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【研究成果】治療が難しい「神経の痛み」に新たな治療薬開発の可能性 ~ 神経障害性疼痛の発症に関わる新たな仕組みを発見 ~

本研究成果のポイント

  • 神経の損傷などによって起こる「神経障害性疼痛」は、一般的な鎮痛薬が効きにくく、現在の治療薬でも十分な効果が得られない場合があります。
  • 神経障害性疼痛モデルラットを用いた研究から、痛みの過敏化に「リゾフォスファチジン酸受容体4(LPA4)」が重要な役割を果たしていることを発見しました。
  • LPA4を欠損したラットでは、正常ラットでみられた神経損傷後の痛みの過敏化がほぼ認められませんでした。LPA4の働きを抑える薬の開発により、神経障害性疼痛に対する新たな治療選択肢につながることが期待されます。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科の森岡 徳光教授、下田 嵩央(大学院生)、麻 思萌助教、中村 庸輝准教授、中島 一恵助教らの研究グループは、神経障害性疼痛ラットを用いて、疼痛の発症にリゾフォスファチジン酸受容体4(LPA4)が関与していることを発見しました。

 腫瘍や椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などによる神経の圧迫、抗がん薬による治療や糖尿病、帯状疱疹後などで神経に損傷や異常が生じることにより発症する神経障害性疼痛は、患者さんの生活の質(Quality of Life: QOL)を低下 させる要因となっています。これらの痛みは、現在汎用されている鎮痛薬であるロキソプロフェン(商品名:ロキソニン)などの非ステロイド性鎮痛薬やモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬が効きにくく、治療が困難であることから、新たな治療薬・治療法の確立が望まれています。
 今回、同研究グループは、ラットの神経障害性疼痛モデルを用いて、疼痛が発症するメカニズムを明らかにし、その重要な分子としてLPA4を発見しました。
 LPA4をターゲットにした薬剤は、神経障害性疼痛に苦しむ多くの患者さんを救う新たな治療薬となることが期待されます。

 本研究成果は、令和8年7月16日(日本時間)、国際科学誌「iScience」(オンライン版)に公開されました。

発表論文

著者
Takahisa Shimoda1, 2, Simeng Ma1, Tomoya Tanaka2, Haruto Taniguchi1, Kenta Yamamoto1, Satoru Yoshikawa2, Kazue Hisaoka-Nakashima1, Yoki Nakamura1, Norimitsu Morioka1*
1:広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学
2:旭化成セラピューティクス株式会社
* :Corresponding author(責任著者)
論文題目
LPA4 in the spinal dorsal horn is a potential therapeutic target for inflammatory pain and neuropathic mechanical hypersensitivity
掲載雑誌
iScience, 2026, Impact factor=4.6
DOI番号
doi: 10.1016/j.isci.2026.116845.

研究の背景

 神経障害性疼痛は、痛みを伝える知覚神経の病変や疾患によって生じる痛みです。外傷や圧迫、絞扼、ウイルス感染などによる神経の損傷、脳卒中や糖尿病などの疾患、自己免疫疾患による慢性炎症により発症します。症状として灼けるような痛み、刺すような痛み、ピリピリとした電気が流れたような痛みを特徴とし、さらに何かに触れただけでも痛みが生じるアロディニアと呼ばれる症状が生じるため、日常生活に大きく支障をきたすことから患者のQOLが著しく低下します。これらの痛みにはロキソプロフェン(商品名:ロキソニン)のような非ステロイド性抗炎症薬は効果を示さず、モルヒネやプレガバリン(商品名:リリカ)、一部の抗うつ薬が用いられますが、効果が十分ではないことも多く、また長期間の使用により副作用が生じるリスクも増加します。よって、神経障害性疼痛に対する新たな治療薬・治療法の確立が望まれています。
 以前より同研究グループは、神経障害性疼痛の発症に対して痛みの伝導路である脊髄に存在するアストロサイト(※1)の働きに注目をして研究を続けてきました。その中で同研究グループは、アストロサイトが活性化すると痛みが生じ、逆にアストロサイトを抑制すると痛みが和らぐことから、アストロサイトの働きを抑制する薬剤が鎮痛薬として有効であると考えました。
別のグループから、神経障害性疼痛患者の脳脊髄液において、リン脂質の一つであるリゾフォスファチジン酸(LPA)(※2)が増加しており、さらにその量と痛みの程度が相関することが報告されていました。そこでLPA受容体を遮断する薬剤に注目が集まり研究が実施されたものの、創薬開発には至っていませんでした。そこで我々は、公共データベースにおいて、ヒトのアストロサイトに発現することが示されているにもかかわらず、選択的に作用する薬剤が世の中に存在しないために、痛みに関する研究が全く実施されていないLPA受容体LPA4に注目をしました。本研究では、LPA4遺伝子を欠損したラットを独自に作製することで、神経障害性疼痛の発症に対するLPA4の関わりを調べました。

研究成果の内容

 本研究グループは、LPA4遺伝子を欠損した、すなわちLPA4が体内に存在しないラットでは、神経障害性疼痛を発症しないことを明らかにしました。さらに脊髄でのLPA4はアストロサイトに多く発現し、その活性化を制御していることも発見しました。加えて、網羅的な遺伝子解析から、LPA4によって産生制御され、疼痛誘発に関わる可能性のある物質の存在も明らかにしました。

今後の展開

 本研究結果から、LPA4の働きを抑制する薬剤(遮断薬)が神経障害性疼痛に対する新たな治療薬となることが期待されます(図2)。
 今後は、アストロサイトのみのLPA4を欠損させた動物を用いて、アストロサイトにおけるLPA4の機能や役割をより詳細に解析するとともに、LPA4を遮断する薬剤の開発についても研究を進めていく予定です。

図1 神経障害性疼痛モデルにおける痛みの発症に対するLPA4遺伝子欠損の影響
 正常およびLPA4遺伝子を欠損したラットの坐骨神経を損傷させた神経障害性疼痛モデルをそれぞれ作製した。その後、それぞれのラットの足裏に機械的な刺激を与えた時に逃避行動を示す刺激強度を測定した(グラフ縦軸が低値を示すほど痛みが強い)。その結果、正常ラットでは神経損傷前と比較して、損傷して時間が経過するほど逃避行動を示す刺激強度が小さくなる(弱い刺激でも痛みを感じる)のに対し(左グラフ)、LPA4遺伝子欠損ラットでは、神経損傷前と損傷後で逃避行動を示す刺激強度に違いは認められなかった(右グラフ)。

図2 本研究の概要
 神経障害性疼痛では脊髄でのアストロサイトの活性化が生じており、痛みの慢性化に関与している。アストロサイトのLPA4はその活性化を制御する受容体として神経障害性疼痛の発症に対して重要な役割を果たしていることが明らかとなった。(Part of this figure was created with BioRender.com.)

用語解説

(※1) アストロサイト
 中枢神経系に存在する細胞の一つ。 神経細胞の働きや構造を調節する役割を持つ。
(※2) リゾフォスファチジン酸
 生体内に存在するリン脂質。神経発達、受容体を刺激することで炎症、神経・血管新生など多様な生理活性を示す。

【お問い合わせ先】

広島大学大学院 医系科学研究科 薬効解析科学研究室 
教授 森岡 徳光 (もりおか のりみつ)
TEL:082-257-5310 FAX:082-257-5314
E-mail:mnori*hiroshima-u.ac.jp
 

(*は半角@に置き換えてください)


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