広島大学大学院医歯薬保健学研究科の宿南 知佐教授、同理学研究科の山本 卓教授、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の近藤 玄教授らの研究グループは、椎間板の成熟に、PAX1/9とSOX9によるアグリカン遺伝子の発現制御が重要であることを解明しました。
ヒトの脊椎は、7個の頚椎、12個の胸椎、5個の腰椎、および仙骨と尾骨からなり、椎間板により隣接する椎骨が互いに連結されています(図1)。ゲル状の髄核(※5)とそれを取り囲む線維輪(※6)および終板軟骨から構成されている椎間板(図2)は、外力を吸収するショックアブソーバーとしての役割を果たしています。無血管であるため、加齢や過剰な力学的ストレスによって損傷すると、機能的な回復が難しく、再生医療の重要な標的の一つとなっています。
本研究では、椎間板の弾力性を維持するために欠かせないアグリカンの遺伝子発現を制御する主要なエンハンサー(※7)において、転写因子PAX1/9とSOX9が近接する結合部位を競合することによって、転写を調節していることが明らかになりました。
今回の結果から、PAX1/9の発現を調節することによって、椎間板の成熟を制御することが出来る可能性が示唆されました。
本研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。
(※1) 転写因子
DNAの転写を制御する領域に塩基配列特異的に結合するタンパク質。細胞の核内でDNAからRNAへの転写を促進または抑制することで、他の遺伝子の発現を制御するという重要な働きを持つ。
(※2) PAX1/9
ペアードドメインと呼ばれるDNA結合ドメインを持つ転写因子で、哺乳動物には9種類存在する。PAX1とPAX9は同じサブファミリーに属する転写因子で、脊椎の形成に関与している。
(※3) SOX9
軟骨分化や性分化を制御する転写因子で、HMGボックスを有する。
(※4) アグリカン
分子量約2,500kDaの巨大なケラタン/コンドロイチン硫酸プロテオグリカンで、軟骨や椎間板などに存在する。コア蛋白質に負に帯電したグリコサミノグリカン鎖を多数結合させることで、組織内に高い浸透圧を生じさせ、軟骨などで圧負荷に対する抵抗性を与えている。
(※5) 髄核
椎間板の中心部にある水分の豊富なゲル状の組織で、発生過程に脊髄の下に見られる棒状の支持組織である脊索の遺残である。
(※6) 線維輪
髄核を包み込んで、脊椎骨を強固に連結するコラーゲン線維を含む線維軟骨が主成分の弾性に富む組織。
(※7) エンハンサー
遺伝子の転写量を増加させる作用を持つDNA領域。