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【研究成果】植物の成長を調節する新たな仕組みを解明 -高収量・環境ストレス耐性品種の開発につながる可能性-

本研究成果のポイント

  • 植物の成長を抑えるタンパク質「DELLA」と協力して働く新たな因子をAirIDを用いたスクリーニングにより探索し 、ヒストン修飾酵素「HAC1」を発見しました。
  • DELLAとHAC1が協力して遺伝子の発現を調節し、植物の成長を制御していることを明らかにしました。
  • 成長を抑える遺伝子「ERF2」を新たに発見し、DELLAがERF2を介して植物の成長を抑える仕組みを解明しました。
  • 本研究成果は、植物の成長や環境応答を制御する仕組みの理解を深めるものであり、将来的には収量性と環境ストレス耐性を兼ね備えた農作物の品種改良への応用が期待されます。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科の深澤壽太郎准教授、安藤広記大学院生、高橋陽介名誉教授の研究グループは、愛媛大学先端研究院プロテオサイエンスセンターの野澤彰准教授、澤崎達也教授、徳島大学先端酵素学研究所の小迫英尊教授らと共同で、植物の成長を抑制するタンパク質DELLAがヒストンアセチル基転移酵素HAC1と協調してはたらく新たな成長制御機構を発見しました。本研究では、ジベレリン信号伝達の抑制因子であるDELLAの相互作用因子としてHAC1を同定し、GAF1-DELLA-HAC1複合体がヒストン修飾を介して標的遺伝子の転写を活性化する仕組みを明らかにしました。さらに、成長抑制遺伝子ERF2を新規GAF1標的遺伝子として見出し、その発現制御を通じてDELLAが植物成長を抑制する仕組みを解明しました(図1)。本年はジベレリン発見100周年にあたり、本研究成果はジベレリンによる成長制御機構の理解を大きく前進させる新たな仕組みを明らかにしたものです。
 本研究成果は、国際学術雑誌『The Plant Cell』に令和8年8月11日(日本時間)付で掲載されました。

論文情報

掲載雑誌名:The Plant Cell
掲載日:2026年8月11日
タイトル:DELLA proteins interact with HAC1 and control plant growth via transcriptional regulation of the growth repressor gene ERF2
著者:Hiroki Ando、Akira Nozawa、Hidetaka Kosako、Tatsuya Sawasaki、Yohsuke Takahashi、Jutarou Fukazawa
(安藤 広記、野澤 彰、小迫 英尊、澤崎 達也、高橋 陽介、深澤 壽太郎)
DOI:10.1093/plcell/koag235

研究支援

 本研究は、以下のサポートを受けて実施されました。科学研究費補助金:23K05818、内藤記念科学奨励金・研究助成、大隅基礎科学創成財団・研究助成、愛媛大学プロテオサイエンスセンター共同利用・共同研究拠点 PRiME、徳島大学先端酵素学研究所 共同利用・共同研究拠点、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2132

背景

ジベレリン(GA)※1は、植物の発芽、伸長成長、花成などを促進する植物ホルモンです。GAは1926年に黒沢英一により発見され、その後、薮田貞治郎らにより単離・命名されました。GAシグナル伝達において、植物固有のタンパク質であるDELLA※2は主要な抑制因子として機能します。植物が環境ストレスに曝されると体内のGA量が減少し、DELLAが蓄積することで成長が抑制されることが知られています。これまでに、DELLAと相互作用する転写因子としてGAF1が同定されており、GAF1-DELLA複合体は標的遺伝子の転写※3を活性化することが報告されていました。しかし、DELLAがどのような分子機構によって転写を活性化するのかは明らかになっていませんでした。また、DELLAが蓄積した植物では成長が抑制されることから、GAF1-DELLA複合体の標的遺伝子には成長抑制に関わる因子が含まれていると考えられていました。本研究では、ジベレリン量が低下すると、DELLAとHAC1が結合し、ERF2遺伝子の発現を促進することで植物の成長が抑制されることを明らかにしました。

