磁場で駆動する形状記憶効果のメカニズムを初めて解明

平成22年4月13日

国立大学法人 広島大学
国立大学法人 東北大学
独立行政法人 物質・材料研究機構
学校法人 東北学院大学

磁場で駆動する形状記憶効果のメカニズムを初めて解明
- 大出力アクチュエーターの実用化に向けた新展開! -

概要

広島大学大学院理学研究科の木村昭夫准教授と同研究科大学院生の叶 茂、東北大学電気通信研究所の白井正文教授および三浦良雄助教、物質・材料研究機構(NIMS)の小林啓介特別研究員および上田茂典研究員、東北大学多元 物質科学研究所の貝沼亮介教授、東北学院大学工学研究科の鹿又武教授を中心とする研究グループは、大型放射光施設SPring-8の硬X線光電子分光と第 一原理計算という理論的手法を用いて、強磁性形状記憶合金が示す構造相転移のメカニズムを初めて解明しました。この成果により、強磁性形状記憶合金をベー スとした次世代アクチュエーターの物質設計への大きな方針が示されることが期待されます。

背景

強磁性形状記憶合金は、磁石の性質を持つ強磁性体に形状記憶効果※1が現れる新しい物質のことを指します。温度、磁場、電場など外場を与えて、変位や力などの機械的アウトプットに変換する材料は、アクチュエーター材料と呼ばれています。代表的なアクチュエーターとして、圧電材料、磁歪材料、形状記憶合金が挙げられますが、中でも形状記憶合金は発生可能なひずみや力が大きく、発生エネルギー密度は圧電材料・磁歪材料の約1000倍と非常に強力です。しかしながら、動作が材料の熱伝導で律速されるため、動作速度が低いという欠点がありました。

1996年に米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループにより、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、ガリウム(Ga)からなるNi2MnGaという物質が、0.15%にも及ぶ磁場誘起歪を生じることが発見され、それがきっかけとなって強磁性形状記憶合金の研究が飛躍的に加速しました。この強磁性形状記憶合金は、磁場により変位を制御できることから、高速応答が可能な磁場駆動アクチュエーターへの応用展開が期待されます。さらに同MIT研究グループによりNi2MnGaの歪の大きさが約10%にも及ぶことが報告されましたが、双晶界面の移動を原理とすることから数メガパスカル※2の力しか発生し得ない事が実用への大きな障害となっていました。

ところが2004年以降に新しい強磁性形状記憶合金が発見され、磁場によりより大きな応力を出力することから実用化への大きな進展が見られ始めました。この新しい物質群は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、と第3番目の元素としてインジウム(In)、スズ(Sn)やアンチモン(Sb)で構成されるNi2MnZ(Z=In, Sn, Sb)という3元合金をベースとする強磁性形状記憶合金です。Ni2MnZそのものは強磁性体ですが、Ni2MnGaのような形状記憶効果は現れません。合金のマンガン原子を過剰にしたNi2Mn1+xZ1-xとなって初めて大きな形状記憶効果が現れます。特に2006年にはNi-Mn-Inの合金において、磁場を誘起することにより形状が完全に回復し、原理的には磁場によって100メガパスカルもの力を発生することができることが報告され、大きな注目を集めたばかりです。

このような強磁性形状記憶効果は、合金の結晶の基本構造が、高温では立方体(専門用語では立方晶と呼ばれる)であるのに対し、冷却しある温度に達すると、立方体からずれた複雑な構造に構造転移を起こします。この構造相転移はマルテンサイト変態※3と呼ばれますが、この構造相転移の発現機構をミクロな立場から理解することは、より高い機能性を持った、実用的な強磁性形状記憶合金を開発する上で大変重要と考えられますが、これまでそのような研究は、世界中を見渡してもほとんど行われていませんでした。

研究手法と成果

研究グループは、この新しいタイプの強磁性形状記憶合金のひとつであるNi2Mn1+xSn1-xにおけるマルテンサイト変態の発現メカニズムをミクロな立場から解明するために、最先端の大型放射光施設SPring-8※4のNIMS専用ビ−ムラインBL15XUを利用した硬X線光電子分光※5および第一原理計算※6による理論的手法を駆使して詳細にその電子構造※7を調べました。

