東京地下鉄サリン事件被害者の身体的および精神的症状については、急性期に関する報告が多く、事件後5年を超える長期および慢性期の健康障害については、ほとんど報告はありません。
本研究は、犯罪や事故、災害などで被害を受けた方たちへのケアを行っているNPO法人リカバリー・サポート・センター (R・S・C)との共同研究として、広島大学大学院 医系科学研究科 長尾 正崇教授(法医学)、杉山 文助教(疫学・疾病制御学)、田中 純子教授(疫学・疾病制御学)らの研究グループが実施しました。
R・S・Cでは、サリン事件の被害に遭われた方々に対する支援事業の一環として、毎年1回検診を行っています。本研究では、東京地下鉄サリン事件から5年後の2000年から2009年までの10年分の検診時アンケートの結果をもとに、事件被害者全体の約12%に相当する747人の身体症状および精神症状の有訴者割合について解析を行いました。
サリン中毒の症状については、縮瞳、胸部圧迫感、鼻漏、あるいは呼吸困難など急性期の症状が知られている一方で、サリン曝露による長期的な健康影響についてはこれまで十分明らかになっていませんでした。
本研究では、東京地下鉄サリン事件被害者の大規模長期データを解析することによって、事件後長期経過後も被害者の方々にはさまざまな身体症状・精神症状が高率に認められていること、またいずれの自覚症状についても経年的な改善傾向が認められないことを初めて明らかにしました。本研究成果は、被害者の長期及び慢性期の健康障害についての解明の基盤となることが期待されます。
この研究成果は国際誌「PLOS ONE」で公開されました。