第43回 並木 敦子 准教授(大学院総合科学研究科)

火山の噴火を誘発するメカニズムの解明へ挑む!

大学院総合科学研究科環境自然科学講座 並木 敦子(なみき あつこ)准教授

に聞きました(取材: 広報グループ 2016.7.13)

はじめに

火山を中心に、地球科学について研究している並木敦子准教授。マグマの模擬物質(水あめ)を用いた振動実験を行い、噴火を起こす誘因となり得るスロッシング(※)が起こりうることを初めて明らかにしました。また、実験結果に基づき、マグマ中の気泡が崩壊する条件を解明しました。富士山の宝永噴火を例に、噴火が宝永地震により誘発された可能性を定量的に推定しました。この研究成果は、2016年6月にオランダ科学誌『Elsevier』で発表されました。
※スロッシング: 液体を入れた容器を振動させた場合、内部の液体が大きく揺すられる現象

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今回の発見は、大地震が火山の噴火を誘発するメカニズムの解明につながると期待されます。現在の研究内容や今後の展望について並木先生にインタビューしました。

研究テーマは固体地球物理学

固体地球物理学とは、地球内部の構造や動きと、そこから引き起こされる現象を研究する分野です。研究対象は幅広く、地球の内部構造だけでなく、地震や火山、プレートテクトニクスなども包括します。並木先生は固体地球物理学が専門で、特に火山の研究に力を注いでいます。

「私の専門分野は物理の言葉では『流体力学』と呼ばれます。『流体』と聞くと水や空気を思い浮かべる方が多いかもしれません。実際、流体力学を専門とする物理学者は、液体や気体の研究をされている方が多いので、私の分野は特殊ですね」と先生。流体力学の分野で、粘性率が高い固体地球を研究対象にしている研究者はとても少ないそうです。

水あめを使ったマグマ実験

2000年に起こった有珠山・三宅島の噴火をきっかけに火山の研究に興味を持ったと言う先生。先生はどのように火山の研究をしているのでしょうか。その方法はとてもユニークです。水あめやスライムなど身近にあるものを使い、「マグマがどう流れるか」「どのように火山灰に変化するか」などを実験しています。「水あめの流れ方は、マグマの流れ方に似ているんですよ。粘度の調整がしやすいところもポイントです」と先生。一口に「マグマ」と言っても、玄武岩質マグマはサラサラ、流紋岩質マグマはドロドロといったように、マグマは性質によって粘度が異なるため、水の量を変えて粘度を調節します。

マグマ上昇メカニズムの理解には、水あめの流れ方だけでなく、“硬さ”が影響します。粘性率計と呼ばれる装置に水あめをはさみ、上からねじりをかけて、水あめの硬さを測ります。「この装置でねじるのに必要な力の大きさと、ねじれた量を測ります。軟らかいものは小さい力でたくさんねじることができ、その反対に硬いものは大きな力をかけてもねじれません」と先生。

実験・計測・解析により、噴火が「なぜ起こるのか」「どう起こるのか」という、噴火の仕組みの解明に挑んでいます。

実験に使う水あめを手にする先生

マグマ溜まりでスロッシングは起きるのか!?

スロッシングとは、液体を入れた容器を振動させた時に、内部の液体が大きく揺すられる現象のことです。先生がスロッシングと火山を結びつけて考えるようになったきっかけは、たまたま目にしたテレビの映像だったそうです。「地震の後に、石油タンク内でスロッシングが起こり、石油が漏れたり、蓋が破損したりするなど、タンクが破壊されたニュースを見ました。その時に、火山の下のマグマ溜まりでもスロッシングが起きるのでは?とふと思ったんです」と、先生。

スロッシングは液体の上に隙間がないと起きません。これまで、マグマ溜まりは地下深くにあるため、マグマが空洞を満たしており、隙間がないと考えるのが一般的でした。それにもかかわらず、なぜ先生はマグマ溜まりでもスロッシングが起きるかもしれないと考えたのでしょうか。「以前は、爆発的噴火を起こす前にマグマ内の気泡をいかにつぶすかという研究をしていました。その経験から、『マグマ溜まりの上部に気泡がある場合、気泡がつぶれれば、隙間が生まれるはず』と考えたんです」と先生。そして、「揺れにより気泡がつぶれる」と仮説を立てて、水あめをマグマに見立てた振動実験を行い、仮説が正しいことを見事に証明しました。振動実験では、容器の上に隙間が無くても振動で気泡が消え、隙間ができたことによりスロッシングが起きたことを確認。先生は世界で初めて、マグマ溜まりでスロッシングが起こりうる可能性を実証しました。

