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【研究成果】健康維持に有用なDHAやEPAは漬物の調味廃液から!? ~魚に頼らない新たな生産方法に期待~

本研究成果のポイント

  • 広島菜などの漬物をつくる際に出る調味廃液を使ってスラウストキトリッド[1]という微生物を育て、ヒトの健康維持に有用なドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)[2]を含む培養産物が生産できることを確認しました。
  • スラウストキトリッドを育てる際、漬物調味廃液は滅菌[3]する必要がなく、漬物調味廃液は繰り返し使用できることが分かりました。また、調理廃液を繰り返し使用すると、乳酸の蓄積などによってスラウストキトリッドが増えにくくなり、DHAやEPAの生産量が低下することも明らかになりました。
  • 生産したDHA、EPAを含む培養産物は、将来的にDHA・EPAを多く含む鶏卵や養殖魚の生産に利用できることが期待されます。

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の中井智司教授らの研究グループは、広島菜などの漬物をつくる際に出る調味廃液を利用して、DHAやEPAを生産できることを実証しました。
 漬物の調味廃液は、DHAやEPAは、健康維持に役立つ成分として食品やサプリメントなどに利用されています。現在、その主な原料は魚油ですが、将来的な需要の増加を考えると、魚に頼らない新たな生産方法が求められています。
 研究グループは、DHAやEPAを生産できるスラウストキトリッドという微生物に着目しました。この微生物を広島菜などの漬物調味廃液を使って育てたところ、廃液を滅菌しなくてもDHA・EPAを生産できることを確認しました。また、広島菜の調味廃液を繰り返し利用しても、DHA・EPAを生産できることが分かりました。
 一方、調味廃液を繰り返し利用すると、微生物の増殖やDHA・EPAの生産量が低下しました。その原因の一つとして、廃液に蓄積する乳酸がスラウストキトリッドの増殖を妨げることを初めて明らかにしました。
今回の成果は、これまで再利用が難しかった漬物調味廃液を、DHA・EPAを生み出す資源として有効活用できる可能性を示すものです。今後、DHA・EPAを多く含む鶏卵や養殖魚の生産などへの活用が期待されます。

 本研究成果は、2026年7月17日(金)(日本時間)にElsevier社の学術誌「LWT」にオンライン掲載されました。

論文情報

・論文のタイトル:“Repeated use of liquid pickle seasoning waste for the cultivation of Aurantiochytrium sp. in sustainable production of polyunsaturated fatty acids”
・著者:Anh Thi Nhat Tran, Satoshi Nakai, Toshikazu Suenaga, Takehiko Gotoh, Akira Umehara, Wataru Nishijima, Radita Putradhitama Novanda
・掲載雑誌:LWT
・巻:254
・番号:119753
・DOI:10.1016/j.lwt.2026.119753.

背景

 DHAやEPAなどの多価不飽和脂肪酸はヒトの健康維持に有用な物質であり、DHA・EPAサプリメントやDHA・EPA強化鶏卵など、DHAやEPAを含む機能性表示食品の需要が増加しています。また、海産魚の成育にはDHAやEPAが必要であり、養殖魚の飼料にも利用されています。DHAやEPAの主な原料は魚油ですが、これら多価不飽和脂肪酸の今後の需要の増大を鑑みれば、漁獲に依存する魚油の生産は持続的ではありません。
 そこで、広島大学大学院先進理工系科学研究科の中井智司教授は、DHAやEPAを生産する微生物スラウストキトリッドに着目しました。この微生物は塩分がある環境を好み、有機物を分解して増殖します。一方、漬物の調味廃液は多くの有機物を含むものの高塩分であり、再利用は困難でした。そこで、漬物の食品廃棄物をスラウストキトリッドの基質(餌)として利用し、得られた培養産物をニワトリや海産魚のDHA・EPA源として利用する“炭素循環[4]シナリオ”(図1)の研究に着手しました。

