第3回 Olexandr Kovalenkoさん(ウクライナ)

ここでは自分で何でもやっていく

名前:オレクサンドル(アレックス)・コバレンコ
年齢:27
国籍:ウクライナ(キエフ)
プログラム:D2
専攻:総合科学研究科 地域研究領域
専門分野:日本史
趣味:読書、執筆、描画、剣道

『留学生インタビュー』バックナンバー

留学生Interviewの第3回目は、総合科学研究科で日本史を専門に研究されているアレックスさん(博士課程後期2年)にお話を伺いました。アレックスさんは語学力がとても素晴らしく、またとても気さくな方で、総合学科研究科でも人気です。布川教授の下で研究を続けて4年(博士課程前期含む)になります。広島大学で国際的な研究者はどのような生活を送っているのでしょうか?早速聞いてみましょう!

今日は留学生Interviewに来て頂き、ありがとうございます。アレックスさんは今博士課程後期ですね?

そうです。実は母国ウクライナでも博士課程の学生だった。ウクライナで最も大きい大学、キエフ大学歴史学部に在学していて、文部科学省の国費留学生として広島大学に来たんです。

どうして日本史に興味をお持ちなのですか?

話は長いのですが、子供の頃から、父がよく歴史の話をしてくれました。6歳の頃に武士の話を聞いたりして、すごく印象に残ったんです。そのおかげで日本史にとても興味を持つようになり、歴史や日本語を勉強し始めました。

日本語はどのぐらい勉強したのですか?

10年ぐらいです。でもまだまだです(笑)英語もね(笑)。学部生の時は独学で日本語を勉強していて、実は、大学での系統的な(一貫した)日本語教育を受けたことがないです。

ご自分で勉強したのですか?素晴らしい。でもどうして広島大学を選んだのですか?

キエフで音楽を勉強していた広島からの日本人の友達がいて、その友達から広島大学のことを知りました。そして、大学のホームページを見て、広大の図書館や日本史の先生について調べたりして広大に行くことにしました。

他の日本の大学も調べましたか?

勿論そうです。東京や京都にある大学を調べてみたけど、私は東京の日本や京都の日本ではなく、本当の日本を見たかったのです。東京は日本の中心都市ですが、本当の日本が知りたいなら、中央から離れた地方に行かないといけないですね。ここでは真正の日本の生活が体験できています。

日本に来る前に、当然日本文化や生活のイメージがあったと思いますが、実際に日本に住んでみると、イメージと違いますか?

こういうと変ですが、実はイメージなんてなかったんです。最初は日本に行こうとは思っていなかった。というより、目的は日本に行くことじゃなくて、日本研究に取り組むことでした。日本語で書かれた資料がたくさん読めるところ、そして日本の研究者と話ができるところに行こうと思っていたんです(笑)。そういうところは日本しかないですよね(笑)。

ご研究のテーマは何ですか?

ウクライナや日本での2年間の研究テーマは日本人の起源について研究者がどのように捉えているかでした。でもそのテーマは政治的で、私は政治のことはあまり好きじゃないので(笑)、PhDはもっと興味があるテーマについて書くことにしました。今は江戸時代の軍記・歴史書における織田信長の人物像の変遷について研究しています。だから多くの古文書などを読まなければなりません。

すごいですね!どうして織田信長に惹かれたんですか?

それは、たぶん織田信長がヨーロッパや西洋の世界にとても近い唯一の戦国大名で政治家だったから。信長はヨーロッパの宣教師や商人を支援したので、個人的に興味ありますね(ヨーロッパ人として)。この研究が進めば日本とヨーロッパとの橋渡しになり、ウクライナやヨーロッパの人々に関心を持ってもらえると思います。

ウクライナでも日本でも研究のご経験がありますが、研究方法に違いがありますか?

