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第一線で活躍している研究者 先進理工系科学研究科 樽谷 直紀 准教授

樽谷 直紀 准教授 インタビュー

2022年度 創発的研究支援事業(JST) 採択者

ナノ粒子をブロックのように組み合わせ
まったく新しい機能性材料を生み出す

ナノ粒子が集まることで新たな機能が見つかるのでは

私の専門は無機材料化学という研究分野です。身の回りの製品に使われる材料は金属材料、有機材料、無機材料の大きく3種類に分かれます。金属材料は金属元素を、プラスチックなどの有機材料は水素、炭素、酸素を主体とします。これら以外はすべてが無機材料で、セラミックスなどに代表されます。

大学で材料工学の中でも無機材料を選んだのは、材料の表面にちょっと加工しただけで水をすごく弾くようになったり、特定の光を反射したり、さまざまな機能を付加できることに面白さを覚えたからです。2023年のノーベル化学賞は、無機ナノ材料のひとつである「量子ドット」に関する研究でした。量子ドットとは「量子閉じ込め効果を発現する約10ナノメートル(1ミリメートルの10万分の1)サイズの粒子」のことです。人類は量子ドットの効果をそれと知らずに千年以上も前から利用してきました。たとえばステンドグラスの鮮やかな赤色の多くは金の量子ドットによるものですし、古代ローマ時代には硫化鉛の量子ドットが黒染めに用いられていました。現在では高精細なLEDディスプレイや生体イメージング、太陽電池など多岐にわたる用途が開拓されています。そうした研究を学ぶなかで、無機材料からのナノ材料開発に魅力を感じるようになりました。

現在とくに力を入れているのが、電池などのエネルギー材料や、自動車の排ガスなどを浄化する触媒などへの利用をめざした無機材料の合成です。なかでも「ナノメートル」から「マイクロメートル」という原子レベルよりも大きいサイズの領域で特定の構造を有する材料の開発に取り組んでいます。

ナノ材料の開発にもいろんなアプローチの方向がありますが、私の研究の特徴はナノ材料の「構造」に重点を置いているところです。ありふれた元素の組み合わせでも、構造が変わると、新しいとても役立つ機能を発揮することがあり、そのさまざまなパターンを研究しています。おもちゃの「レゴブロック」に例えるならば、他の多くのナノ材料の研究者は「レゴそのものの形」をいろいろ研究しているのに対して、私の研究は「レゴの組み合わせ」で新しく役立つ構造を作る試みになります。

ナノ材料の「構造」をレゴを組み変えるように変化させることで、新たに役立つ機能を発揮する可能性がある。樽谷先生は、その可能性を探求している。

エネルギーや環境に貢献する新素材を作りたい

私の研究テーマが、2022年度の創発的研究支援事業(JST)に採択され、7年間という長期の支援を受けられるようになったことは、とてもありがたく感じています。広島大学からのサポートも手厚く、弾力的活用スペースの研究室を与えてもらい、スタッフ・学生たちと研究に取り組んでいます。

実験室での樽谷先生

これまでの研究成果の一つが、水酸化ニッケルと水酸化コバルトという2つの無機物のナノ粒子を2ナノメートルの大きさで合成して並べて構造を作ると、それまでなかった機能を発現することがわかったことです。2つの水酸化物はニッケル水素電池の正極や電気化学触媒などに使われます。ニッケルとコバルトを原子レベルで混ぜ合わせるとバッテリー性能が上がることが知られています。マイクロメートル(1ミリメートルの1000分の1)のスケールで混ぜ合わせても、そうした性能の向上は起こりませんが、ナノ粒子のスケールで混ぜてみると、原子レベルで混ぜたときと同様にバッテリー性能が向上することを見出しました。ナノ粒子同士が集積して作る構造がそのような現象を起こしたと考え、解析しているところです。

今後の研究の目標として、貴金属、とくに白金(プラチナ)を代替する材料を作れないかと考えています。白金などの貴金属は、排ガスの分解や水を電気分解して水素を取り出す反応に使われています。現在、地球温暖化の問題から、化石燃料に代わるエネルギー源として水素が注目を集めていますが、高価な貴金属に代わる材料が開発できれば、環境にも大きな貢献ができるはずです。

「多元複合クラスター」の可能性を追い求める

この研究でやるべきことは大きく3つ、ナノ材料や集積体を作る「合成」と、その構造の「分析」、そして「機能」の開拓です。現在は「合成」の手法開発を進めており、鉄やニッケル、アルミニウムなど貴金属以外の金属材料や硫化物、窒化物などの無機材料について10 nmを下回る大きさのナノ粒子化ができつつあります。発展的には、これらナノ粒子を「ブロック」として集積することで、新たな機能を創出する方面でも成果が出せるのではないかと考えています。

今回の創発研究のタイトルにある「多元複合クラスター」という言葉は造語であり、様々な種類のナノ粒子(多元)を特定の周期や次元性のもとに組み合わせて(複合)、集積した材料(クラスター)を意味します。これからの数年で、世の中を大きく変える材料につながる成果を、多元複合クラスターによってぜひ生み出したいと思っています。

 

樽谷 直紀 准教授の略歴および研究業績の詳細は研究者総覧をご覧ください。


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