水素貯蔵反応動的観察の技術提供~ミクロからマクロまで~

平成21年6月18日

広島大学 先進機能物質研究センター
北海道大学 工学研究科

「水素貯蔵反応動的観察の技術提供~ミクロからマクロまで~」
- 水素貯蔵メカニズムの研究を加速するため、産業界との共同研究を公募します -

1.概要

NEDO技術開発機構の「水素貯蔵材料先端基盤研究事業(Hydro☆Star)」では,材料の水素貯蔵メカニズムを明らかにするために,様々な基礎研究を通して新しい実験・解析技術を構築しています。広島大学先進機能物質研究センター水素貯蔵物質研究室と北海道大学大学院工学研究科機能材料学研究室 は,同事業の参画研究機関として,「非金属系水素貯蔵材料の基礎研究」を実施しています。同事業では,これらの実験・解析技術をより高度化し,実用的な水素貯蔵材料の開発指針を産業界に提示することを目標としており,このほど,同事業と産業界等との連携を推進する一環として,実験・解析技術の活用に係る公募を実施することとなりました。
 

公募に関する詳細は、以下のURL参照願います。
・広島大学  http://home.hiroshima-u.ac.jp/hydrogen/
・北海道大学 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/loam/top-j.htm

 

両研究室は「水素貯蔵材料の水素吸蔵/放出時のその場観察(ミクロからマクロまで)」の実験・解析技術を,産業界等から提供を受ける先進的・実用的な水素貯蔵材料に適用することを計画しました。水素貯蔵反応動的観察の技術提供は以下の2種類です

1-1.ミクロスケール(10-6~10-9m)動的観察技術

技術の目的・内容

環境セルホルダ(図1参照)を用いて,2気圧(約0.2 MPa)以下の水素雰囲気及び加熱状態での透過電子顕微鏡観察が実施可能です。水素吸蔵/放出反応のミクロスケールその場観察と,構造解析を行います。

活用形態

各種粉末試料,薄膜試料の観察が可能です。加熱は,室温~150℃程度まで対応が可能です。

期待成果

水素吸蔵/放出反応機構の解明および水素吸蔵/放出反応に関与する触媒機構の解明が期待できます。

図1 透過電子顕微鏡用資料ホルダ(左) 環境セル(右)

1-2.マクロスケール(10-3~10-6m)動的観察技術

技術の目的・内容

高圧セル(図2参照)を用いて,50気圧(約5.0MPa) 以下の水素雰囲気及び加熱状態(最高450℃)で光学顕微鏡観察が実施可能です。水素吸蔵/放出反応のマクロスケールその場観察を行います。

活用形態

各種粉末試料,薄膜試料の観察が可能です。加熱は,室温~450℃まで対応が可能です。

期待成果

水素吸蔵/放出反応に関与するモルフォロジーの変化が観察できます。

光学顕微鏡
高圧セル

図2 光学顕微鏡(左) 高圧セル(右)

2.本技術を用いた研究成果

軽元素の水素化物は質量水素密度が4~20質量%と水素吸蔵合金より高く,燃料電池自動車用の水素貯蔵材料として期待されています。これらの設計技術を 開発するためには反応機構の解明が不可欠であり,世界中の研究者が水素化物とガスの反応過程をミクロ・マクロスケールでその場観察することを希望していました。広島大学と北海道大学のグループの開発した技術による研究成果の一例を紹介します。研究対象は,代表的な軽元素水素貯蔵物質である水素化マグネシウ ムです。この物質は7.6質量%の高い水素貯蔵量から注目されており,国内外の研究者が精力的に研究に取り組んでいます。なかでも実用化に向けた取り組みの1つに水素吸蔵放出反応速度の改善が挙げられ,最も有効な手段として触媒技術が検討されています。実際,微量の触媒を添加することで反応速度は劇的に改善されます。しかし,構造安定性の観点から実用化には至っておらず,材料開発の設計指針を得るために反応機構の解明に挑んでいます。

2-1.ミクロスケール(10-6~10-9m)動的観察の研究成果

環境セルを用いて,マグネシウムの水素化反応を透過電子顕微鏡でその場観察しました。図3に,マグネシウム粉末の高倍率像と電子線回折パターンの水素導入前から水素導入後の経時変化を示します。高倍率像では,水素化反応による体積膨張が観察されました。電子線回折パターンは,水素化反応によってマグネシウムが水素化マグネシウムに変化したことを表しています。透過電子顕微鏡を用いて,マグネシウムの水素化反応をその場観察できた世界初の研究成果です。

図3 環境セル型透過電子顕微鏡その場観察によるマグネシウムの水素化反応粉末の高倍率像(上) 電子線回折パターン(下,右)

2-2.マクロスケール(10-3~10-6m)動的観察の研究成果

高圧セルと光学顕微鏡を用いて,水素化マグネシウムの水素放出反応をその場観察しました。透過電子顕微鏡と比べて低倍率ですが,脱水素化反応の動画を撮影することに成功しました。図4は,室温と250℃まで加熱時の試料の様子を示しています。動画では,室温から250℃まで温度が上がるのに伴って,徐々にオレンジ色の物質(水素化マグネシウム)の一部が,銀色(マグネシウム)に変化する様子が捉えられました。この結果を解析することで,脱水素化反応が始まる場所の同定が期待できます。この動的観察は世界初の試みであり,今後の研究成果が注目されています。

高圧セルを用いた光学顕微鏡その場観察による水素化マグネシウムの脱水素化反応

図4 高圧セルを用いた光学顕微鏡その場観察による水素化マグネシウムの脱水素化反応室温(左) 250℃まで加熱(右)

3.材料研究におけるその場観察の重要性

電子顕微鏡は像を高倍率に拡大して原子構造を見ることが可能であり,先端材料研究の強力な方法となってきましたが,その反面,試料を高真空中に置く必要があり,ガスと材料の反応を観察することは不可能でした。この難点を克服するために,広島大学と北海道大学の研究グループは電子透過性ガス隔膜をつけた 「電子顕微鏡用環境セル」を開発しました。この環境セルにより,高真空中でも試料を2気圧(約0.2 MPa)までのガス環境におくことができ,透過型電子顕微鏡によるミクロ・ナノスケールのその場観察が可能です。このようなガス環境の透過電子顕微鏡は世界でも例がなく,ガス反応のナノレベルでの可視化や生体の空気中の観察に道を開くものです。

光学顕微鏡を用いたその場観察は,電子顕微鏡と比べて低倍率(マクロスケール)ですが,より厳しい条件に応用が可能です。今回の技術では50気圧(約 5.0MPa)までのガス環境が実現可能で,温度も室温から450℃までの広範囲です。ビデオ撮影から動的観察結果を動画として記録・表現することができ ます。

上記2種類の技術を用いることで,ミクロ・ナノスケールからマクロスケールまでの広範囲で当該の反応のその場観察が可能です。ミクロからマクロまでのその場観察から反応機構を解明し,材料開発に必須の材料設計指針を得ることが期待できます。

問い合わせ等

● 広島大学先進機能物質研究センター 教授 小島由継
電 話: 082-424-3904、082-424-5744(秘書)
FAX: 082-424-5744   e-mail: kojimay@hiroshima-u.ac.jp
URL: http://home.hiroshima-u.ac.jp/hydrogen/
 

● 北海道大学大学院工学研究科材料科学専攻 教授 大貫惣明
電 話: 011-706-6769 FAX: 011-706-6772 e-mail: ohnuki@eng.hokudai.ac.jp
URL: http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/loam/top-j.htm
(※@は半角に置き換え送信してください。)


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