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【研究成果】リュウグウの砂に生命の材料につながる濃厚な塩水の痕跡 ―太古の塩結晶とともに残された多様な窒素化合物―

ポイント

  • 小惑星リュウグウの試料から、アンモニア※1やさまざまな窒素化合物が塩結晶※2の周辺に集まっていることを発見しました。
  • 約45億年前、リュウグウの母体となった天体の水が蒸発・凍結して減少する過程で濃い塩水がつくられ、塩の結晶ができました。この際に窒素化合物も塩水に濃縮されたと考えられます。
  • アンモニアなどの窒素化合物は、アミノ酸や核酸塩基といった、生命の材料物質をつくる合成に使われます。母天体に存在した「高濃度の塩水」では、生命の材料につながる化学反応が起こりやすい環境であった可能性を、今回の研究は示しました。

図1: リュウグウの砂の塩鉱物(青色)と粘土鉱物(茶色)の電子顕微鏡擬似カラー画像とアンモニウム分子(NH4+)のイラスト)。(京都大学)
 

概要

京都大学白眉センター/理学研究科の松本徹特定助教ら京都大学、自然科学研究機構 分子科学研究所、広島大学、東京科学大学、愛媛大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)などの研究グループは、小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの砂をX線や赤外線を使って分析した結果、炭酸ナトリウムや岩塩など水に溶けやすい塩結晶の周囲に、窒素を含む塩の結晶(硝酸塩)や、アンモニア、炭素と窒素が強く結びついた有機物などの窒素化合物が集まっていることを発見しました。

リュウグウは、約45億年前に生まれた大きな天体の破片で形づくられています。そのリュウグウの母体である天体の内部には水が流れていましたが、時間が経つにつれて凍結や蒸発により水は減少してゆきました。その際、残された濃い塩水から塩の結晶が沈殿し、窒素化合物も高度に濃縮されたと考えられます。

リュウグウの砂からは、すでにアミノ酸や核酸塩基などの生命の材料となる有機物が発見されており、アンモニアなどの窒素化合物はこれらの合成に中心的な役目を果たしたと考えられています。本研究により、リュウグウの母天体には水が存在するだけでなく、「水が減少して成分が濃縮される仕組み」が存在したことで、アンモニアなどの反応性物質が高濃度で出会い、複雑な生命材料へと進化する反応が促進された可能性が示されました。

このような濃い塩水スープは、リュウグウだけでなく、地下に塩水が存在すると予想される準惑星セレスなどの太陽系の水天体でも存在するかもしれません。リュウグウの研究は、地球以外の天体で、生命の材料がどこで、どのように形づくられるかを紐解く手がかりになると期待されます。

本成果は松本徹特定助教のほか、分子科学研究所の湯澤勇人主任技術員、広島大学の小池みずほ准教授、東京科学大学の癸生川陽子准教授、京都大学の野口高明教授、JAXAの矢田達主任研究開発員、高輝度光科学研究センターの菅大暉研究員、伊奈稔哲研究員、物質・材料研究機構の佐久間博主任研究員、愛媛大学の白勢洋平講師、京都大学理学研究科博士前期課程(当時)の北村悠樹氏、京都大学理学研究科の伊神洋平准教授、同所属の三宅亮教授らによるもので、国際科学誌『Nature Astronomy』に2026年8月27日付で掲載されました。

こちらからオンラインで全文をご覧いただけます
https://rdcu.be/fCpUr
 

1.背景

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機はやぶさ2は、小惑星リュウグウの表層から砂(図2)を回収し、地球に持ち帰りました。2020年末の試料カプセルの帰還以降、今でも世界中の研究者がリュウグウ試料の研究を進めています。これまでの分析から、砂には水や有機物が豊富に含まれていること、約45億年前にリュウグウの母体となる天体(母天体:ぼてんたい)が誕生し、その内部には水が流れていたことが明らかになってきました。リュウグウの有機物にはアミノ酸や核酸塩基など、私たち生命を形作る化合物も含まれており、母天体の水に満ちた環境はこうした有機物の合成を促したと考えられています。このような点から、リュウグウの砂は、太陽系初期に地球以外の天体で生命の部品がどこまで形成されるのかを理解する手がかりとなります。

図2: リュウグウの砂(JAXA提供)

生命の材料である有機物は炭素を主とする化合物ですが、さらに重要な元素のひとつが窒素です。窒素は地球の空気の主な成分となる元素ですが、アミノ酸やDNAなど、生命を支える物質にも含まれています。研究グループは、リュウグウの砂の中の窒素の居場所に注目し、生命の材料につながる成分が天体のどのような環境で作られやすかったのかを調べました。

2.研究手法・成果

リュウグウの砂の窒素化合物の分析
リュウグウの砂の粒子の体積の大部分は、岩石と水が反応して生まれた粘土鉱物※3で占められています(図1)。一方で、炭酸ナトリウム(重曹の親戚)、塩化ナトリウム(岩塩)、などを含む塩結晶の脈が稀に含まれることを研究グループは透過型電子顕微鏡※4を使って見つけていました(図1と図3a)。今回の研究では、これまでにほとんど調べられていないリュウグウの塩結晶に注目し、窒素や有機物の分析を行いました。

