質を生産する技術(バイオものづくり)に注目が集まっています。バイオものづくりのプロセスは「探索・育種・培養・生産」と多段階で構成され、上流の探索段階で、有用遺伝子や微生物宿主などの生物資源を迅速かつ効率的に見いだすことが求められています。その一方で、産業上有用な生物資源の取得は高コストかつ高難易度であり、企業参入の障壁となっていました。
このような背景の下、NEDOは2020年度から本事業※1で、産業上有用な生物資源をハイスループットに取得するための技術の開発に取り組んでいます。この一環で、長岡技科大、産総研、広島大学、オンチップ・バイオテクノロジーズ、ニコンソリューションズは、環境中に多様に存在する微生物資源や、研究開発により育種・改変した微生物を対象に、産業上有用な微生物を大規模かつ高速に探索する「ミリオンスクリーニング技術」の開発を進めてきました。
2.今回の成果
このたび開発したミリオンスクリーニング技術により、従来は取得が困難であった多様な微生物資源の培養・分離を可能にするとともに、有用な微生物や酵素の探索を大幅に効率化しました。さらに、これらの要素技術を組み合わせ、一次選別、画像による二次選別および回収を一連の工程として行う「ドロップレット表現型スクリーニングシステム」を世界で初めて※2開発しました。ミリオンスクリーニング技術を構成する技術の詳細は下記の通りです。
(1)未培養・難培養微生物の可培養化技術の開発
環境中に存在する微生物の多くが一般的な培養条件では培養困難であり、産業上有用な微生物や遺伝子資源が未利用のまま残されている課題を解決すべく、未培養・難培養微生物の培養・分離・スクリーニング技術を開発しました(図2)。産総研および広島大学では、微生物を1細胞ずつ、油中の微小なゲルまたは水滴(ドロップレット、直径数十〜100マイクロメートル程度)に内包し、凝集した状態あるいは高密度に培養することで、環境中の微生物の最大50%程度を可培養化できることを明らかにしています※3。
さらに、この可培養化技術を基盤として、従来法では培養が困難であった微生物を分離株として獲得する技術開発を進め、培養例が極めて限られていた系統を含む多様な未培養微生物を分離株として獲得できることを実証しました※4。加えて、高い可培養化率を保持したまま目的の機能を持つ未培養・難培養微生物を分離株として獲得するため、mMD技術※5およびGMD in WODL技術※6などのスクリーニング技術を確立しました。その応用例の一つとして、多様な抗菌物質を産生する微生物の獲得に向けた研究を進めています。現在、これらの要素技術の一部について、後述の「ドロップレット表現型スクリーニングシステム」との接続を進めています。
図2 本事業で開発した高い可培養化率を実現するドロップレット培養技術
(提供:広島大学、産総研)
Gel Micro Droplet (GMD)ならびにWater in Oil Droplet (WODL)を用いた微生物の可培養化技術を開発した。GMDを凝集させて培養する、あるいはWODLを高密度に培養して微生物間相互作用を促すことで、環境中の微生物の高い可培養化率を実現した。
(2)微生物の表現型スクリーニング技術の開発
微生物を1細胞ずつ油中のドロップレットに閉じ込め、培養と機能測定を同時に行いながら、蛍光などを指標として目的の機能を示すドロップレットを高速に選別する表現型スクリーニング技術を開発しました。ゲノム情報から機能を推定するだけでなく、生きた微生物がドロップレット内で実際に示す酵素活性、増殖、生産能力などを直接測定します。多数の微生物の中から、目的の機能を持つ微生物を表現型に基づいて選別できます。処理能力は従来のマイクロプレート法の1000倍に達します。
長岡技科大は本技術により、大学構内の土壌から採取した環境微生物を対象に、タンパク質分解酵素(エンドペプチダーゼ)を生産する微生物の探索を実施しました(図3)。約100万個のドロップレットを6時間で解析・分取し、高い活性を示す4種の細菌を取得しました。さらに、そのうちの1株 Lysobacter soli から、ペプチド解析用に市販されている工業用酵素の2.4倍の活性を持つ新規酵素を単離することに成功しました。従来は数か月から年単位を要した有用酵素・有用微生物の探索を、数日から週単位へ短縮できることを実証したものです※7。
