第25回 ヌーウィン・ティ・ユンさん(ベトナム)&岡本華奈さん(日本)

「人間を人間たらしめるもの」

■ ヌーウィン・ティ・ユン (写真左)
国籍:ベトナム
所属:国際歯学コース一期生
(ベトナムでの所属:ホーチミン市医科薬科大学)
現在、特別聴講生として、歯学科4年のクラスで学んでいる

■ 岡本華奈 (写真右)
国籍:日本
所属:歯学部歯学科4年
昨夏、カナダへ短期留学

(2014年4月25日にインタビュー)
  
『留学生インタビュー』バックナンバー

 

歯科医師を志した理由は何ですか。

ユン: 歯科医師になることは子供の頃からの夢でした。何か医療系の仕事をしたかったのです。高校の頃に、本格的に歯学に興味を抱くようになりました。理由は、歯科医師は人々の「健康」だけでなく「美」にも貢献できる仕事だと感じたからです。それで進路を歯学部に決めました。

岡本: 私が歯科を選んだ理由は、人と関わる仕事がしたかったからです。それも、ただ人と関わるだけではなく、人を助けるという仕事に興味があったので、その二つを両立できる歯科医師を目指したいと思いました。数ある医療分野のなかで歯科を選んだのは、口腔の機能というものに興味があったからです。「咀嚼」や「発話」といった、人間を人間たらしめるための基本的な機能というのは口腔から作られると私は思っているので、それに関わる仕事をということで、歯科医師を目指すことに決めました。

なるほど。子供の頃、歯医者さんにどんな印象をお持ちでしたか。

岡本: 私は虫歯が少なかったので、削ったりだとか、痛いっていう思い出はあまりないです。むしろ歯科医師さんがすごく丁寧に、そして楽しく治療をしてくれたので、歯医者さんというのは楽しい場所だなと感じていました。

ユンさん、ベトナムの歯科事情について少し教えていただけますか。

ユン: ベトナムでは、大学の歯学部は非常に狭き門です。歯科医師を志す学生が多いのに対して入学できるのはほんの一握りです。私の大学でも入学者は毎年百名程度で、かなり難関です。しかし、入学後は政府からの支援もあり、経済的に困ることはありません。

歯科の勉強だけでも大変だと思いますが、ユンさんは今留学までして学んでいらっしゃいます。なぜ日本への留学を決めたのですか。

ユン: 日本に来たかった理由は幾つかあります。第一の理由は、留学は以前からの夢だったということ。留学すれば多方面で自分を成長させることができるからです。第二の理由は日本が先進国で、他国と比べて技術がずっと発展しているからです。ベトナムの大学で学んでも一般的な歯科医師にはなれますが、日本に留学すれば、未来の可能性が大きく広がります。幅広い分野の知識を十分に吸収し、分子生物学の研究者になって多くの業績を挙げることも夢ではありません。私は普通の歯科医師以上のものになりたいのです。

岡本さんは、昨年カナダに短期留学されたのですね。その時の感想をお聞かせください。

岡本: 今回は、カナダ、バンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学(UBC; The University of British Columbia)へ先生の紹介で留学させていただきました。主に3年生と4年生の授業に参加しましたが、3年生は実習と歯科治療に関する授業、4年生は午前と午後、患者の診療がメインとなっていました。カナダに行く前にある程度調べてはいましたが、聞くのと実際に見るのとでは大きく異なっていました。また、学生の態度からは多くの事を教わりました。4年生は1人で患者を見なくてはならず、3年生の実習から、4年生の臨床まで1年しかありません。その短期間で、患者を診ることが出来るようになるまでに自分自身を高めていくために、日々努力をしていました。また、学生が先生と対等に患者の治療方針についてディスカッションしていたことに驚きました。

初めての留学は不安でしたが、1ヶ月は充実しており、学生や、診療に来る患者さんと話すこ とによって英語に大分慣れることが出来ました。今度は、現地の人と専門分野に関してディスカッションをし、知識を共有することを目標にしたいです。

とても有意義な経験をされたのですね。ところで、広大の入試の準備は大変でしたか。

岡本: はい。受験に関しては、高校に入学して以来ずっと意識はしていましたが、本格的に対策を始めたのは高校3年からです。入試の直前は、できる時間はいつも勉強していました。塾にも通いました。

ユンさんはいかがでしたか。広大の国際歯学コースの選考は大変ではありませんでしたか。

ユン: かなり大変でした。ホーチミン市医科薬科大学での一年目を終えて、多くの成績優秀な候補者の中から選ばれたのですが、その後も志望動機や研究目的についての論文を書かなくてはなりませんでしたし、面接試験も何度も受けました。

