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【研究成果】オオサンショウウオの特殊な頭骨形成過程を世界で初めて報告

東邦大学理学部の土岐田 昌和准教授、広島市安佐動物公園の田口 勇輝技師、広島大学両生類研究センターの林 利憲教授の研究グループは、世界最大級の両生類として知られ、日本固有種かつ我が国の特別天然記念物でもあるオオサンショウウオの頭部骨格(頭骨)の形成過程を世界で初めて記述し、報告しました。調査の結果、オオサンショウウオの頭骨形成の特殊性が明らかとなり、サンショウウオ類の頭骨形成過程はそれぞれの種の生活史や摂食様式と密接に関連している可能性が示唆されました。
この成果は7月7日に英国の歴史ある動物学専門誌「Zoological Journal of the Linnean Society」に掲載されました。

発表者名

石川 薫(東邦大学大学院理学研究科 博士前期課程生物学専攻 2021年3月修了)
田口 勇輝(広島市安佐動物公園 技師)
小林 凌明(東邦大学理学部生物学科 2018年3月卒業)
安西 航(広島市安佐動物公園 技師)
林 利憲(広島大学両生類研究センター 教授)
土岐田 昌和(東邦大学理学部生物学科 准教授)

本研究成果のポイント

  • 動物園に収蔵された多数の標本を用いることで、オオサンショウウオの頭部骨格(頭骨)の形成過程を世界で初めて記載しました。
  • オオサンショウウオ(オオサンショウウオ科)、カスミサンショウウオ(サンショウウオ科)、イベリアトゲイモリ(イモリ科)、メキシコサンショウウオ(トラフサンショウウオ科)の4種間で頭骨の形成パターンを比較した結果、オオサンショウウオでは他の3種に比べて成長のより早い時期に頭骨が骨化を開始し、成長の過程で顎の関節が外側へ移動することで開口部が他のサンショウウオ類より相対的に大きくなることが明らかになりました。
  • サンショウウオの頭骨形成過程は、水生である、または陸生であるといった種の生活史に伴う採餌方法と強く関連している可能性が示唆されました。

概要

両生類の一系統である有尾類 (サンショウウオ) には約750の現生種が知られ、その生活環境は水中から地上、樹上まで多岐にわたっています。今回、東邦大学理学部の土岐田昌和准教授らは日本固有種かつ我が国の特別天然記念物でもあるオオサンショウウオ(※1)を含むサンショウウオ4科4種の透明骨格標本(※2)を作成し、頭部の骨格(以下、頭骨(※3))の形成過程を定性的に記述しました。さらに、近年、比較形態学の研究において積極的に利用されている幾何学的形態測定法を用いることで、4種の頭骨形成過程を定量的に比較しました。調査の結果、頭骨の骨化開始時期、骨化の進行方向、舌骨および鰓骨の形態変化パターンにおいて顕著な種間差が認められました。オオサンショウウオでは、顎を構成する各骨要素の骨化が成長過程の極めて早い時期に起こり、成長に伴って上顎骨は後方に伸長し、側方に張り出した鱗状骨は後方に向かって傾斜していくことがわかりました。頭骨形成で見られるこれらの特徴は、オオサンショウウオ科のみで知られる独特な採餌方法、つまり舌骨を沈下させることにより生じる水流に加え、顎を上下に開いた際の陰圧で生じる水流をも利用する吸引摂食と顎の左右を独立に動かすことで獲物を捕らえる左右非対称な咬合に関係している可能性があります。本研究を通して、サンショウウオの頭骨形成過程は、それぞれの種の生活史や摂食様式と密接に関連している可能性が示唆されました。