もちろんあります。まず、ウクライナの多くの大学では自分で自分の研究テーマを選ぶことが出来ません。学生のテーマは教員や教育省によって定められて、テーマを選ぶ自由が殆どありません。とても複雑で厳しいシステムです。だから、日本に来た時に、本当にびっくりしました。日本では自分で何でもやっている。自分で計画を立て、自分で研究して、そして責任は自分にある。ウクライナでは、責任は学生よりも指導教員にあります!日本とは正反対ですね。

広大で研究を進める中で、どんな機会がありましたか?

私はまだまだ研究者の卵だけど(笑)。いくつかの国内の学会に行く機会がありました。聴講だけで発表はしていませんが。今年はD2なので、そろそろ学会で自分の研究について発表しないといけないです。ヨーロッパの学会や研究会に参加したことがあります。

研究者としての生活はどうですか?

そうですね、朝食後に図書館や研究室に行って、20時や21時まで研究します。暇があれば友人と遊ぶけれど、たまにしかしません。私の研究テーマでは、古文を読んだりして大変時間がかかりますからね。帰宅するのはだいたい22時か23時です。

研究中心の生活なのですね。

そうです。特にこの2年間ぐらいが大変だった。「信長公記」という年代記を訳したので、ウクライナで発表する予定です。またうまくいけば、英訳して米国や英国でも発表する予定です。

翻訳には、どのぐらいの時間がかかりましたか?

2年ぐらいかな。今は江戸時代のキリスト教の宣教師について書かれたとても面白い本を訳しています。ご存知でしょうけど、日本ではキリスト教が禁止されていました。この本は江戸時代に書かれたもので、日本人からとても可笑しく見えたキリスト教の宣教師の話です。実に面白いですよ。「南蛮寺興廃記」という本です。

私も読んでみたいですね!日本に来てからはたくさんの論文を書かれたのですか?

まだ何も発表していないけど、恐らく9月ぐらいにキリスト教の宣教師達や(日本人の起源に関する)前の研究についての論文を出す予定です。急にテーマを変えたので、修士論文の成果を発表していませんが、9月になったら、修正する時間があると思うので日本で発表します。

博士号を取得した後はどうされますか?

学者になりたいので、将来的にはどこかで教員になりたいです。そのため、日本に残って、日本語能力を高めたり、自分の研究の分野を深めたりするか、または米国などで博士研究員(ポスドク)になるか…それとも帰国して、日本学の先生になるか、オプションが色々あります。でもまずは自分が日本で学者として認められないと、ウクライナでの日本学の発展には貢献できないですね。

日本で研究したい留学生に何かアドバイスがありますか?

ネットワーク作りはとても大事です。私の場合、広島だけではなく、新潟や東京にいる先生と連絡を取ったりしますし、日本やヨーロッパの学会に行くと、たくさんの先生方が論文を発表するようアドバイスしてくれたり、研究を手伝ってくれたりします。私は一人じゃないとすごく感じています。

それは全てネットワークのおかげですね。

そう!とても大事なことです。広島大学ではネットワーク作りは外国人にとっても難しくないんです。ここではとても支援してもらっていますからね。

ご自分の研究がどう社会に貢献して欲しいですか?

子供の頃に、よく日本に関して英語で書かれたものを読んだけど、そこにたくさんの間違いが書かれていたことが分かった。まずは先行研究の誤解を正すことです。次に(ウクライナには)古文書や崩し字が読める専門家が少ないため、私がその専門家になることを目指しています。史料を訳すことでその分野に貢献したいです。最後に、17世紀のヨーロッパと日本の関係というテーマをもっと発展させて、比較分析もしたいと思っています。

アレックスさんの論文を読むのをとても楽しみにしています!研究を頑張って下さい!今日はインタビューさせて頂き、本当にありがとうございました。

ありがとうございます。

ウクライナのキエフにて

奈良にて

広島大学卒業式で剣道部の仲間と(前列左がアレックスさん)

お気に入り


up