• ホームHome
  • 【研究成果】客席からのリクエストにリアルタイムでこたえながら即興的に表現する活動(授業実践)の提案

【研究成果】客席からのリクエストにリアルタイムでこたえながら即興的に表現する活動(授業実践)の提案

本研究成果のポイント

  • 客席からリアルタイムでリクエストや感想をコメントできるシステムを用いた集団即興演奏の活動を提案しています。
  • 客席にいる児童・生徒も、リアルタイムでリクエストを送ることによって、いままさに行われている表現に介入することになります。
  • 様々なジャンルの表現が混在した集団即興演奏を前提としています。音楽のみに限らない、児童・生徒一人ひとりの強みや興味・関心に基づいた表現を反映させることをねらいとしています。

概要

 本研究では、演奏中に客席からリアルタイムでリクエストや感想をコメントできるシステムを用いた集団即興演奏の活動を提案しています。
 このシステムは、数名の演奏者による集団即興演奏において、ステージ上の演奏者が、聴衆からのリクエストに応えながら即興演奏を行うことができるものです。聴衆は、ステージ上で繰り広げられる即興演奏に、自分のリクエストや感想をリアルタイムで介入させることができることが特徴です。プログラマーの榎本浩義に制作を依頼して開発し、《サンカプレイ (Sanka Play)》と名付けました(寺内 2017)。
 このたび『International Journal of Music Education』に掲載された論文では、小学校第5学年で行った授業実践の振り返りをとおして、その教育的可能性を考察しています。

《サンカプレイ》の仕組み

教室内のセッティング例

論文情報

Terauchi, D. (2022). Improvisation Based on Audience Requests: Pedagogical Possibilities of the Application “Sanka Play” for Performer and Audience Interaction in Elementary School Music Classes. International Journal of Music Education, 40(3), 419–431.
https://doi.org/10.1177/02557614211069590

背景

 学校の音楽科には、歌唱、器楽、音楽づくり(創作)、鑑賞といった分野の活動が含まれています。本研究では、このうち、音楽づくり(創作)分野に含まれる活動を取り上げています。
 音楽づくり(創作)では、多くの場合、リズム、旋律、和音、音色等の、音楽を構成する諸要素に焦点が当てられます。これらは、文部科学省が示している学習指導要領にも明記され学校現場でも重視されています。しかし、寺内は、あえてこうした諸要素とは異なる、児童・生徒の実態―とりわけ、音楽のみに限らない児童・生徒一人ひとりの強みや興味・関心を重視した音楽づくり(創作)のあり方を模索してきました。
 このような音楽づくり(創作)のあり方のひとつとして、2016年に発表した学習材《ステージ》(寺内 2016)を用いた活動が挙げられます。この活動は、児童・生徒の「得意とする表現」や「やってみたい表現」をカードに書き、それらを児童・生徒らがじっくりと話し合いながらひとつのステージを作り上げるというものです。
 このたび、『International Journal of Music Education』に掲載された論文では、じっくりと話し合いながら構成する《ステージ》の活動とは対照的に、即興的な表現を楽しむ活動を取り上げています。前述の《サンカプレイ》を用いて、客席にいる児童・生徒が「もっと盛り上げて」「そろそろ楽器を持ち替えて」「○○さん、~~~をやって」など、様々なリクエストを演奏者に送り、演奏者はそれらのリクエストを見ながら表現を続けます。
 《ステージ》を用いた活動、《サンカプレイ》を用いた活動の両方に共通するのは、児童・生徒一人ひとりの強みや興味・関心に基づいた表現を指向するため、音や音楽による表現のみならず、身体表現や言葉の表現など、様々なジャンルの表現が混在した表現になることです。例えば(あくまで一例ですが)、クラシックギターが得意なAさん、ダンスが好きなBさん、モノマネで友達を笑わせるのが好きなCさん、すごいスピードで九九を唱えることができるDさんがそれぞれに自分の得意なこと、やりたいことを合わせたとしたら・・・Aさんがギターで《禁じられた遊び》をしっとりと弾きはじめると、Bさんがそれに合わせてダンスを始める。そこに突然CさんとDさんがマツコ・デラックスさんのモノマネと九九の暗唱で掛け合いをはじめる・・・この4名でなければできない、この4名だからこそ実現できる表現です(もう一度強調しますが、これはあくまで一例です)。