日本に来て、初めて歯科の授業を受けた時の感想を教えてください。

ユン: 最初の授業の前は、ドキドキして眠れませんでした。はじめの頃は日英併用の授業は少し難しく感じましたが、先生方が日英両語ですべて懇切丁寧に説明してくださったおかげで、すぐになじむことができました。それに日本の友達はとても勉強熱心で、私も頑張らなくてはと励みになります。

岡本さんは、留学生と一緒に授業を受けて、刺激を受けますか。

岡本: はい、とても刺激を受けています。留学生の子たちはすごく意欲もあるし、理解も吸収も早いので、私もその子たちに追いつこうと思いながら自分を高めることができるし、授業の重要な内容を話し合ったりして、お互いに高めあっているような感じがします。

日英併用での授業には、すぐになじみましたか。

岡本: 最初の頃は、すごく戸惑いました。しかし日にちが経つにつれて徐々に慣れてきて、今では違和感はありません。コミュニケーションも英語、日本語を交えつつ行っています。一緒に話すのはお互いのことを理解することが出来るし、楽しいです。

日英併用のシステムでは、講義や実習はどのように行われるのですか。

ユン: 講義の時は、先生が日本語と英語でスライドの資料を作ってくださいます。英文で書かれている場合でも、専門用語は日本語に訳してくださるので、日本人学生・留学生ともに理解することができます。まず日本語での説明があり、続いて英語での説明があります。一方、実習の場合は、作業と平行して専門用語をまじえた説明を日英両方で行うのは大変なので、日本語での説明の後、留学生のところに先生が来られ、英語でわかりやすく説明してくださることもあります。

どのような授業や実習がもっとも興味深かったですか。

岡本: 一番記憶に残っているのは、2年生の時の解剖学実習です。一体のご遺体を解剖して、さまざまな組織がどこにあるのかを学んでいく授業です。各6人くらいのグループに分かれて行うのですが、その中に留学生が一人は含まれるという構成です。最初に先生の説明が英語であって、留学生と日本人学生がコミュニケー ションを取りつつ一緒に学んでいくというスタイルです。実際、その時はすごく英語を覚えたり、お互いに英語でコミュニケーションを取ったりして深い関わりを持つことができたので、私にはその授業が特に印象に残っています。

ユン: 歯科に関する科目はすべて新鮮で興味深いものですが、しいて挙げるなら、ひとつは岡本さんが先ほど挙げた解剖学実習です。班別に分かれて行うため、日本の仲間とも交流できます。共に学ぶことでみんなと親しくなれるので、私にとっては有意義な時間なのですが、内容は難しいです。個人的にもっとも興味深いのは、クラウンやブリッジを作る歯科補綴学の実習です。モデルを作る時も先生が英語で説明してくださいますので、何も問題はありません。

自宅学習は何時間くらいしていますか。

岡本: 時と場合によります。例えば実習があったり、難しい授業があった日はだいたい一時間ぐらい、さっとレジュメをさらうという感じです。図書館もよく利用しています。

ユン: 私も科目やスケジュールによって色々です。いつもは放課後にその日の復習をする程度ですが、試験の際には、当日まで集中して勉強します。

広大の図書館をどう思われますか。

ユン: とても気に入っています。私が来日した時、図書館には英語の教科書が既に用意されており、留学生は全員それらを借りて勉強することができました。学習スペースの雰囲気も好きで、私もよくそこで勉強しています。

困難に直面した時は、どう対処されますか。

岡本: 困難に直面した時はすごく不安で、「どうしよう?」という気持ちが先行しますけど、なぜそれが起こったのか、よくよく原因を考えて、そしてその次どういう行動を起こすべきかの選択肢を幾つか作り・・・といった感じで対処していきます。できるだけ冷静になるようにつとめます。

明快ですね! ユンさんはいかがですか。

ユン: 学習面で行き詰まった時は、幸いなことにいつも友達が相談に乗ってくれます。友達がわからない時は、その講義を担当された先生に質問します。しかし現在留学中の私にとって、生活面の問題を解決するのは容易ではありません。そこでまず私は、その問題が生じた原因を考えます。自分で解決できない時は学生支援室で相談します。それに、家族が強い支えになってくれます。家族に電話したり友人と話したりすればストレスも軽減されるし、困難を乗り越えることができます。

文化の違いで困ったことはありませんでしたか。

ユン: 大きな問題は何も。しかし日本文化がわからないことが原因で、ちょっと大変だなという経験はありました。しかし困難に遭遇すれば、その分より日本のことを理解できるし、良い経験になります。そうなると、もはやトラブルとは言えませんね。

前向きですね! ところで、フリータイムは何をして過ごしますか。

岡本: 私は、霞管弦楽団というオーケストラクラブでチェロを弾いていて、土曜日には練習に参加します。あとは、友達との時間を大切にしています。一緒に食事に行ったり、遊びに行ったりしています。