振動実験によりスロッシングを確認

地震と火山の関係解明に一歩前進

火山噴火を誘発する可能性はいくつかあり、マグマ溜まりで発泡が起きたり、温度が異なるマグマが混合したりすると、噴火の活性化につながると考えられています。

振動実験の結果、揺れにより気泡がつぶれることが確認されましたが、これがマグマ溜まり内で起きるとどうなるのでしょうか。スロッシングが起こる可能性はもちろん、発泡が起こることが予測されます。これは、気泡がつぶれてガスが放たれることにより、マグマ溜まりの圧力が下がってマグマに溶けていたガスが気体となるためです。また、水あめを用いた振動実験では、スロッシングにより粘度が異なる水あめが混合する現象も確認できました。このことから、スロッシングにより噴火しやすくなることが説明できます。

先生は、揺れが火山噴火の活性化を引き起こす可能性を初めて実証し、地震と火山噴火の関係解明に有力な手がかりを示しました。

手作りの装置で解明に挑む!

固体地球物理学を専門とする研究者は数が少ないうえ、先生のように実験的アプローチをとる研究者はとても少ないため、「確立した実験方法や手順がない」と苦労を語る先生。「装置がないため自作することが多いのですが、手作りのせいか装置が実験中に壊れてしまうこともあり、なかなか全部うまくいくことがない」と苦笑します。「その分、実験がうまくいった時や、データがとれた時は、とても嬉しくてやりがいを感じます」と微笑む先生。「自分の予想どおりのデータがとれた時はもちろん、予想とデータが違っていても、新たな発見があることが面白い」と研究の醍醐味を語ります。

噴火の温度や圧力を測る実験装置

水あめの硬さの測り方を説明する先生

「人とのつながり」を大切に

「研究は一人の力ではなく、周りの助けがあってこそ」と先生。実験装置は自作の他に、学内のものづくりプラザに製作依頼をすることが多いそうです。「スロッシングの振動実験は、ドイツ・GFZ Potsdamの研究者エレノア・リバルタ氏の協力がなければ実現しませんでした。またカリフォルニア大学バークレー校と共同でチリのエルタティオ間欠泉の研究を行っているのですが、カリフォルニア大学の研究者が現地の人と連絡をとり、調整をしてくれたおかげで現地観測を行うことができました。国内でも、他の研究者と協力しあって、共同研究を進めています」と研究者同士のつながりの大切さを語ります。

今後の展開

火山の噴火のメカニズムは未解明な部分が多いです。そのため、「これからも、噴火予測に貢献できる基本的な物理の研究を続けたい」と先生。「マグマの流れ方や上がり方などを測り、理論を組み立て、噴火が起きる条件をもっと解明したい。噴火の基本的な仕組みを理解し、なぜ噴火が起きるのかを探りたい」と意気込みを語ります。

この夏、先生は再びドイツの研究機関・GFZ Potsdamに行き、今度はマグマがどう上昇するかの実証実験を行うそうです。他にも、火成岩の硬さ測定や、噴気孔内の撮影など今まで誰もやってこなかったことにチャレンジします。

火山の他には、本学理学研究科の片山郁夫先生と、地震の共同研究の話がでているそうです。「授業があるため、研究に十分な時間を取るのは簡単ではありませんが、気の合う仲間と楽しく研究できています」と微笑む先生。「物理が好きで、地球で起こる現象を物理で説明したい」と研究を始めた先生の挑戦は、今後も続きます。

今後の研究の展望について語る先生

あとがき

「他の人と違うことをやる」をモットーに研究している並木先生。誰もやったことがない実験に挑むチャレンジ精神と行動力に感銘を受けました。種類の異なる火成岩に実際に触れたり、水あめの流れ方を見たり、創意工夫がこらされた手作りの実験装置を見学したりして、火山研究の世界にすっかり魅了されました。日本は地震多発国であり、火山の噴火も多いです。地震と火山の関連性はまだ未解明の部分も多く、研究の必要性・重要性を感じました。先生の研究が進み、火山や地震のメカニズム解明がされることを期待しています!(F)


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