本技術の要素技術として、ドロップレットの外へ漏れ出さず7日間以上とどまる新規の蛍光基質(反応効率は従来基質の最大4.7倍)を開発し、従来は検出が難しかった微弱な活性の検出を可能にしました。適用対象は細菌に限らず、ドロップレット培養が難しいとされてきた糸状菌の形質転換体選別(毎分8000ドロップレット、目的株の取得率96%以上)や、油脂生産酵母の「増殖」と「油脂生産」の同時評価にも展開しています。多様な微生物の「増殖」の評価のため、産総研が本事業で技術開発を行い、製品化されている「ドロップレットの中で微生物増殖を検出する試薬※8」もこのスクリーニング技術に応用されています。
図3 本事業で開発した表現型スクリーニング技術による微生物探索と新規酵素の単離
(提供:長岡技科大)
On-chip Sort※9を用いて約100万個のドロップレットを6時間で解析し、市販の工業用酵素を2.4倍上回る活性を持つ新規酵素の生産菌を取得した。
(3)ドロップレット表現型スクリーニングシステムの開発
多数のドロップレットから候補を絞り込む高速な一次選別と、取得した画像を用いる二次選別を組み合わせた「ドロップレット表現型スクリーニングシステム」(図4および5)を開発しました。
ニコンソリューションズは、ドロップレットを撮像し、画像解析と機械学習を用いたAI判定を行うイメージングユニットを開発しました。画像情報を利用することにより、蛍光強度だけでなく、微生物の形態、ドロップレット内での増殖状態、局所的な代謝産物、分解反応などを指標に選別できます。オンチップ・バイオテクノロジーズは、一次選別装置からイメージングユニットへの送液、AI判定結果に基づくプレートへの分注、プレートの交換および保管までを自動で行うシステム全体を開発しました。これにより、画像判定によって目的の特徴を持つドロップレットを選別するだけでなく、プレートに回収し、その後の培養や詳細な解析につなげることが可能になりました。また、産総研は、蛍光を使用しない一次選別の高感度化を達成しました。現在、蛍光標識の使用が適さない試料への適用を進め、選別対象および選別指標の拡大に取り組んでいます。長岡技科大は、実際の環境試料を用いた検証に着手しており、システム全体の有効性の確認を進めています。
図4 「ドロップレット表現型スクリーニングシステム」の構成
(提供:オンチップ・バイオテクノロジーズ)
各要素技術を一連の工程として組み合わせることにより、多数の候補を高速に処理しながら、微生物が実際に示す多様な表現型を評価し、目的の微生物を回収できます。有用微生物や有用酵素の探索に加え、微生物育種や新たな生物資源の獲得への活用が期待されます。
図5 「ドロップレット表現型スクリーニングシステム」の外観イメージ
(提供:オンチップ・バイオテクノロジーズ)
3.今後の予定
今後、産総研と広島大学は未培養・難培養微生物の可培養化技術の高度化および適用対象の拡大を進めるとともに、「ドロップレット表現型スクリーニングシステム」との接続を進めていきます。長岡技科大および産総研は、環境微生物探索や有用微生物の育種を通じて、本事業の成果である「ドロップレット表現型スクリーニングシステム」の有効性の検証を進めます。2027年度からは、長岡技科大を中心としたスクリーニング拠点において、本事業で開発した技術のテスト運用を開始し、2027年度末にはオンチップ・バイオテクノロジーズが一次選別、画像による二次選別および回収工程を統合した「ドロップレット表現型スクリーニングシステム」の製品化を予定しています。併せて、画像による選別機能に特化した簡易型システムについても、オンチップ・バイオテクノロジーズおよびニコンソリューションズの両社が製品化を計画しています。
また、本事業で開発したミリオンスクリーニング技術の社会実装を担う企業の一つとして、2026年3月に長岡技科大発のスタートアップ「ECHIGO MICROBES 株式会社※10」(新潟県長岡市、代表取締役:中村彰宏)が設立されました。同社は、本技術を活用した有用微生物の探索・育種受託サービスの事業化を進めています。従来は年単位を要した有用微生物や酵素の探索・育種の効率化を図るとともに、変異導入から優良株の取得までを支援するサービス展開を目指しています。
NEDOは2026年度末の事業終了まで、ミリオンスクリーニング技術をはじめとするバイオプロセス開発に必要な要素技術の開発を進めるとともに、バイオものづくりの研究開発拠点を整備します。事業終了後もこの拠点をハブとして、各実施者がそれぞれの強みを生かして技術の高度化と成果の社会実装を進めることで、日本のバイオエコノミーの発展に貢献することを目指します。
