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【研究成果】感染細胞を守る仕組みが、ウイルス増殖を支えていた -感染細胞のPDLIM2が過剰反応を防ぎ、細胞とウイルスが生き残る環境を維持-

本研究成果のポイント

  • 水ぼうそうや帯状疱疹の原因ウイルスと同じ仲間であるヒトヘルペスウイルス6Aは、ウイルス粒子を介してU14というタンパク質を人の細胞内へ持ち込み、細胞の免疫反応を一時的に利用して、自らの増殖に必要な遺伝子を働かせることが分かりました。
     
  • しかし、この反応が長引くと、過剰な防御反応やDNA損傷反応によって感染細胞に負担がかかります。そこで、細胞が持つタンパク質PDLIM2が、免疫や炎症に関係する遺伝子を働かせるタンパク質NF-κBの活動を弱めるとともにU14を分解し、感染細胞が傷つくのを抑えることを明らかにしました。
     
  • 細胞内でPDLIM2が作られる量を減らすと、過剰な反応が続き感染細胞が生き続けにくくなり、その細胞から外へ放出されるウイルスの量も減りました。つまり、PDLIM2が感染細胞を守ることで、結果としてウイルスが増殖を続けられる環境も保たれることが分かりました。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科の有井潤教授らの研究グループは、ヒトヘルペスウイルス6A(HHV-6A※1)が、人の細胞内の防御反応を利用して増殖しやすい環境をつくる仕組みを明らかにしました。HHV-6Aは、水ぼうそうや帯状疱疹の原因ウイルスと同じ仲間です。
HHV-6Aは感染初期に、U14※2というタンパク質を細胞内へ持ち込みます。U14は、免疫や炎症に関係する遺伝子を働かせるタンパク質NF-κB※3を一時的に活性化し、ウイルス遺伝子の発現を促します。しかし、この反応が長引くと、過剰な防御反応やDNA損傷反応によって感染細胞に負担がかかります。
 そこで、人の細胞が持つタンパク質PDLIM2※4が、NF-κBの活動を弱めるとともにU14を分解し、感染細胞が傷つくのを抑えます。細胞内でPDLIM2が作られる量を減らすと、NF-κBの活性化と核内U14の蓄積が続き、感染細胞の生存率と細胞外へ放出されるウイルス量が低下しました。PDLIM2が感染細胞を守ることが、結果としてウイルスの増殖も支えていることを示す成果です。
 本研究は、広島大学、神戸大学、岐阜薬科大学の共同研究として実施され、国際学術誌「PLOS Pathogens」に掲載されました(2026年9月23日掲載 ・DOI:10.1371/journal.ppat.1014576)。

発表論文

掲載誌:PLOS Pathogens
論文名:Host-directed clearance of nuclear tegument U14 terminates NF-κB signaling and supports HHV-6A replication
著者:Khoir Amaliinᵃ˒ᵇ, Mansaku Hiraiᵃ˒ᵇ, Salma Aktarᵇ, Tetsuo Koshizukaᶜ, Yasuko Moriᵇ, Jun Ariiᵃ˒ᵇ*
a Department of Virology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan.
b Division of Clinical Virology, Center for Infectious Diseases, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Hyogo, Japan.
c Department of Microbiology and Immunology, Gifu Pharmaceutical University, Gifu, Japan
* 責任著者
DOI:10.1371/journal.ppat.1014576
公開日時:2026年9月23日

背景

 NF-κBは、ウイルス感染などに反応し、免疫や炎症、細胞の生存に関係する遺伝子を働かせるタンパク質です。ヘルペスウイルスの感染初期には一時的に活性化し、感染細胞の生存やウイルス遺伝子の発現を促す場合があります。
 一方、NF-κBの活動が長く続くと、インターフェロンや炎症性サイトカインなどが過剰に作られ、感染細胞にも負担となります。感染初期にウイルスが利用したNF-κBの活動が、その後どのように弱まり、細胞への過剰な負担が抑えられるのかは、十分に分かっていませんでした。