その結果、ニッケル(Ni)の電子状態が大きくスピンの向きによってエネルギー的に分裂しており、そのうちの少数スピン状態がマルテンサイト変態に大きく関わっていることを見いだしました。また、母相であるNi2MnSnではその状態が完全に電子で埋められており、マルテンサイト変態に関わる事はありませんが、Mnを過剰にしていくことにより、ニッケルの少数スピン状態に空きが生じ構造を変えてエネルギー分裂を起こした方が有利であることを初めて見いだしました。

研究成果の意義

1. これまで未解明であった強磁性形状記憶合金の構造相転移のメカニズムを電子構造の立場から初めて解明されました。
2. より高性能の強磁性形状記憶合金をベースとした次世代アクチュエーター材料の物質設計に大きな方針を示すことが期待されます。

本研究は、科学研究費補助金と東北大学電気通信研究所共同プロジェクトの助成を受けて実施されました。また、本研究成果は米国の科学雑誌フィジカル・レビュー・レターズ『Physical Review Letters』(5月7日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(5月3日付け)に掲載されます。(米国時間)

つきましては、下記のとおり記者発表を行いますのでご連絡いたします。

<日時> 平成22年4月16日(金)14時00分~15時00分
<場所> キャンパス・イノベーション・センター 5階リエゾンコーナー509(別紙参照)
<説明者>
広島大学 大学院理学研究科 准教授 木村 昭夫
東北大学 電気通信研究所 教 授 白井 正文
<発表形式> 資料配付(レク付き)

<ご連絡事項>
(1)    本件については、掲載誌のプレス解禁日時が5月3日(月)午後11時(日本時間)(米国時間・ニューヨーク 5月3日(月)午前10時)となっておりますので、取り扱いにはご注意願います。解禁日時に変更が生じました場合は追って連絡させていただきます。
(2)    広島大学からは広島市役所記者クラブ・文部科学記者会・科学記者会に、東北大学電気通信研究所からは東北電力記者クラブ、物質・材料研究機構からは筑波研究学園都市記者会に同時にご連絡しておりますことを申し添えます。

本研究に関するお問い合わせ先

広島大学 大学院理学研究科 物理科学専攻
准教授 木村昭夫(きむら あきお)       TEL 082-424-7471 FAX 082-424-0719
〒739-8526 東広島市鏡山1−3−1     E-mail:  akiok@hiroshima-u.ac.jp

東北大学 電気通信研究所 情報デバイス研究部門
教授 白井正文(しらい まさふみ)    TEL 022-217-5074  FAX 022-217-5074
〒980-8577 仙台市青葉区片平2-1-1 E-mail:  shirai@riec.tohoku.ac.jp

独立行政法人 物質・材料研究機構 共用ビームステーション
共用ビームステーション長 小林啓介(こばやし けいすけ)
TEL 0791-58-0223  FAX 0298-58-0223
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1 大型放射光施設SPring-8内
                                          E-mail:  kobayashi.keisuke@nims.go.jp

東北学院大学 工学研究科
教授 鹿又 武(かのまた たけし)     TEL 022-795-6417 FAX 022-795-3104
〒980-8578 宮城県多賀城市中央一丁目13-1 E-mail:  kanomata@tjcc.tohoku-gakuin.ac.jp

【報道に関するお問い合わせ先】
広島大学 社会連携・情報政策室広報グループ
和木 光江   TEL 082-424-6017 FAX 082-424-6040
〒739-8526 東広島市鏡山1-3-1 E-mail:  koho@office.hiroshima-u.ac.jp

東北大学 電気通信研究所
事務部 研究協力係                 TEL  022-217-5422  FAX  022-217-5426
〒980-8577 仙台市青葉区片平2-1-1   E-mail:  crpp@riec.tohoku.ac.jp

独立行政法人 物質・材料研究機構
企画部広報室                      TEL 029-859-2026  FAX  029-859-2017
〒305-0047  茨城県つくば市千現1-2-1  E-mail: pr@nims.go.jp

東北学院大学 研究機関事務課 教育研究支援係
原 義博                             TEL  022-368-1337  FAX  022-368-1352
〒985-8537 多賀城市中央1-13-1      E-mail:  yhara@tjcc.tohoku-gakuin.ac.jp

(@は半角に置き換えてください)


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