なお、本技術に関連する開発成果の一部を、2026年10月7日(水)から9日(金)までパシフィコ横浜で開催される「BioJapan 2026」のNEDOブースおよび産総研ブースで紹介します。また、10月8日15時より開催するNEDOのスポンサーセミナー「微生物・酵素資源の新たな探索技術とその展開」では、ミリオンスクリーニング技術の開発成果と社会実装に向けた取り組みを紹介します。
注釈
※1 本事業
事業名:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
事業期間:2020年度~2026年度
事業概要:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100170.html
※2 世界で初めて
微小なドロップレットの中で培養した微生物を、蛍光と高精細画像の二段階で選別し、目的ドロップレットの分注・回収までを探索に必要な100万ドロップレット規模の速度で実行できる装置は世界初です(オンチップ・バイオテクノロジーズ調べ、2026年8月時点)。
※3 可培養化できることを明らかにしています
高密度WODL培養技術(特開2026-145057、産総研)
※4 実証しました
Suzuki et al., Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 76(7), 2026、Iwashita et al. Microbiol. Resour. Announc., 15(3), 2026、Peng et al., Microbiol. Resour. Announc., in press (2026)
※5 mMD技術
Multi-layered Microdroplet (mMD)技術(PCT/JP2024/010423、広島大学)
※6 GMD in WODL技術
GMD in WODL技術(特開2026-144793、産総研)
※7 数日から週単位へ短縮できることを実証したものです
Nakamura et al., Appl. Environ. Microbiol. 91(7), e00109-25 (2025)
※8 ドロップレットの中で微生物増殖を検出する試薬
バイオものづくりを支える微生物探索のための基盤技術を開発 -ドロップレットの中で微生物増殖を検出する試薬を製品化-
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20240926/pr20240926.html
※9 On-chip Sort
オンチップ・バイオテクノロジーズ製の交換型マイクロ流路を用いるセルソーター
https://on-chip.co.jp/product/on-chip_sort/
※10 ECHIGO MICROBES株式会社
ECHIGO MICROBES 株式会社 https://echigomicrobes.jp/
【お問い合わせ先】
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO バイオ・材料部 スマートセルチーム 担当:板屋、妙本、木下、原田
E-mail:bioproduction[*]ml.nedo.go.jp
長岡技科大 担当:技学研究院技術科学イノベーション系 小笠原渉
E-mail:owataru[*]vos.nagaokaut.ac.jp
産総研 担当:モレキュラーバイオシステム研究部門 佐々木章
E-mail:akira.sasaki[*]aist.go.jp
広島大学 担当:大学院統合生命科学研究科 青井議輝
E-mail:yoshiteruaoi[*]hiroshima-u.ac.jp
オンチップ・バイオテクノロジーズ 担当:技術開発部 青木大一郎
E-mail:d-aoki[*]on-chip.co.jp
ニコンソリューションズ 担当:バイオサイエンス営業本部
E-mail:Nsl-bio.Marketing[*]nikon.com
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 経営企画部 広報企画・報道課 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press[*]ml.nedo.go.jp
E-mailは上記アドレスの[*]を@に変えて使用してください。
※新聞、TVなどで弊機構の名称をご紹介いただく際は、“NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)”または“NEDO”のご使用をお願いいたします。