研究成果の内容

 本研究では、近位依存性ビオチン化酵素AirIDを用いて、DELLAタンパク質との相互作用因子を探索し、ヒストンアセチル基転移酵素HAC1を新たなDELLA相互作用因子として同定しました(図2)。HAC1がGAF1-DELLA複合体による転写活性化に関与しているのかを調べるため、hac1変異体におけるGAF1複合体標的遺伝子の発現量を解析した結果、野生型植物と比較してhac1変異体ではDELLA蓄積時に観察されるGAF1標的遺伝子の発現量増加が抑制されていました。さらに、HAC1抗体、およびヒストンH3のアセチル基を認識する抗体を用いたChIP(クロマチン免疫沈降)解析※4より、HAC1はDELLA蓄積依存的にGAF1標的遺伝子のプロモーター上にリクルートされており、ヒストンH3のアセチル化修飾※5を促進していることを明らかにしました(図3)。
DELLAが蓄積するとGAF1標的遺伝子の発現は促進される一方で、植物の成長は抑制されます。このことから、GAF1標的遺伝子の中には成長を抑制する因子が存在すると考えられていました。本研究において新たな標的遺伝子を探索した結果、転写因子ETHYLENE RESPONSE FACTOR2(ERF2)を新規GAF1標的遺伝子として同定しました。ERF2が成長抑制遺伝子として機能するのかを調べるため、CRISPR-Cas9によるゲノム編集技術を用いたerf2欠損変異体およびERF2過剰発現体を作出し、表現型を観察しました。erf2欠損変異体は野生型植物と比べて成長が促進され、ERF2過剰発現体は成長が抑制されたことから、ERF2が成長抑制遺伝子として機能することを明らかにしました(図4)。さらに、ERF2の発現制御も、他のGAF1標的遺伝子と同様に、DELLA-HAC1を介したヒストンのアセチル化修飾が関与することを明らかにしました。
 これらの結果から、DELLA蓄積時にはGAF1-DELLA-HAC1三者複合体が形成され、ヒストンのアセチル化修飾を介して成長抑制遺伝子であるERF2を含むGAF1標的遺伝子の転写を促進することで植物の成長を抑制していることが明らかになりました。

今後の展開

 DELLAタンパク質は陸上植物に広く保存されている因子であるため、本研究で用いたモデル植物であるシロイヌナズナだけでなく、多くの農作物においても類似した成長制御機構が存在する可能性があります。1960年代に起こった「緑の革命」では、ジベレリン(GA)信号伝達に関わる遺伝子の変異を利用した半矮性品種の育種によりイネやコムギなどの穀物の収量が飛躍的に向上し、世界的な食料生産の増加に大きく貢献しました。これまでに、GAF1-DELLA複合体が、GA生合成や、GAによる花成制御に関与することを明らかにしてきましたが、本研究で明らかになったDELLAタンパク質の新たな制御機構は、植物の生育や環境応答をより精密に制御するための新たな分子基盤となる可能性があります。今後、農作物において同様の仕組みが明らかになれば、収量性と環境ストレス耐性を両立した新品種の育種など、持続可能な農業への応用が期待されます。

参考資料

図1. GAF1-DELLA-HAC1による成長制御抑制機構の概要
 DELLAは標的遺伝子の転写を促進する機能をもつことが知られていたが、その詳細な分子機構は明らかになっていなかった。本研究では、DELLAの新たな相互作用因子としてヒストンアセチル基転移酵素HAC1を同定し、ヒストンのアセチル化修飾がDELLAを介した転写の活性化に重要な役割を担っていることを示した。さらに、GAF1-DELLA-HAC1複合体の新たな標的遺伝子としてERF2を同定し、ERF2が成長抑制遺伝子として機能することを見出した。

