超巨大ブラックホールから噴き出るジェットの構造を解明

平成22年2月18日

世界初!超巨大ブラックホールから噴き出るジェットの構造を解明

 

広島大学「かなた望遠鏡」と日・米・欧共同開発「フェルミ」ガンマ線観測衛星の共同観測研究(林田将明氏とGrzegorz Madejski氏(スタンフォード大学)が中心となって解析)によって、超巨大質量ブラックホールから噴き出るプラズマジェットの構造が明らかになりました。この研究成果は、平成22年2月18日(木)に科学誌「Nature」オンライン版で発表されます。

なお、報道解禁は平成22年2月19日(金)午前3時(日本時間)ですので、ご協力をよろしくお願いいたします。

1.研究の背景

宇宙には、我々の天の川銀河系の他にも数多くの銀河が存在します。天の川銀河の中心にあると考えられている大質量ブラックホールは活発な活動をしていませんが、宇宙を構成している銀河の中には、中心のブラックホールがとても活発に活動している活動銀河と呼ばれる天体が多くあります。その天体は「宇宙ジェット」と呼ばれる光速に近い速度のプラズマ粒子をブラックホールの付近から吹き出しています。どんな理由と条件で中心のブラックホールの活動度が決まるのか、またどのような仕組みで一部のプラズマ粒子がブラックホール近くで外向きのエネルギーを得て加速されるのか、それがジェット状になるのか分かっていません。この「宇宙ジェット」の謎を解明する鍵となっていたのが、ブラックホールのごく近くで発生すると思われている最もエネルギーの高い光、ガンマ線です。

広島大学は、日・米・欧が共同で推進している「フェルミ」ガンマ線衛星開発国際プロジェクトに参加し、ガンマ線望遠鏡開発の鍵となる半導体センサーを開発し貢献しました。また、天体からの偏光は磁場の情報を得る最も有効な方法で、ジェットを作る際に重大な影響を与えていると思われる磁場を調べるために、東広島市下三永に「かなた望遠鏡」と偏光観測装置を設置し、可視光(目に見える光)の偏光観測を進めています。

2.研究内容と成果

今回、広島大学宇宙科学センターを含む国際共同研究グループは、「3C279」と呼ばれる活動銀河をフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡のガンマ線観測と同期したキャンペーン観測を提案し、X線衛星を含む多くの望遠鏡が参加しました。広島大学では「かなた望遠鏡」に3色同時分光偏光撮像装置(名古屋大学開発)を付けた同時観測を5ヶ月連続で行いました。「3C279」は我々から53億光年の非常に遠い距離にありながら明るく輝く(ガンマ線では我々の銀河の1億倍の光度)活動銀河で、ブラックホールからのジェットを正面から見ていると考えられている天体です。

広島大学の「かなた望遠鏡」は、今回の観測成果を出すにあたり決定的に重要な(1)、可視光の偏光(2)データを取得しました。この観測の期間中にフレアーというガンマ線で10倍明るくなる現象が起こりました。このフレアー現象のガンマ線と可視光が同じような強度変化を示したことから、ガンマ線と可視光が同じ所から出ていることがわかりました。また「かなた望遠鏡」の観測した可視光の偏光度から磁場がその発光場所ではきれいに整列していることがわかり、偏光の方向がフレアー期間中、滑らかにかつ連続的に180度回転したことが観測され、これは磁場を伴った宇宙ジェットが緩やかに連続的に曲がっていると解釈できます。

3.今後の展開

宇宙ジェット現象は活動銀河中心の巨大質量ブラックホールが作るジェット以外にもかなり普遍的に存在することが観測から分かっていますが、なぜできるのかそのメカニズムはよく分かっていません。この研究は、宇宙ジェットの生成されるメカニズムを理解する扉を一つ開いたと言えます。「かなた望遠鏡」と「フェルミ」ガンマ線観測衛星との連携観測は始まったばかりです。これからも我々の存在、生存条件を決める宇宙進化に大きな影響を与えたと思われる宇宙ジェットの研究を精力的に行って行く予定です。

(1) 米国スタンフォード大学-SLAC研究所 (共同研究者)米国報道発表文中の記述:The optical polarization data that played a crucial role in this study was taken by the KANATA collaboration, using the KANATA telescope located in Higashihiroshima, Japan. The KANATA telescope is operated by Hiroshima University.

(2) 偏光:一般の光は振動方向に偏りはなく、色々な方向に振動する波が混合している。半分の光がある特定の方向に揃って振動をしている時、その方向に50%偏光しているという。

 

図1 活動銀河のブラックホールとジェットの想像図

図1 活動銀河のブラックホールとジェットの想像図

 

図2 「かなた望遠鏡」で撮影された活動銀河「3C279」(53億光年遠方にある)。
右の2つの明るい天体は私たちの銀河系の中にある13等級の恒星。
画像の視野は横7.0分角×縦1.4分角。 2009年1月7日撮影。(広島大学提供)

図2 「かなた望遠鏡」で撮影された活動銀河「3C279」

 

図3 活動銀河「3C279」の位置と周辺の星座

図3 活動銀河「3C279」の位置と周辺の星座

4.報道解禁

平成22年2月19日(金)午前3時(日本時間)

【関連ウェブサイト】
http://home.hiroshima-u.ac.jp/hasc/news/3c279/index.html
http://home.slac.stanford.edu/pressreleases/2010/20100217.htm

お問い合わせ先

※お問い合わせは、2月18日(木)16時以降にお願いいたします。ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

広島大学宇宙科学センター長・特任教授 大杉 節
TEL:082-424-7378

「かなた望遠鏡」観測責任者・広島大学宇宙科学センター 助教 植村 誠
TEL:082-424-5765


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