新しい人工ヌクレアーゼPlatinum TALENを用いたゲノム編集によって高効率にカエルやラットの遺伝子改変が可能に!

平成25年11月27日

国立大学法人広島大学
国立大学法人京都大学

新しい人工ヌクレアーゼPlatinum TALENを用いたゲノム編集によって高効率にカエルやラットの遺伝子改変が可能に!

本研究成果のポイント

  • DNA結合モジュールのアミノ酸改変によって、高活性型のTALEN(Platinum TALEN)の開発とその作製システム(Platinum Gate system)の開発に成功
  • Platinum TALENを使うことによって、これまで変異導入効率が低かった哺乳類において高効率に変異導入が可能となった(効率がよい場合は100%の変異導入効率)
  • Platinum TALENは、iPS細胞での遺伝子改変にも利用可能で、医科学・再生医療の進展に大きく貢献すると期待されています

広島大学大学院理学研究科山本卓教授のグループは、京都大学大学院医学研究科の真下知士特定准教授のグループと広島大学原爆放射線医科学研究所の松浦伸也教授のグループとの共同研究により、新しい人工ヌクレアーゼ(※1)Platinum TALEN(※2)の開発とこれを用いたカエルやラットでの高効率の遺伝子改変(ゲノム編集(※3))に成功しました。Platinum TALENを用いたゲノム編集は、iPS細胞などの培養細胞や畜産動物においても効率的に改変可能であることが分かっており、今後、医歯薬学、生物育種等の広範囲の応用研究に利用できると期待されます。
本研究成果は、11月29日、英国Nature Publishing Groupの科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載される予定です。

URL: http://www.nature.com/srep/
論文名:" Repeating pattern of non-RVD variations in DNA-binding modules enhances TALEN activity"
著 者:T. Sakuma, H. Ochiai, T. Kaneko, T. Mashimo, D. Tokumasu,   Y. Sakane, K. Suzuki, T. Miyamoto, N. Sakamoto, S. Matsuura, and T. Yamamoto

背景

近年、さまざまな生物(微生物や植物、動物)で利用できる遺伝子改変技術として、人工の制限酵素(人工ヌクレアーゼ)を用いたゲノム編集(Genome editing)が注目されています。ゲノム編集を用いることによって、細胞内の目的の遺伝子のみに欠失や挿入などの変異を導入し、遺伝子を破壊(ノックアウト)することできます。また、目的の遺伝子の中に外来の遺伝子を挿入(ノックイン)することも可能になります。これまで、人工ヌクレアーゼのZFNやTALENを用いたゲノム編集によって、さまざまな生物での遺伝子改変が行われてきましたが、これらの作製は煩雑であることに加え、哺乳動物では遺伝子改変効率が低いという問題がありました。

研究手法と成果

研究グループでは、これまで使われていた人工ヌクレアーゼのTALENのDNA結合モジュール(※4)のアミノ酸配列を改変し、培養細胞における活性評価を行うことで、高い活性をもったTALEN(Platinum TALEN)の開発に成功しました。また、Platinum TALENを効率的に作製するシステム(Platinum Gate system(※5))を独自に確立しました(図1)。さらに、Platinum TALENを用いて、カエルとラットにおいて50%以上の高い変異導入効率で遺伝子を改変することに成功しました(図2、3)。

期待される波及効果

これまで使われていたTALENは、活性にばらつきがあり、全ての生物で高効率遺伝子改変を実現する人工ヌクレアーゼの開発が必要とされていました。特に、マウスなどの哺乳類での人工ヌクレアーゼでの遺伝子改変効率が低いという問題がありました。今回開発したPlatinum TALENは高効率で遺伝子を改変することが可能であり、これまでの問題を解決し、基礎研究および応用研究に必要な遺伝子改変生物作製に大きく役立つと期待されます。

参考資料

図1 Platinum Gate systemの概要

図1 Platinum Gate systemの概要
2段階(STEP1,2)の反応で、6~21個のDNA結合モジュールを有するPlatinum TALENを構築することができる。

図2 アフリカツメガエルの色素合成に関与する遺伝子をPlatinum TALENによって破壊した例

図2 アフリカツメガエルの色素合成に関与する遺伝子をPlatinum TALENによって破壊した例
左がコントロール胚(Platinum TALENを導入していない胚)で、右がPlatinumTALENを導入した胚。Platinum TALENによって色素合成が効果的に阻害されている。

図3 (上図)ラットでのPlatinum TALENによる遺伝子破壊のイメージ図(下図)導入された変異

図3 (上図)ラットでのPlatinum TALENによる遺伝子破壊のイメージ図(下図)導入された変異

用語説明

※1 人工ヌクレアーゼ
DNAに結合する部分とDNAを切断する部分を人工的に融合させたタンパク質。結合させるDNA配列を自在にデザインできるため、ゲノム中の特定の遺伝子配列のみを切断することが可能 となる。
※2 Platinum TALEN
本研究にて独自に開発された高活性型のTALEN(transcription activator-like effector nuclease)。TALENは、植物の病原細菌であるXanthomonas(キサントモナス)から発見されたDNA 結合タンパク質を利用した人工ヌクレアーゼの一種。
※3 ゲノム編集
人工ヌクレアーゼによってゲノムDNAにDNA二本鎖切断を誘導し、その修復過程において、標的遺伝子へ欠失や挿入変異を導入したり、ドナー構築を用いた相同組換えによって遺伝子を改変する技術。
※4 DNA結合モジュール
TALENのDNAへの結合を担う部位。1つのモジュール(ブロック)がDNAの1塩基を認識し、それを任意の順番で組み合わせることにより、特異的な配列に結合させることができる。
※5 Platinum Gate system
Platinum TALENを効率的に作製するために、本研究にて開発されたシステム。DNA結合モジュールを2段階で組み上げることで、 6~21個のDNA結合モジュールを有する(すなわち6~21塩基のDNA配列を特異的に認識できる)Platinum TALENを構築することが可能である。

本件に関するお問い合わせ先

広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻
教授 山本 卓(やまもと たかし)
TEL: 082-424-7446 FAX: 082-424-7498
E-mail: tybig*hiroshima-u.ac.jp

京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設
特定准教授 真下 知士(ましも ともじ)
TEL: 075-753-9318  FAX: 075-753-4409
E-mail: tmashimo*anim.med.kyoto-u.ac.jp

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