太陽の約80億倍、史上最も明るいIa型超新星爆発

平成21年9月11日

太陽の約80億倍、史上最も明るいIa型超新星爆発
─これまでの「限界」を超えた超新星の発見─

 

広島大学大学院理学研究科・山中雅之大学院生、同大宇宙科学センター・川端弘治准教授、東京大学大学院理学系研究科・田中雅臣大学院生、同大数物連携宇宙研究機構(IPMU)・野本憲一主任研究員、前田啓一特任助教らの研究グループは、広島大学の「かなた望遠鏡」を初めとする国内の望遠鏡や国立天文台ハワイ観測所の「すばる」望遠鏡を駆使した観測により、史上最も明るいIa型超新星の正体を突き止めました。

Ia型超新星は、白色矮星と呼ばれる密度の非常に大きな星が、ある限界の質量まで太ったときに起こす大爆発と考えられています。この限界の質量は、1983年にノーベル物理学賞を受賞したスブラマニアン・チャンドラセカールにより導かれたことから、チャンドラセカールの限界質量と呼ばれています。山中雅之大学院生らのグループは、今年4月に発見された超新星「SN 2009dc」(図1)に対して重点的な観測を行いました。その結果、研究グループは、この超新星が太陽の約80億倍の明るさを放つ、史上最も明るいIa型超新星であることを発見しました(図2)。さらに、その正体が、従来考えられてきたチャンドラセカールの限界質量を越えた質量をもつ白色矮星の爆発であることを突き止めました。

これまで、Ia型超新星は一定の質量をもち、ほぼ一定の明るさをもつことから、遠方宇宙までの距離を測定し、宇宙の膨張史を辿る研究に用いられてきました。今回発見された「限界」を越えたIa型超新星の存在は、そのような研究の基礎に関わる問題であり、宇宙に関する様々な研究に対して大きなインパクトを与えるものです。

SN 2009dcには及ばないものの、非常に明るいIa型超新星は、これまで他に2例発見されていました。しかし、それらの非常に明るいIa型超新星が、チャンドラセカールの限界を超えているのではなく、爆発が非常に歪んだ形をしているために明るく「見えている」だけである、という説も提唱されていました。残念ながら、超新星は数億光年の彼方で起こっているので、その形を見ることはできません。そこで、田中雅臣大学院生らの研究グループは、すばる望遠鏡FOCASを用いて超新星からの光の「偏り」を測定しました。もし超新星が歪んでいると、光の振動の向きによって強度が異なることが予想されます。非常に明るいIa型超新星に対する光の偏りの測定は、今回が世界で初めてのことです。元素により吸収を受けている箇所は、その吸収によって光の偏り具合が影響されるので、 図3の赤で示された吸収のない波長域の偏りが、超新星の「形」の指標となります。これより、光の偏りが、わずか0.3%以下しかないことが分かります(赤い点線)。光の偏りの観測によって、極めて明るいIa超新星が極端に歪んでいるのではないことがわかり、従来考えられてきたチャンドラセカールの限界質量を超えた爆発であることがほぼ確定的になりました。

 

本研究成果は、2009年9月14~16日に開催される日本天文学会秋季年会(山口大学)で発表します。また、関連する記者会見を、同9月13日(日)14:00-15:00から、山口大学の大学会館会議室で行います。なお、本件の解禁時刻は、 9月14日午前4時以降でお願い申し上げます(14日朝刊への掲載は可)。

 

図1 広島大学宇宙科学センター附属東広島天文台のかなた望遠鏡により撮られた、史上最も明るいIa型超新星 SN 2009dcの可視光画像(山中雅之大学院生らによる観測)。二本の線で示されている青白い星が超新星。画像の大きさは縦横3分角(満月の直径が約30分角)。真ん中に見えるのは、この超新星を含む母銀河 UGC 10064で、かんむり座の方向にあり、距離は約3億光年。銀河の周りに見える超新星以外の星は、我々の銀河内に存在するずっと暗い星で、太陽系に近く、たまたまこの方向に存在するため、超新星と同じくらいの明るさに見えている。この明るさを測定し、超新星が出す総輻射エネルギーを求めたものが図2のグラフに掲載されている。

 

図2 SN 2009dcの総輻射エネルギーの時間変化。極大光度時には太陽の約80億倍(通常のIa型超新星の2.5-3倍)の明るさで輝いていたことがわかる(縦軸の43は、10の43乗を表す)。

 

図3 すばる望遠鏡FOCASで観測したSN 2009dcのスペクトル(光を波長ごとに分けたもの、上のパネル)と、 それぞれの波長における光の偏りの度合い(下のパネル)。光の偏りから超新星の爆発の歪み具合(まん丸かそうでないか)を推定することができる。

研究成果に関するお問い合わせ先:

広島大学宇宙科学センター 川端 弘治
TEL: 研究室082-424-5765
e-mail: kawabtkj@hiroshima-u.ac.jp
(@は半角@に置き換えた上、送信してください。)

記者会見についてのお問い合わせ:

日本天文学会年会係
TEL: 0422-31-5488

研究成果に関するホームページのURL:
http://supernova.astron.s.u-tokyo.ac.jp/~tanaka/News/press_Ia.html

研究グループ(50音順)
青木賢太郎、新井彰、家正則、池尻祐輝、伊藤亮介、今田明、植村誠、大杉節、面高俊宏、鎌田有紀子、河合誠之、川端弘治、衣笠健三、黒田大介、小松智之、 坂井伸行、佐々木敏由紀、笹田真人、鈴木麻里子、高橋英則、田口光、田中祐行、田中雅臣、千代延真吾、永江修、中屋秀彦、野本憲一、橋本修、服部尭、深沢 泰司、本田敏志、前田啓一、宮崎聡、宮本久嗣、柳澤顕史、山下卓也、山中雅之、吉田道利、Paolo A. Mazzali、Elena Pian


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