図2. DELLAとHAC1の相互作用の検証
A) HAC1をアミノ末端側(nHAC1)とカルボキシ末端側(cHAC1)に分割し、植物細胞内でDELLAとどの領域で相互作用しているのかを解析した。 nHAC1は、DELLAと核内で相互作用する一方、cHAC1はDELLAと相互作用しないことが示された。
B) GFP-DELLAを発現する形質転換植物をGA生合成阻害剤PAC処理、または、PACとGAの同時処理後にタンパク質を抽出し、Anti-GFP抗体、Anti-HAC1抗体を用いて共免疫沈降解析を行った。PAC処理によりGFP-DELLAが蓄積すると、HAC1がGFP-DELLAと相互作用することが植物体内で確認された。

図3. DELLA蓄積によりHAC1がGAF1標的遺伝子のプロモーターにリクルートされ、ヒストンH3のアセチル化を促進する
A) Anti-HAC1抗体を用いたGAF1標的遺伝子のChIP解析
 PAC処理によりDELLAが蓄積すると、HAC1がGAF1標的遺伝子のプロモーター領域にリクルートされることが示された。
B) アセチル化ヒストンH3を認識する抗体(Anti-H3ac)を用いて、ヒストンH3のアセチル化レベルを解析した結果。野生型植物Col-0では、PAC処理時にGAF1標的遺伝子のプロモーターおよびコーディング領域でヒストンH3のアセチル化が促進された。一方、hac1変異体ではPAC処理時のアセチル化修飾が抑制され、HAC1がDELLA依存的なヒストン修飾に必須であることが示された。

図4. ERF2は成長抑制遺伝子として機能する
A) ゲノム編集によりERF2遺伝子を欠失させたerf2変異体では、野生型植物と比較して成長が促進された。一方、ERF2過剰発現体(ERF2-OE)では成長が抑制され、ERF2が成長抑制遺伝子として機能することが示された。
B) 野生型、erf2変異体、ERF2過剰発現体のロゼット葉の半径を比較したグラフ
C) 野生型、erf2変異体、ERF2過剰発現体の根の長さを比較したグラフ

用語説明

※1 ジベレリン(GA)
 植物の発芽、伸長成長、花成などを促進する植物ホルモン。

※2 DELLAタンパク質
 緑の革命で利用された半矮性化の原因遺伝子の1つ。GA信号伝達の抑制因子であり、植物の成長を抑制する「ブレーキ役」として機能します。GAが合成されるとDELLAタンパク質が分解され、成長のブレーキが解除されることで植物の成長が促進される。植物の成長を調節する中心的な因子として知られている。

※3 転写
 DNAに記録された遺伝情報をRNAに写し取る過程のこと。転写されたRNAをもとにタンパク質が合成される。

※4 ChIP(クロマチン免疫沈降)解析
 目的タンパク質に対する抗体を用いて、標的遺伝子のプロモーターやコーディング領域にそのタンパク質が結合しているかを検証する実験。生体内で目的タンパク質が直接、あるいは複合体を形成して標的領域に結合しているかを明らかにできる。

※5 ヒストンのアセチル化修飾
 ヒストンはDNAを巻き付けて核内に収納するためのタンパク質。ヒストンの特定のアミノ酸(リジン)にアセチル基が付与されると、DNAが緩み、遺伝子の情報が読み取られやすくなるため、転写が活発になる。
 

【お問い合わせ先】

■研究に関するお問い合わせ先
広島大学大学院統合生命科学研究科
基礎生物学プログラム 植物生理・発生学研究室
准教授 深澤 壽太郎(ふかざわ じゅたろう)
Tel:082-424-7454
E-mail:jutarouf*hiroshima-u.ac.jp

■報道に関するお問い合わせ先
広島大学 広報グループ
Tel:080-424-4383 FAX:082-424-6040
E-mail:koho*hiroshima-u.ac.jp

愛媛大学 総務部広報課広報チーム
Tel:089-927-9022
E-mail:koho*stu.ehime-u.ac.jp


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