広島大学病院 リウマチ・膠原病科 クリニカルスタッフ 小林 弘樹
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本研究成果のポイント
- これまで主に血液中や細胞の外で働くと考えられてきたタンパク質「CFH (Complement Factor H))」(注1)が、関節リウマチに関わる細胞「FLS(滑膜線維芽細胞)」(注2)の中にも存在することを明らかにしました。
- 細胞内のCFHが、細胞内で炎症の情報を伝える仕組みである「NOD2/RIPK2/NF-κB経路」(注3)を通じて、炎症に関わる物質(GM-CSF、IL-8、IL-6)(注4)などを増やし、関節リウマチの炎症反応をさらに強めることを明らかにしました。
- 細胞内のCFHの働きを抑えることが、現在使われているTNF阻害薬(注5)を補う新たな治療法につながる可能性があります。
概要
広島大学病院リウマチ・膠原病科の小林弘樹医師、同検査部の茂久田翔准教授、同リウマチ・膠原病科の平田信太郎教授らの研究グループは、愛媛大学大学院医学系研究科解析病理学講座の増本純也教授との共同研究により、「CFH(補体H因子)」というタンパク質が、関節リウマチの炎症を強める新たな仕組みを明らかにしました。
CFHはこれまで、主に血液中や細胞の外で働き、免疫反応の一つである「補体系」が過剰に働くのを抑えるタンパク質として知られていました。ところが今回、関節リウマチで炎症が起こる関節の「滑膜」にある「滑膜線維芽細胞」の中にもCFHが存在することがわかりました。さらに、炎症を引き起こす物質であるTNF(注6)の刺激を受けるとCFHが増えることを確認しました。
研究の結果、細胞内で増えたCFHは、NOD2/RIPK2/NF-κB経路と呼ばれる細胞内で炎症の情報を伝える仕組みを活性化し、GM-CSF、IL-8、IL-6などの炎症を促す物質をさらに増やすことを明らかにしました。
また、TNFの働きを抑える既存の治療と細胞内CFHの動きを抑える方法を組み合わせることで、炎症をより効果的に抑えられる可能性も示されました。今後、細胞内CFHを狙った治療法の研究が進めば、現在の関節リウマチ治療を補う新たな治療につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年8月4日に国際学術誌「Inflammation and Regeneration」にオンライン掲載されました。
論文情報
・掲載雑誌
Inflammation and Regeneration, 2026. Impact factor=7.7
・著者
Hiroki Kobayashi, Sho Mokuda, Michinori Ishitoku, Hirofumi Watanabe, Tomohiro Sugimoto, Yusuke Yoshida, Junya Masumoto and Shintaro Hirata
・論文題目
TNF-driven intracellular complement factor H– NF-κB feed-forward loop amplifies inflammatory mediator production in rheumatoid arthritis synovial fibroblasts
・DOI
https://doi.org/10.1186/s41232-026-00437-1
背景
関節リウマチは、免疫系の異常により関節の滑膜に慢性的な炎症が生じる自己免疫疾患です。現在はTNF阻害薬やIL-6阻害薬などの生物学的製剤によって多くの患者さんの症状は改善しますが、十分な効果が得られない場合もあります。
TNFは関節リウマチの炎症に深く関わる主要な炎症性サイトカインの一つです。一方、TNFによる炎症シグナルが細胞内でどのように増幅され、持続的な炎症反応につながるのかについては十分に分かっていませんでした。
CFHは補体系の過剰な活性化を抑える制御タンパク質として古くから知られており、一般には血液中や細胞外で働くと考えられてきました。しかし、関節リウマチの滑膜線維芽細胞の細胞内におけるCFHの役割は十分にわかっていませんでした。
そこで本研究では、関節リウマチ滑膜線維芽細胞における細胞内CFHの存在と、その炎症反応における機能を詳細に解析しました。
