黄砂が酸性雨を中和する過程を解明

平成21年9月3日

黄砂が酸性雨を中和する過程を解明
― 黄砂が持つ意外な一面 ―

 

概要

広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻の高橋嘉夫教授らの研究チームは、高エネルギー加速器研究機構、産業技術総合研究所、理化学研究所などと共同で、中国西部に起源をもつ黄砂が偏西風にのって東に運ばれる際に、酸性雨の原因となる硫酸を中和する過程を、放射光を用いたX線吸収法により明らかにしました。この研究成果は、アメリカ化学会の学術雑誌Environmental Science and Technology誌の9月1日号に掲載されました。

背景

酸性雨は、化石燃料に由来する二酸化硫黄(SO2)が大気中で酸化されて生成する硫酸や窒素酸化物から変換された硝酸により主に引き起こされます。日本に降る酸性雨は、中国で発生した酸性物質による場合もあり、越境汚染問題のひとつとして研究されています。
一方黄砂は、大気の見通しの悪化や農作物への被害、健康影響などの直接的な影響以外に、太陽光の散乱や吸収、雲の特性の変化などを通じて気候へも影響を及ぼすと考えられています。このような黄砂は、中国西部の乾燥地域を起源とし、その乾燥地域の砂には、炭酸カルシウムが主要な成分として含まれています。この炭酸カルシウムは、中性の水には溶けませんが硫酸などの酸性物質と反応する塩基性の物質であるため、大気中に浮遊し黄砂として運搬される過程で、酸性物質を中和することができます。

研究手法

高橋教授らは、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の放射光実験施設でのX線吸収法を駆使することにより、タクラマカン砂漠近郊では黄砂中に認められた炭酸カルシウムが、日本などに長距離運搬される過程で、硫酸により中和されていることを明らかにしました。特に、黄砂粒子表面に敏感な分析法を用いることで、黄砂粒子の表面で中和反応が進行することを明らかにしました。また、実際に回収された大気中の微粒子が示すpHは、黄砂が発生した時期だけ中性を示しますが、黄砂のない時期では酸性を示すことも明らかにしました。これまでも、黄砂により酸性雨が中和されることは知られてはいましたが、黄砂が運搬される過程で実際に中和が進行すること、その中和反応が黄砂粒子の表面で起きていることなどを明らかにしたのは本研究が初めてです

今後

黄砂には、太平洋の植物プランクトンの栄養源となる他、二酸化炭素の吸収を促進する可能性があるなど、様々な側面を持つことが指摘されています。今後も、X線吸収法による分析で、黄砂が大気環境に与える様々な影響が、良い面と悪い面の両方で明らかになっていくことが期待されます

お問い合わせ先

広島大学大学院理学研究科
地球惑星システム学専攻 教授 高橋嘉夫
電話:082-424-7460、FAX:082-424-0735
E-mail:ytakaha@hiroshima-u.ac.jp
(@は半角@に置き換えた上、送信してください。)


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