発表内容

サンショウウオには、変態を行う二相性の種から、サイレン科やホライモリ科のサンショウウオに代表される変態を行わない種、アメリカサンショウウオ科のサンショウウオに代表される幼生の段階を経ず成体とほぼ変わらぬ姿で卵から生まれる直接発生を行う種にいたるまで、多様な生活史を持つ種が知られています。また、生活環境も水中から地上、樹上まで多岐にわたります。サンショウウオは各々の生活環境に合わせた採餌方法をとることが知られており、例えば、地上に暮らす種は主に粘液で覆われた舌を伸ばすことで獲物を捕えます。一方で、水中に暮らす種は舌骨を沈下させることで、獲物と水を一緒に吸い込む吸引摂食を行います。特殊な採餌方法も知られており、例えば、一生涯を水中で過ごすオオサンショウウオ科のサンショウウオは舌骨の沈下に加え、開口の勢いも口内への水流発生に利用して吸引摂食を行います。
サンショウウオや我々ヒトを含む脊椎動物にとって、頭骨は中枢神経である脳を保護し、摂食装置である口(顎)を支持する役割を果たす極めて重要な構造です。サンショウウオの頭骨がどのようにして形成されてくるのかについては、これまでいくつかの種で定性的な記述がなされていますが、オオサンショウウオ科の種の頭骨形成を詳しく記述した報告は知られていません。そこで研究グループは系統や生活史の異なる4科4種のサンショウウオ(変態を行うが一生涯水中で過ごすオオサンショウウオ、変態を行いその後は陸生となるカスミサンショウウオ、変態を行うが一生涯水中で過ごすイベリアトゲイモリ、変態を行わず一生涯水生のメキシコサンショウウオ)の各成長段階の個体の透明骨格標本を作り、頭骨の形成過程を詳細に記述しました。また、幾何学的形態測定法を用いて、各種の成長過程における頭蓋骨の形状変化の様子を定量的に評価しました。
調査の結果、頭骨を構成する各骨要素の骨化開始時期や骨化の進行方向、舌骨および鰓骨の形態変化パターンが4種で大きく異なっていました。頭骨の骨化開始はオオサンショウウオで最も早く、カスミサンショウウオで最も遅いことがわかりました。骨化の進行方向に関して、オオサンショウウオでは頭の前方に位置する顎の骨から骨化が始まるのに対して、カスミサンショウウオでは後頭部を構成する骨から骨化が開始することがわかりました。また、定量解析の結果、陸生のカスミサンショウウオでは成長に伴って頭蓋骨が縦長になるのに対して、水生種である他の3種では頭蓋骨が横長になっていくことがわかりました。オオサンショウウオでは、上顎を構成する上顎骨が後外側方向へと伸び、顎の関節が後方へと移動することで、開口部が他の種に比べて顕著に大きくなることがわかりました。本種で認められたこれらの特徴は、オオサンショウウオ科のみで知られる独特な採餌方法、つまり舌骨を沈下させることにより生じる水流に加え、顎を上下に開いた際の陰圧で生じる水流をも利用する吸引摂食と顎の左右を独立に動かすことで獲物を捕らえる左右非対称な咬合に関係している可能性があります。小さな幼生の時期からその発達した顎を使って大きな餌の捕食を開始し、栄養効率を高めることで、オオサンショウウオは巨大化を遂げるのかもしれません。
今回の研究では4科4種のサンショウウオの比較にとどまっていますが、地球上には直接発生を行うアメリカサンショウウオ科の種をはじめとして、特異な生活史を持つサンショウウオの種が数多く暮らしています。今後は、それらの種を解析に加えることで、サンショウウオの頭骨の進化と生活史や摂食様式との関係性をより深く理解することが可能になるでしょう。
また、本研究で使用したオオサンショウウオの標本は、広島市安佐動物公園が園内のオオサンショウウオ保護増殖施設にて継続的な飼育下繁殖を成功させることにより、長年かけて収集してきたものです。今回の成果により、動物園が所有する貴重な動物種標本の基礎研究における有用性と、動物園が博物学的な活動を続ける意義も示されたと言えるでしょう。

図1:オオサンショウウオにおける頭骨の形成過程

特殊な薬剤を用いて、骨 (硬骨)を赤紫色に、軟骨を青色に染色した各成長段階の標本。スケールバーは1mm。

図2:オオサンショウウオの頭蓋骨の線画(左)とランドマークを線で結ぶことで頭蓋骨の形状を単純化して示した図(右)

幾何学的形態測定法では、各骨要素の関節部や末端に目印となるランドマーク(図中の赤丸)を打ち、その座標の情報をもとに生物の形態を定量的に扱う。

用語解説

(※1) オオサンショウウオ
オオサンショウウオ科の1種で日本固有種。学名はAndrias japonicus。オオサンショウウオ科には3種が知られる(Cryptobranchus属1種(アメリカ合衆国に分布)、Andrias属2種(日本と中国にそれぞれ1種分布))。Andrias属の2種は全長が1.5-1.8mほどになり、現生のサンショウウオとしては世界最大。オオサンショウウオ科の3種はともに冷涼な流水中に生息し、体外受精をする。呼吸は主に皮膚を通して行われる。

(※2) 透明骨格標本
軟骨をアルシアンブルーと呼ばれる薬剤で青色に、骨(硬骨)をアリザリンレッドと呼ばれる薬剤で赤紫色に染色し、骨格以外の軟組織(筋、皮膚など)は水酸化カリウムやグリセリンなどの薬剤で透明化することで、脊椎動物の骨格系の形態を立体的に観察することを容易にした標本。

(※3) 頭骨
頭部を構成する骨格。大きく、神経頭蓋(軟骨頭蓋)、内蔵頭蓋、皮骨頭蓋の3要素に分けられる。神経頭蓋はまず軟骨として現れ、多くの脊椎動物ではその後、骨(硬骨)へと置き換わる。“脳を覆う箱”という意味合いで脳函とも呼ばれる。内臓頭蓋は、(神経頭蓋と同様に)まず軟骨として現れ、のちに骨へと置き換わる。顎や舌骨、鰓骨を構成する。皮骨頭蓋は軟骨を経ず、直接骨として現れる。皮骨頭蓋は神経頭蓋と内臓頭蓋、さらにはそれらに付随する筋組織などを外側から覆う。頭蓋骨(頭蓋、skull)は頭骨と同義に用いることもあるが、頭骨から下顎を除いたものを頭蓋骨と呼ぶケースも多く、本稿では後者に従った。

論文情報

  • 掲載誌: Zoological Journal of the Linnean Society
  • 論文タイトル: Cranial skeletogenesis of one of the world’s largest amphibians, Andrias japonicus, provides insight into ontogenetic adaptations for feeding in salamanders
  • 著者名: Kaoru Ishikawa, Yuki Taguchi, Ryomei Kobayashi, Wataru Anzai, Toshinori Hayashi, and Masayoshi Tokita*(*責任著者)
  • DOI:10.1093/zoolinnean/zlab038
【お問い合わせ先】

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東邦大学理学部生物学科
准教授 土岐田昌和
〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
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URL: https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/lab/tokita_lab_index.html

広島市安佐動物公園
技師 田口 勇輝
〒731-3355 広島県広島市安佐北区安佐町大字動物園
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E-mail: taguchi*asazoo.jp

広島大学両生類研究センター
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E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 

(注: *は半角@に置き換えてください)


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