研究成果の内容
まず、関節リウマチ患者では血清CFH濃度が健常者より高く、疾患活動性と相関することを確認しました。また、滑膜組織では、変形性関節症患者と比べてCFHが高発現し、CFHが滑膜線維芽細胞(FLS)内に存在することを明らかにしました(図1)。
図1.関節リウマチ滑膜ではCFHが滑膜線維芽細胞内で高発現している。
RA:関節リウマチ、OA:変形性関節症
次に、関節リウマチの主要な炎症性サイトカインであるTNFで滑膜線維芽細胞を刺激すると、CFHの発現が増加することを明らかにしました(図2)。このCFH発現誘導には、炎症反応に関わる転写因子NF-κBが関与していることも示されました。
図2.TNF刺激により滑膜線維芽細胞のCFH発現が増加する
さらに、滑膜線維芽細胞内でCFHが多量な状態を人工的に生じさせると、GM-CSF(CSF2)やIL-8(CXCL8)をはじめ、TRAF1、CXCL1、CXCL2、CCL3など、関節リウマチの病態に関わる複数の炎症関連遺伝子の発現が有意に増加しました(図3)。これらの結果から、細胞内CFHが複数の炎症性メディエーター関連遺伝子の発現を促進し、炎症反応を増幅することが示されました。
図3.細胞内CFHはGM-CSFやIL-8などの炎症関連遺伝子の発現を促進する
最後に、本研究で得られた結果をもとに、細胞内CFHによる炎症増幅メカニズムをまとめました(図4)。TNF刺激によって滑膜線維芽細胞のGM-CSF、IL-8、IL-6などの炎症性メディエーターの産生能が亢進します。そこにCFHの増加が加わると、細胞内CFHはNOD2/RIPK2/NF-κB経路を介してNF-κBシグナルをさらに活性化します。NF-κBを介してCFH自身の発現も促進されることから、TNFによって生じた炎症性メディエーターの産生を持続・増強する「フィードフォワード増幅ループ」(注7)が形成されることが明らかになりました。
図4.本研究で明らかになった細胞内CFHによる炎症増幅メカニズム
以上より、本研究では、これまで細胞外で補体系を制御するタンパク質として知られていたCFHが、滑膜線維芽細胞内ではTNFシグナルを増幅し、関節リウマチの炎症を促進する新たな役割を担うことを明らかにしました。細胞内CFHは、今後、新たな治療標的候補となる可能性があります。
今後の展開
本研究は、補体制御タンパク質CFHに、細胞内でTNFシグナルを増幅する新たな機能があることを示しました。
今後は、細胞内CFHを選択的に制御する方法や、その効果・安全性をさらに検証する必要があります。こうした研究が進めば、細胞内CFHが既存のTNF阻害薬などを補完する新たな治療標的となる可能性があります。
用語解説
Complement Factor H(CFH)(注1):補体系の過剰な活性化を抑えるタンパク質。これまで主に血液中や細胞外で働くことが知られていたが、本研究では関節リウマチの滑膜線維芽細胞内にも存在し、炎症を増幅する新たな役割を持つことを明らかにした。
滑膜線維芽細胞(FLS)(注2):関節を覆う滑膜に存在する細胞。関節リウマチでは活性化し、炎症性物質や関節を破壊する酵素などを産生して病態に関与する。
NOD2/RIPK2/NF-κB経路(注3):細胞内の炎症シグナル伝達経路の一つ。活性化するとNF-κBを介して炎症性サイトカインやケモカインなどの産生が促進される。
GM-CSF・IL-8・IL-6(炎症性メディエーター)(注4):炎症反応に関わるタンパク質群。免疫細胞の活性化や炎症部位への集積などを促す。
TNF阻害薬(注5):TNFの働きを抑える分子標的治療薬。関節リウマチの標準的な治療選択肢の一つ。
TNF(注6):Tumor Necrosis Factor(腫瘍壊死因子)の略称。関節リウマチにおいて炎症を引き起こす代表的なサイトカインの一つであり、多くの炎症性物質の産生を促進する。
フィードフォワード増幅ループ(注7):最初の刺激によって増えた因子が同じシグナルをさらに強め、反応が持続・増幅する仕組み。本研究では、TNFで増加した細胞内CFHがNF-κBシグナルを強め、さらにCFH発現も促進する循環が示された。

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