まず、塩結晶を含む粒子に吸収される赤外線のスペクトルを調べたところ、アンモニアの吸収が確認されました。次に、塩の結晶の周囲からくりぬいた板に対して、X線吸収分光と呼ばれる手法※5で化合物の種類を調べました(図3)。本研究では、愛知県岡崎市にある分子科学研究所の極端紫外光研究施設(UVSOR)のビームライン(BL4U)と、兵庫県の播磨科学公園都市にある大型放射光施設SPring-8のビームライン(BL27SU)を利用しました。

塩結晶の主成分である炭酸ナトリウムの近くにある粘土からは、アンモニアを示すX線の吸収が見られました(図3c)。粘土鉱物は、ケイ素と酸素を骨格とする板が幾層も重なる構造をしています(図3b)。その板と板の間に、アンモニア(実際にはアンモニウム:NH4+という陽イオンの状態)が入り込んでいると考えられます。

図3: (a) リュウグウの砂の透過型電子顕微鏡画像。ナトリウム(シアン)、マグネシウム(マゼンタ)、硫黄(黄色)の分布が重ねてある。星印が指す水色部分がナトリウム炭酸塩。六角形が指す黄色部分は硫化鉄。四角が指すマゼンタ色部分が粒子全体に広がる粘土鉱物。(b) 粘土(サポナイト)の拡大像。粘土を形作る層が確認できる。(c) 粘土部分から得られたX線吸収スペクトル。横軸が照射したエネルギー、縦軸がX線の吸収強度。アンモニウム(NH4+)とアンモニアが測定中に分解し生成した窒素ガス(N2)、窒素を含む有機物(シアンもしくはニトリル:C≡N)のピークが確認できる(京都大学)

図4: 硝酸ナトリウムの電子顕微鏡写真(京都大学)


一方、塩を含まない別の試料からは、窒素の明瞭な特徴は確認されませんでした。この結果は、アンモニアがリュウグウのどこにでも同じように存在するのではなく、塩の結晶の近くに集中していることを示しています。また、赤外線やX線の吸収では、炭素と窒素が強く結びついたニトリルもしくはシアン(C≡N)の化合物も塩結晶の周囲に多いこともわかりました。一方で、炭酸ナトリウムの中には、窒素を含む塩である硝酸ナトリウム結晶(NaNO3)も見つかりました(図4)。

どうして塩結晶の周りに窒素が集まったのか?
太陽系では、太陽から遠ざかるほど冷たくなります。近く熱い場所では物質が気体となり、「雪線(せっせん)」と呼ばれる境界より遠い場所では物質が凍ります。H2Oや二酸化炭素(CO2)、アンモニア(NH3)には、太陽系初期にそれぞれの雪線がありました(図5)。これらの雪線より遠い場所、つまり氷が豊富に存在する場所でリュウグウの母天体は形成し、氷を大量に取り込んだと考えられています。その位置は木星よりも遠い場所であったと推定されています。

図5: リュウグウの母天体の形成と水-岩石の反応、そして塩水が消失するまでの一連の歴史(京都大学提供)

その後の母天体の太陽系内側への移動や、天体衝突による大規模破壊と破片の再集積を経て、現在のリュウグウができあがりました。リュウグウの軌道である地球ー火星の間はこれらの物質の雪線よりもかなり内側に位置します。

母天体の内部が温められると氷が融けて液体の水が生まれ、水が岩石と反応しました。この反応によって、もとの岩石から粘土などの新しい鉱物ができました。その後、天体の内部が冷えていくと、水は再び凍ったり、岩石の割れ目から蒸発したりして減少しました。残った少量の水には、溶けていた成分が集まります。これは、海水を蒸発させると塩が残る仕組みとよく似ています。また、水が凍るときには、氷の中に入りにくい塩が液体の水に集まります。炭酸ナトリウムなどの塩結晶は、こうした現象によって高濃度の塩水が最後に消失する際に形成したと推測されます。そして、アンモニアやその他の窒素化合物もまた、濃い塩水に溶けていた成分として残されたと考えられます。

母天体に存在した濃厚な塩水スープが有機物合成を促進
今回見つかったアンモニアなどの反応しやすい窒素化合物は、アミノ酸や核酸塩基など生命の材料となる有機物が水中で合成される際の主な原料となります。リュウグウの母天体では、このような窒素化合物が天体ができた初期に氷や有機物などとともに取り込まれ、その後一部は、水がなくなる最後の段階まで残っていたと考えられます。さらに、水が減って窒素化合物や有機物が濃縮した塩水では、水中の成分が出会いやすくなり、化学反応が進みやすくなった可能性があります。本研究では、このような母天体内部の最後の塩水が、生命材料の合成に有利な環境であった可能性を示しました。

3.波及効果、今後の予定

図6: 準惑星セレス(NASA提供)