数ある楽器の中からチェロを選ばれたのは、なぜですか。

岡本: 音色がすごく良くて好きなのと、それに、何だか安心感があるので(笑)。

ユン:私は、空いた時間はよく友達と会っています。日本の子だけでなく色んな留学生の友達がいて、他大学の友達もいます。ベトナムの友達とは買い物をしたり、広島市内を見物したりしています。

大学や地元のイベントにはよく参加されますか。

岡本: はい。学内のイベントといえば、広島大学霞祭ですね。広大にはHUDIC (ヒューディック;広島大学歯学部国際交流部) という歯学部の国際交流クラブがあるのですが、そこのみんなで大学祭のときに模擬店を出しています。他の留学生達も一緒にそれぞれの国の食べ物を売っています。昨年は「バナナフライ」を売りました。

バナナフライとは、どの国の食べ物ですか。

岡本: インドネシアです。ベトナムにもあります。文字通り、バナナを揚げた料理なんですけど。

素朴でおいしそうですね!

ユン: そうなんですよ!その他にも地元のイベントとして、留学生会館で行われる国際的なお祭りがあって、そこで私もベトナムの友達と一緒にフォーや揚げ春巻きなどのベトナム料理を売りました。

歯科を志す後輩達に、ひとことアドバイスをいただけますか。

岡本: 歯科というと、「歯のことに関して」というふうに限定されがちですが、実は本当に広く深い分野なんです。学んでいくにつれて口腔のことはもちろん、その他さまざまな知識が必要なのだと気づかされますし、それをどれだけ深められるかはすべて自分次第です。自分のモチベーション次第で歯科の世界というのは無限に変わっていくのだと、今すごく実感しています。あと、やはりキャンパスでは歯学部内に交友関係が偏りがちですが、より幅広い分野の人たちと関わっていく積極的な姿勢も必要です。

ありがとうございます。ユンさん、留学を希望する後輩にアドバイスをいただけますか。

ユン: 留学に最も必要なのは、新しい物事を受け入れる広い心だと思います。そして積極性も大事です。留学には困難がつきものですし、途中で多くの問題に直面するでしょう。しかしそれを克服することができれば良い経験になりますし、そこから学べることも多いと思います。

ありがとうございます。留学はしたいけれど、友達づきあいが苦手な内気な人にも、ひとことお願いできますか。

岡本: 留学するには英語が堪能でなくてはいけないとか、そんなふうに思いがちですね。しかし、実際は他にもコミュニケーションをとる手段はあります。たとえば絵を描いたり、ジェスチャーとかですね。それらを活用しながら自分の思いを伝えたいとか、その人のことを知りたいといった積極的な気持ちが大切だと思います。

ユン: 外国語を話すとか、外国に行くとか、何でも初めてのことというのは緊張するし、気弱になりがちですよね。でもそういう時こそ、自分はなぜ留学したいのかを考えるべきです。その動機が背中を押してくれて、心を強く持てると思うのです。自分が変わる勇気を持てれば、コミュニケーションにも自信がつきますし、留学もできますよ。

国際交流で最も大事なことは何だと思いますか。

岡本: 先ほども言ったように、自分の思いを伝えたいという気持ちと、相手のことを知りたいという気持ち。それと、たとえば相手の言語などに関して、自分からどれだけ積極的に学んでいけるかっていう、そういった熱意が大事かなと思います。

ユン: まず重要なのは、学習意欲や知識欲を持つこと。第二に、友人をつくること。つまり「知識」と「友情」が大事だと思います。

最後の質問です。将来はどんな歯科医師、あるいは国際リーダーでありたいと思いますか。

岡本:国際化が進んだ今、日本でしか通用しないというのは嫌だなと私も感じています。幸い、今はユンさんをはじめ多くの留学生がいてくれますので、彼女たちの国の歯科事情を聞いたり、その他の知識も貪欲に吸収して、従来の日本のやり方プラスアルファで新しいやり方を模索していけたらいいなと思っています。

ユン:私も、世界に通用する歯科医師になりたいです。ベトナムだけでなく世界中の患者さんを治療し、多くの症例を経験して知識を深めたいのです。国際学会にも出席して他の歯科医師とネットワークを築き、知識を共有し友好を深めたい。臨床歯科医師として治療技術を磨き、かつ研究者でもありたい。その両方をかなえたいと思っています。

Photo Gallery

カナダ、バンクーバーの留学先にて (1) (岡本)

カナダ、バンクーバーの留学先にて (2) (岡本)

留学生会館のお祭りで、ベトナム料理を販売 (ユン)

歯科実習 (ユン)


up