研究成果の内容

1.研究方法・手順
 研究グループは、HHV-6Aに感染させた細胞と、U14だけを作らせた細胞を用い、NF-κBの活動が時間とともにどう変化するかを調べました。さらに、細胞内でPDLIM2が作られる量を減らし、U14の位置と分解、関連遺伝子の働き、感染細胞の生存率、細胞外へ放出されるウイルス量を比較しました。

2.今回分かったこと・従来との違い
 HHV-6Aは感染直後にU14を細胞内へ持ち込み、NF-κBを一時的に活性化して、ウイルス遺伝子を働かせます。しかし、NF-κBの活動が長引くと、過剰な防御反応やDNA損傷反応によって感染細胞に負担がかかります。PDLIM2はU14と結合し、NF-κBの活動を弱めるとともに、U14をプロテアソーム※5によって分解しました。
 細胞内でPDLIM2が作られる量を減らすと、NF-κBの活性化と核内U14の蓄積が続き、抗ウイルス・炎症関連遺伝子やDNA損傷応答関連遺伝子の発現が増加しました。
 その結果、感染細胞の生存率と細胞外へ放出されるウイルス量が低下しました。また、核内に蓄積したU14自体がDNA損傷応答を引き起こすことも分かりました。
 これらの結果から、PDLIM2は感染細胞への過剰な負担を抑え、結果としてウイルスが増殖を続けられる環境を保つと考えられます。

今後の展開

 今後は、HHV-6A以外のヘルペスウイルスや他のウイルスでも、感染初期に活性化したNF-κBの働きが、宿主のタンパク質分解機構によって終息するかを検証し、ウイルス感染に共通する制御原理の解明を目指します。
 将来的には、この仕組みを選択的に制御してウイルスが増殖しやすい細胞内環境を崩すことが、新たな抗ウイルス戦略につながる可能性があります。

図1 感染初期の反応を終息させ、ウイルス増殖を支えるPDLIM2の働き

用語解説

※1 ヒトヘルペスウイルス6A(HHV-6A)
水ぼうそうや帯状疱疹の原因ウイルスと同じ仲間で、人に感染した後も体内に潜み続ける性質を持つウイルスです。

※2 U14
HHV-6Aが人の細胞内へ持ち込むタンパク質です。NF-κBを一時的に活性化し、ウイルス遺伝子の発現を促します。

※3 NF-κB
ウイルス感染などに反応し、免疫や炎症に関係する遺伝子を働かせるタンパク質(転写因子)です。感染防御に関わる一方、活動が長く続くと細胞自身の負担になることがあります。

※4 PDLIM2
人の細胞が持つタンパク質です。活性化したNF-κBの活動を弱めるとともに、ウイルスタンパク質U14の分解を促します。

※5 プロテアソーム
細胞内で不要になったタンパク質を分解する仕組みです。

謝辞

 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(20H03496, 23K18589, 26K23111)、日本科学技術振興機構 創発的研究支援事業(JPMJFR2402)および次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2148)、日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業「核内膜プロテオスタシスの制御」、持田記念医学薬学振興財団、武田科学振興財団などの支援を受けて実施されました。
 このプロジェクトの一部は、日本学術振興会のJ-PEAKS※(JPJS00420230011)の支援を受けており、広島大学では今後も、本支援により医学研究を推進していきます。

※ J-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業)
地域の中核大学や研究の特定分野に強みを持つ大学が、その強みや特色のある研究力を核とした戦略的経営の下、他大学との連携等を図りつつ、研究活動の国際展開や社会実装の加速等により研究力強化を図る環境整備を支援することにより、我が国全体の研究力の発展を牽引する研究大学群の形成を推進することを目的としています。
 

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学 大学院医系科学研究科 教授 有井 潤
Tel:082-257-5157 
E-mail:jarii*hiroshima-u.ac.jp


<報道に関すること>
広島大学 広報グループ
Tel:082-424-3701 
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

神戸大学 企画部広報課
Tel:078-803-5106 
E-mail:ppr-kouhoushitsu*office.kobe-u.ac.jp
 

(*は半角@に置き換えてください)


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