慢性皮膚粘膜カンジダ症(CMCD)(*1)は、皮膚、爪、口腔粘膜などの粘膜病変を中心に、慢性・反復性にカンジダ感染を発症する原発性免疫不全症(*2)です。本症患者の約半数でSTAT1遺伝子(*3)の機能が亢進する変異(GOF変異)を認めます。最近STAT1-GOF変異を持つ患者が、CMCD以外に細菌、真菌、ウイルスによる感染症、自己免疫疾患などを合併し、一部の症例では生命が脅かされるほど重篤になったり、治療抵抗性となったりすることが明らかになりました。これらの症例における治療法の確立が喫緊の課題でした。
この度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業において、岡田賢(広島大学大学院 医歯薬保健学研究科医歯薬学専攻 小児科学 講師)小林正夫(同教授)らの研究グループ、今井耕輔(東京医科歯科大学 茨城県小児・周産期地域医療学講座 准教授)、森尾友宏(同・発生発達病態学分野 教授)らの研究グループは、Jennifer W. Leiding(南フロリダ大学小児科)、Troy R.Torgerson(ワシントン大学&シアトル小児病院 小児科学 準教授)らの研究グループと国際共同調査を行い、STAT1-GOF変異を持つ患者における、造血幹細胞移植の有効性と問題点を検討しました。その結果、造血幹細胞移植が成功した患者では移植前に認めた諸症状が消失し、造血幹細胞移植は原疾患の治療に有効であることが明らかとなりました。一方で、移植後3年の生存率は40%であり、造血幹細胞移植の成績が必ずしも良いとは言えないことも判明し、移植前処置や支持療法の改善が今後の課題と考えられます。
【用語解説】
*1 慢性皮膚粘膜カンジダ症(CMCD):皮膚、爪、口腔粘膜、外陰部などの粘膜病変を中心に、慢性・反復性にカンジダ感染を発症する原発性免疫不全症。CMCD患者の約半数で、STAT1のGOF変異が認められることが知られており、現在までに300例を超える患者が報告されている
*2 原発性免疫不全症:先天的に免疫系のいずれかの部分に欠陥があり発症する病気
*3 STAT1:シグナル伝達兼転写活性因子。IFN-α/β, -γなどのシグナル伝達を介在するとともに、転写活性化により遺伝子発現をうながす役割を持つ分子
本研究によって、STAT1機能獲得型変異を持つ患者において、造血幹細胞が根治的療法になりうること明らかになりました。今後、移植前処置や支持療法の改善し、より安全に造血幹細胞移植が行えるように取り組んでいきたいと考えております。