アインシュタイン相対性理論の適用限界に挑戦

平成21年10月28日

73億光年前のガンマ線バースト天体現象を解析
アインシュタイン相対性理論の適用限界に挑戦
― フェルミガンマ線宇宙望遠鏡日本チーム、国際研究チーム ―

 

広島大学、JAXA/ISAS、東京工大のフェルミガンマ線宇宙望遠鏡(1)日本チームおよび国際研究チームは、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡が平成21年5月10日に捉えた(宇宙航空研究開発機構JAXA/ISAS の大野雅功研究員がモニター当番中に検出)約73億光年(2)の彼方で発生したガンマ線バースト(GRB)と呼ばれる天体現象を解析し、GRB観測史上最高エネルギーである310億電子ボルトのガンマ線(可視光のエネルギーは数電子ボルト)を検出しました。さらにこのガンマ線が73億光年の長旅をしても、エネルギーの低いガンマ線の到着とほぼ同時であることを確認しました。
この観測結果は、アインシュタインの相対性理論が非常に微小な領域まで厳密に成立していることを表わします。量子重力理論が予想する時空の泡状構造効果は、もっとミクロな領域でのみ働くことを要求し、理論の構築に強い制限を与えることになります。
この観測結果の論文は、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡国際共同研究チームの成果としてNature誌オンライン版 (3)に10月28日(アメリカ東部時間)に掲載されます。

現代物理学の2大基礎理論は相対性理論と量子力学ですが、時間・空間(時空)を記述する理論としてこの両者を統一する理論の構築には相対性理論の修正が必要と考えられています。今回の観測では、アインシュタインの相対性理論の基礎である「真空中では光速度はエネルギー(波長)に依らず一定」という原理が、非常に高いエネルギーまで精度よく成立することを検証しました。

水やガラス等の物質中では光速度がエネルギー(波長)によって異なります。これによりプリズムで七色の虹が観測されます。同様に真空中でも時空の量子構造(時空が連続的ではなく最少単位長さの泡状構造がある)のためわずかですが同様な効果(光速度の分散)が期待されます。特に非常にエネルギーの高い光では、この効果が大きく出る可能性があります。速度差がわずかでもあれば、73億光年の長距離を伝わることで到着時刻に大きな差が出るはずです。

しかし今回の観測測定では、310憶電子ボルトの高エネルギーガンマ線(波長が非常に短い(4))が73億光年の長距離を伝搬しても、低エネルギーガンマ線と比較した到着時刻差が非常に小さいことを確認し、エネルギー(波長)による速度差は、非常に小さくなければならないということを明らかにしました。

脚注

(1)広島大学を中心とする日本チームが開発に大きな貢献をし、NASAが平成20年6月に打ち上げたガンマ線衛星。
(2)このガンマ線バーストは、南米チリにあるVLT望遠鏡の観測で、GRBが起こった母銀河の距離が測定され73億光年と確定しました。
(3)Nature オンライン版10.1038/nature08574
(4)300億電子ボルトのガンマ線の波長は、約10兆分の1mm

論文日本人著者

広島大学: 大杉節 深沢泰司 水野恒史 山崎了 片桐秀明 高橋弘充 上原岳士 花畑義隆
JAXA :大野雅功 高橋忠幸 尾崎正伸
東京工業大学: 河合誠之 浅野勝晃 中森健之
早稲田大学: 片岡淳
SLAC国立加速器研究所: 釜江常好 田島宏康 内山泰伸 田中孝明 林田将明
ペンシルバニア州立大学: 当真賢二

日本フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡 web page
http://www-heaf.hepl.hiroshima-u.ac.jp/glast/glast-j.html

参考論文

"A limit on the variation of the speed of light arising from quantum gravity effects"
(量子重力効果による光速の変化に対する制限)
論文責任者: 大野 雅功(ISAS/JAXA), Jonathan Granot (イギリス, ハートフォードシャー大学), Sylvain Guiriec (アメリカ, アラバマ大), Veronique Pelassa (フランス, モンテペリエ大)
ネイチャー誌に掲載(オンライン版10.1038/nature08574)

その他、補注、補助・参考説明

注1)光は、波長が短いほどエネルギーが高く、波長とエネルギーは逆比例の関係にあります。
注2)ガンマ線バーストは短時間、エネルギーの高い光であるガンマ線で明るく輝きすぐに消えてしまう天体現象で、非常に遠くで起こるエネルギーの高いある種の爆発現象です。
注3)相対性理論は時空が連続であること(無限に小さく分割可能である)を仮定しています。量子力学はミクロの世界の力学を記述するためにニュートン力学を修正したもので、エネルギーに最小の単位があり、例えば光は振動数に基礎物理定数であるプランク定数hをかけた単位のエネルギーを持つ粒子として扱います。したがって光の強さはその整数倍になります。時空にも最少長さ(プランク・スケール)という量子構造があれば、プランク・スケールという極微の世界では相対性理論を修正して量子重力理論を作らなければなりません。その場合、光速度が時空の量子化のためにエネルギー依存性を持つことが考えられます。

お問い合わせ先

広島大学宇宙科学センター長・特任教授 大杉 節
TEL 082-424-7378

広島大学理学研究科 教授 深沢 泰司
TEL 082-424-7380

広島大学理学研究科 助教 片桐 秀明
TEL 082-424-7379


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