太陽系には、準惑星セレス(図6)など地下に塩水が存在すると予想されている天体が存在します。また天文観測によって、アンモニアを含む小惑星が次々と見つかっています。とくにセレスにはアンモニアを含む粘土や炭酸ナトリウムが見つかっており、リュウグウと似た塩水の環境があるのかもしれません。リュウグウの母天体のような有機物質を育む濃い塩水環境は、太陽系の様々な天体でも存在するかもしれず、将来の惑星探査が期待されます。

4.研究プロジェクトについて

本研究に関連し、以下のご支援をいただきました。科学研究費助成事業(19H00725, 19KK0094, 20H00198, 20H00205, 21H05424, 21K113981, 21H05431, 23H01286,23K17700,24K00692, 24H00271, 24H00268, 26H00688)、京都大学白眉センター、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター、分子科学研究所(研究課題: 24IMS6628, 25IMS6633)、高輝度光科学研究センター(SPring-8研究課題: 2020A2139, 2021B2093, 2024A1958, 2025B1220)

用語解説

※1 アンモニア:アンモニア(NH3)は、窒素と水素からできた物質です。水の中では、その一部がアンモニウム(NH4+)というイオンに変わります。アンモニウムは粘土の層の間などに保存されることがあります。

※2 塩結晶:リュウグウで見つかっている塩鉱物である炭酸ナトリウム(重曹の親戚)や硫酸ナトリウム(バスソルトで使われる)、塩化ナトリウム(岩塩)の結晶は、私たちが水回りで接する機会があります。硝酸ナトリウム(チリ硝石)は南米チリで産出することが知られています。

※3 粘土鉱物:非常に薄い板が何枚も重なったような鉱物です。板と板の間に、水やナトリウム、アンモニウムなどを取り込むことがあります。

※4 透過型電子顕微鏡:100nmの厚さに薄く加工した試料に対して高電圧の電子線を照射し、電子が試料を透過したことで生じる電子の干渉像を得る顕微鏡で、原子スケールに及ぶ微細組織の観察が可能です。

※5 X線吸収分光:物質にX線を照射してその吸収量を調べることで、元素分布などを調べる分析手法のことです。UVSORでは走査型透過X線顕微鏡(STXM)という分析装置を用いました。これは、100nmの厚さに薄く加工した薄膜の試料に軟X線を集光して照射し、さらに試料をスキャンすることで、透過したX線の強度の2次元画像を撮り、軟X線吸収量の分布を数十ナノメートル程度の空間分解能で測定できる分析装置です。この装置を利用すると、標的元素(主に軽元素や遷移金属元素)や,その化学状態の分布をマッピングすることが可能です。SPring-8ではPFY-XANES(部分蛍光収量X線吸収端近傍構造)と呼ばれる手法を用いました。これは試料にX線を照射し、特定元素から放出される蛍光X線だけを選んで測定する分析手法です

研究者のコメント

リュウグウの砂に含まれる塩の結晶は、湿気にさらされるだけでも溶けてしまうほど変化しやすく、地上で雨風にさらされる隕石からはほとんど見つかっていません。宇宙から直接持ち帰ったリュウグウの砂を分析したことで、母天体内部の塩水環境が、少しずつ明らかになってきました。今後、NASAの探査機が持ち帰った小惑星ベヌーの試料の分析も進み、リュウグウとの共通点や違いが明らかになれば、生命の材料となる物質が宇宙でどのように、どこまで作られたのか、そしてそれらが地球へ運ばれた可能性があるのかについて、さらに理解が深まると期待しています。(松本徹)

論文タイトルと著者

タイトル:Ammonium-bearing clays and multiple nitrogen species linked to late-stage brines of Ryugu's parent body (リュウグウ母天体の末期塩水に関連するアンモニウム含有粘土と多様な窒素化学種)
著  者:¹松本 徹、²湯澤 勇人、³小池 みずほ、⁴癸生川 陽子、¹野口 高明、⁵矢田 達、⁶菅 大暉、⁶伊奈 稔哲、⁷佐久間 博、⁸白勢 洋平、⁹北村 悠樹、¹伊神 洋平、¹三宅 亮
¹京都大学、²分子科学研究所、³広島大学、⁴東京科学大学、⁵宇宙航空研究開発機構、⁶高輝度光科学研究センター、⁷物質・材料研究機構、⁸愛媛大学、⁹日本分光株式会社
掲 載 誌:Nature Astronomy DOI:10.1038/s41550-026-02962-y

参考資料

【お問い合わせ先】

<研究に関するお問い合わせ先> 
松本徹 (まつもと とおる)
京都大学 白眉センター/理学研究科地球惑星科学専攻 特定助教
E-mail:matsumoto.toru.2z*kyoto-u.ac.jp

小池みずほ
広島大学大学院先進理工系科学研究科 准教授
TEL:082-424-7467
E-Mail:mizuhokoike*hiroshima-u.ac.jp

癸生川陽子
東京科学大学 理学院 地球惑星科学系 准教授
E-Mail:kebukawa.y.ca28*m.isct.ac.jp


<報道に関するお問い合わせ先>
京都大学 広報室 国際広報班
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自然科学研究機構 分子科学研究所 研究力強化戦略室 広報担当
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東京科学大学 総務企画部 広報課
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公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI) 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785
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