研究成果の内容

 もともと漬物の調味廃液は酸性でしたが、中性のpH7に調整して酸性に馴れた共雑微生物の増殖を一時的に抑制し、スラウストキトリッドの一つAurantiochytrium sp. L3Wを植種して培養しました。その結果、表1に示すように人工培地を用いた場合には及ばないまでも、DHAやEPAを含むバイオマス(培養産物)を得ることができました。特に、広島菜や梅干しの調味廃液から得られたバイオマスは、鶏卵のDHA含有量の増強に利用できるレベルに達していました。なお、培養産物の数値には、共雑微生物である酵母なども含まれていたため、DHAやEPA含有量が人工培地を用いた場合よりも低かった原因の一つであったと考えられます。また、サクララディッシュの調味廃液を用いた場合、培養産物の生産量と共に、DHAやEPA含有量が低くなっていますが、この原因の一つとしてL3W株以外の共雑微生物の影響が強く表れたことが考えられました。実際に脂肪酸の組成を比較しますと、他と異なり、サクララディッシュではオレイン酸の寄与が大きくなっていました(図2)
 次にL3W株の培養に利用した広島菜の調味廃液から遠心分離により培養産物を分離し、その上澄みをpH7としL3W株の培養に繰り返して利用しました。表2には増殖量(細胞数)や培養開始時の廃液中の乳酸の濃度も加わっています。繰り返して使用しても、L3W株の増殖とDHA・EPAの生産が確認されました。但し、再利用と共にこれらは低下し、再利用2回目にはDHA・EPA源としての使用は困難なレベルになっていました。この時、乳酸濃度は0.75から2.4、2.7mg/Lに増えました。
 そこで、増殖量低下の原因を調べるため、人工培地に乳酸を添加してその阻害効果をチェックしました。その結果、図3に示すように乳酸が0.75mg/Lの時でもL3Wの増殖量は92%となっており、乳酸濃度が2.4、2.7mg/Lに増えると、増殖量は40%、36%まで低下することが確認されました。これより、調味廃液の再利用において、乳酸の蓄積がL3W株の増殖阻害の原因となり得ることを確かめました。但し、再利用1回目から2回目にかけての増殖量の低下(表2)は、図3にて示される乳酸濃度の増加による阻害効果では説明できず、特に再利用2回目では、L3W株が利用しやすい基質(L3Wの食べ物)がなくなった影響が強く表れたと推定されました。なお、乳酸によるスラウストキトリッドの増殖抑制効果を確認した研究はこれまでになく、本報告が初めての例となりました。

今後の展開

 漬物調味廃液により得られたL3W株のバイオマスは、鶏卵のDHA、EPA源となるだけでなく、水産養殖でのDHA、EPA源として利用できる可能性があります。今後は、養殖魚用のDHA、EPA源としての利用可能性の評価も行っていきたいと考えています。

参考資料

図1 炭素循環による漬物調味廃液からのDHA・EPA生産

 

表1 各漬物調味廃液を用いたL3W株の培養で得られたバイオマス(培養産物)生産量、そのDHA、EPA含有量

図2 各調味廃液を用いて生産されたバイオマスの脂肪酸組成の比較

 

表2 広島菜漬物調味廃液を繰り返して用いたL3W株の培養におけるL3W株の増殖量、バイオマス(培養産物)生産量、そのDHA、EPA含有量、及びL3W株培養前の廃液中の乳酸濃度

図3 乳酸によるL3W株の増殖量の変化(縦軸の1は乳酸を加えないときのL3W株の増殖量であり、乳酸濃度の増加に伴う増殖量の低下を相対値にて表す)
 
 

用語説明

[1]スラウストキトリッド
有機物を利用して増殖する好塩性の微生物であり、DHAやEPAといった多価不飽和脂肪酸を生産する。

[2]DHA・EPA
魚などに多く含まれる脂肪酸の一種。人の健康維持に役立つ成分として、サプリメントや機能性表示食品などに利用されている。

[3]滅菌
細菌などの微生物を死滅・除去する処理。本研究では、漬物調味廃液を滅菌しなくてもスラウストキトリッドを培養できることを確認した。

[4]炭素循環
炭素を含む物質を廃棄せず、別の資源として利用し、循環させること。本研究では、漬物の調味廃液に含まれる有機物を微生物の栄養源として利用し、DHA・EPAを含む培養産物に変えて、鶏卵や養殖魚などに活用する循環を想定している。

その他

本研究はJSPS科研費(23K25034, 25K03297)、及び JST eASIA(JPMJSC21E8)の助成を受けて行われました。

【お問い合わせ先】

大学院先進理工系科学研究科 教授 中井智司
Tel:082-424-7621 
E-mail:sn4247621*hiroshima-u.ac.jp


 (*は半角@に置き換えてください)


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