研究成果の内容

 今回発表した論文では、小学校第5学年を対象とした、《サンカプレイ》を用いて即興的表現活動を行った授業の振り返りをとおし、その教育的可能性を考察しています。
 論文中に取り上げた授業実践では、児童らが、お互いにクラスメイトの強みや良さを引き出そうとして積極的にリクエストを送っていました。リクエストをふまえながらそれぞれ自分の強みや興味・関心を活かした表現を即興的に行った結果、音楽、ダンス、演劇、空手など、様々な表現が混在した魅力的かつスリリングなステージが実現しました。
 こうした活動は、音楽づくり(創作)だけでなく、他の協働的な活動にも通じる意義が含まれていると考えられます。将来、児童・生徒がどのような職業に就くとしても、何らかの協働的なプロジェクトに取り組むことは少なくないことでしょう。そのとき、各メンバーの強みや、興味・関心を活かすことは、プロジェクトを成功させるための重要な意識になると思います。
 他方、この活動では、いわゆる「無茶振り」につながるような、本人にとって「やりたくない」と感じるようなリクエストが出てしまうこともあります。そのため、教師は、表現をする児童・生徒が自分の意思を最優先すること(やりたくないことはやらなくてもよい)や、リクエストを送る児童・生徒がリクエストを送る際に思いやりをもつことの大切さを確認することが大切です。
 本研究で提案された活動は、児童・生徒が自らの表現力を創造的に発揮するための新しい可能性を示していると言えると思います。

今後の展開

 本研究で提案した活動は、前述の授業で取り上げた小学校でしかまだ行われていません。しかし、こうした活動は、小学校のみならず、他の校種でも実践できると思います。今後は、学校現場の先生方にも、広く実践していただくことを望んでいます。
 ただ、この授業は、多くの授業がそうであるように、同じ内容をそのままどこでも行えるというものではありません。児童・生徒の実態に応じて、適切にアレンジする必要があるでしょう。しかし、そのようなアレンジによって、新たな教育的意義を見出だすことにつながることもあると思います。

 《サンカプレイ》は、次のURLに公開しています。
https://home.hiroshima-u.ac.jp/terauchi/sankaplay/sankaplay.html

 教育・研究を目的とした使用であれば、どなたでも自由にお使いいただけます。お使いになる場合、寺内への連絡は必要としませんが、ご一報いただけますと嬉しいです。ただし、教育・研究を目的とした使用ではなく、コンサート等のイベントでお使いいただく場合には、事前に寺内にご一報ください。

参考資料

  • Terauchi, D. & Myodo, H.(2021) Exploring the Pedagogical Possibilities of the Idea of Composition Based on Children's Interests and Strengths, in the Proceedings of The 13th Asia-Pacific Symposium for Music Education Research: Exploring Possibilities and Alternatives in a Changing Future, Morijiri, Y., Imada, T., Ogawa, Y.,(ed), Japan Music Education Society, pp. 219-227.
  • 寺内大輔(2016)「児童の得意な表現を手がかりとした創作活動のための学習材の開発―ジョン・ゾーンの作曲手法を参照して」『初等教育カリキュラム研究』4, 53-64. 
  • 寺内大輔(2017)学習材「サンカプレイ」,
    https://home.hiroshima-u.ac.jp/terauchi/sankaplay/sankaplay.html
お問い合わせ先

教職開発プログラム (教職大学院)
准教授 寺内大輔
terauchi[at]hiroshima-u.ac.jp
(注: [at]は半角@に置き換えてください)


up