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抗体医薬品研究、線維化研究、がん研究のため広島大学が富士フィルム和光純薬へ抗体試薬を提供

広島大学の医療系トランスレーショナルリサーチ(TR)推進機構は、「トランスレーショナルリサーチセンター(Translational Research Center, TRC)」を設置して様々な基礎研究のシーズを製品化する橋渡し研究を推進しています。本年6月には、センター内に「インテグリン-マトリクス治療医科学講座」(横崎恭之創発教授)を創設し、このたび、同講座で作製されたインテグリンファミリーα8とα9に対する2種類の中和抗体を富士フイルム和光純薬に提供しました。これらの抗体は、今後同社から試薬として販売され、広く研究者の手に行き渡るようになります。これによりインテグリンの生物学的役割の解明が進み、インテグリンを標的とした創薬研究開発が加速されます。

概要

インテグリンは、細胞の表面に存在するレセプターで、コラーゲンなどの細胞間充填物(マトリックス)と結合し、細胞に接着、増殖、移動、分泌などの振舞いを指示する信号を伝えます。図のように2つのパーツ、α鎖・β鎖よりなり、それぞれ18,8種存在します。発見順に番号がつき、番号の大きなものほど発見困難であった歴史を示します。α8以降は概して1) 特定の細胞に、2) 必要なときだけ、現れます。そのため作用もわかりにくく、マウスでα8鎖, α9鎖を消失させると予想だにしない結果が現れました。α8欠損により腎臓が形成されず、α9欠損マウスでは胸腔大リンパ管の弁が機能せず胸に水が貯留し、いずれも生後すぐに死亡します。

また、2つの抗体は以下の特徴を持ちます。
1) 機能を阻害する「中和抗体」
2) ほぼ全ての哺乳動物種と反応
3) 世界唯一の中和抗体(α8)

これまで市販品がなかったことからも分かる様に、これらの抗体の作製は非常に困難でしたが、横崎教授の知識を広大のニワトリ抗体技術に重ねた広島大学の知が結晶化しました。市販化に至る過程で、世界の多くの大学から供与依頼を受け、成果の一部は論文化1,2,3,4)されています。インテグリンα8β1は間葉系細胞だけに発現する稀少インテグリン、一方、α9β1は上皮、好中球、ミクログリア、リンパ管内皮、滑膜線維細胞などの種々の細胞に、しかし特異的に発現します。
これらの抗体はフローサイトメトリーや免疫細胞染色、細胞接着阻害アッセイなどに使用でき、α8, α9の治療標的としてバリデーションに有用です。5,6)

本件のポイント

  • Covid-19の治療戦略でもある抗体は、他を以て代え難い強い作用を持ち、人工的に真似ることのできない生物由来の芸術作品でもあります。医薬としての有用性も著しく、全世界の売上Top10医薬の半分近くを抗体医薬が占めています。
  • インテグリンは抗体医薬の良い標的でもあり、これまで4種類が上市されていますが、各インテグリンの作用を阻害することの意義や各疾病に対する適応を知るためには中和抗体が必須です。現在、α9抗体は臨床試験中7)、α8抗体は臨床試験の一歩手前の研究段階8)です。
  • 広島大学の横崎恭之創発教授の研究室は、この分野における世界屈指のチームで、1993年にインテグリンの一つを発見しています。今回、グローバル企業である富士フイルム和光純薬および傘下の世界チームと産学連携し、広大発の2種類の抗体を全ての研究者に使用可能としました。

注釈

1) University of Pennsylvania, St. Louis University, UC San Francisco, UC Berkeley (USA); Queen Mary University London (England); Marseille University (France); Osaka University (Japan)
2) Sackey-Aboagye B, Olsen AL, Mukherjee SM, Ventriglia A, Yokosaki Y, et al. Fibronectin EDA promotes liver sinusoid repair following hepatectomy. PLoS ONE 11: e0163737. 2016.
3) Khalifeh-Soltani A, Ha A, Podolsky MJ, McCarthy DA, McKleroy W, Azary S, Yokosaki Y et al. α8β1 integrin regulates nutrient absorption through an Mfge8-PTEN dependent mechanism. eLife 5: e13063. 2016.
4) Wang C, Mochel NRd, Christenson S, Moon R, Yokosaki Y, et al. Expansion of hedgehog activation disrupts stromal identity and induces emphysema. J Clin Invest 128: 4343-58. 2018.
5) https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/01947.html
6) https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/docs/01947_pamphlet.pdf
7) Emori T, Hirose J, Ise K, et al. Constitutive activation of integrin α9 augments self-directed hyperplastic and proinflammatory properties of fibroblast-like synoviocytes of rheumatoid arthritis. J Immunol 199: 3427-362017, 2017.
8) Nishimichi N, Kawashima N, Yokosaki Y. Epitopes in α8β1 and other RGD-binding integrins delineate classes of integrin-blocking antibodies and major binding loops in α subunits. Sci Rep 5: 13756, 2015.

富士フイルム和光純薬について

富士フイルム和光純薬は、総合試薬メーカーとして「試薬事業」をはじめ、「化成品事業」「臨床検査薬事業」の3つの事業において、先進の技術開発をベースに、顧客ニーズに応える高機能・高品質な製品(試薬・化成品・臨床検査薬)を提供し、国内で強固な事業基盤を有する等、富士フイルムグループの「ヘルスケア」、「高機能材料」を担うグループの中核企業として事業展開しています。

2018年4月に、富士フイルムグループの和光純薬工業と富士フイルムファインケミカルズは会社統合し、新たに「富士フイルム和光純薬」としてスタートを切りました。これまで両社が培ってきた技術を融合するとともに、富士フイルムグループの知見とブランドをプラスし、世界中の研究者・医療関係者及び産業界の幅広い要請に応えられるよう事業展開しています。

詳細については、http://ffwk.fujifilm.co.jp/index.htmlをご覧ください。

【お問い合わせ先】

<技術的なお問い合わせ先>
広島大学トランスレーショナルリサーチセンター
横崎 恭之 創発教授
TEL: 082-257-1523
E-mail: yokosaki*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

<共同研究講座に関するお問い合わせ先>
広島大学学術・社会連携室
天ヶ瀬 晴信 シニアURA
TEL: 082-257-1988 
E-mail:ura*office.hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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