東邦大学の室岡玲美大学院生、大江純一郎准教授、広島大学のAndrey Leonov助教、井上克也教授らの研究グループは、キラル磁石中に形成される新しいタイプのナノ磁気渦構造とその特殊な運動を発見しました。現在、盛んに研究が行われている磁気スカーミオンと呼ばれる構造に、空間非対称性を取り入れることで、分子のような形状の新しい磁化構造が表れることを示したものです。これにより、スカーミオンの回転運動など、新しい磁気ダイナミクスが得られ、新たなスピントロニクス素子の開発が期待されます。
この成果は、Scientific Reportsに掲載されました。
◆ 発表者名
- 室岡 玲美 (東邦大学大学院理学研究科物理学専攻 修士課程)
- Andrey O. Leonov (広島大学大学院理学研究科分子構造化学講座 助教)
- 井上 克也 (広島大学大学院理学研究科分子構造化学講座 教授)
- 大江 純一郎 (東邦大学理学部物理学科物性理論教室 准教授)
磁性体中の磁化ダイナミクスや電子スピン自由度を利用したスピントロニクス(注1)と呼ばれる分野は、次世代エレクトロニクス技術として注目を集めており、例えば、ハードディスクの内部では、微小な磁石の向きによって情報を記憶しています。最近では、ナノメートル程度の大きさの磁気渦構造(磁気スカーミオン)が観測され、新しい磁気記憶素子としての可能性が指摘されています。今回、東邦大学理学部の大江准教授らの研究グループと、広島大学の井上克也教授らの研究グループは共同で、非対称な磁気スカーミオン構造と、回転運動を伴う新しい磁化ダイナミクスを発見しました。研究グループは、異方性を考慮した特殊な磁性体中の磁化状態を、コンピュータを用いた大規模シミュレーションを行うことで明らかにしました。この新しい磁気渦状態を用いることで、磁気記録素子の多値化や記録状態の電流制御が効率的に行われる可能性を示しました。
◆ 用語解説
(注1) スピントロニクス:
通常のエレクトロニクス技術では、電荷の自由度のみを考慮していたのに対し、スピントロニクス分野では電子の磁気的性質(スピン自由度)を考慮することで、これまでになかった機能素子の開発が期待できる。コンピュータ内部で使われるハードディスク技術は、スピントロニクス分野の先駆けと言われている。
図1. 対称スカーミオン構造(左図)と非対称スカーミオン構造(右図)。
矢印は微小磁石の磁化の向きを表す。対称スカーミオン構造では、中心と外側部分で磁化の向きは面直方向を向いている。非対称スカーミオンではコア部分と三日月部分で面直方向を向いているが、外側では磁化が面内方向を向いている。