- メンデル遺伝型マイコバクテリア異常症(MSMD)の4家系でSTAT1異常症を同定しました。
- 新奇STAT1変異を含むすべての変異が機能喪失型であることを証明しました。
- わが国のMSMDではSTAT1異常症が最も多いことが明らかになりました。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座の金兼弘和寄附講座教授と発生発達病態学分野の友政弾大学院生の研究グループは、聖路加国際病院小児科の小野林太郎医員、長谷川大輔医長らのグループ、広島大学大学院医学系学研究科小児科学の岡田賢教授、津村弥来研究員らのグループ、久留米大学、金沢大学、札幌医科大学、岐阜大学、千葉大学との共同研究で、メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(mendelian susceptibility to mycobacterial disease: MSMD)の4家系8例で、新奇変異を含むSTAT1異常症を同定しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金(20K16937, 20K08158, 17K100099, 22H03041, 19H03620, 18KK0228)ならびに国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(JP20ek019480)の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Clinical Immunologyに、2022年11月7日にオンライン版で発表されました。
【研究の背景】
先天性免疫異常症(inborn errors of immunity: IEI)※1の多くはさまざまな病原体に易感染性を示しますが、特定の病原体に対して選択的に易感染性を示すIEIが存在し、BCGを含む非結核性抗酸菌(non-tuberculosis mycobacteria: NTM)やサルモネラなどの細胞内寄生菌※2に対して選択的に易感染性を示すメンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(mendelian susceptibility to mycobacterial disease: MSMD)※3が知られています。MSMDはインターフェロン(IFN)-のシグナル伝達障害が原因とされ、IFNGR1/IFNGR2異常症、STAT1※4異常症などの多くの原因が知られています。
【研究成果の概要】
BCGによる多発骨髄炎などの重症BCG感染症を契機にMSMDが疑われた患者4人で網羅的遺伝子解析を行ったところ、ヘテロ接合性にSTAT1変異が同定され、うち3つは新奇変異でした。STAT1欠損細胞でのルシフェラーゼレポーターアッセイ※5とIFN-γ刺激により、これらの変異体が機能喪失型であることが確認されました。また共導入アッセイにより、これらの変異体はすべて野生型STAT1に対して優性阻害効果を持っていることが確認されました。家族内解析を行ったところ、無症状者も含めて4家系8例でSTAT1変異が同定されました。
【研究成果の意義】
日本人におけるMSMDは従来IFNGR1異常症がもっと多いとされていましたが、今回の研究でMSMDの原因としてSTAT1異常症が最も多いことが明らかになりました。MSMDは重症BCG感染症を契機に見つかることが多いですが、無症状や軽症の患者さんも少なからず存在することが明らかになりました。MSMDは多くの患者が潜在的に存在している可能性があり、BCG接種前における家族歴の聴取が重要であることが再認識されました。
※1先天性免疫異常症(inborn errors of immunity: IEI)
従来原発性免疫不全症と呼ばれていたが、易感染性のみならず、自己免疫疾患や悪性腫瘍の合併も多くみられることから、疾患概念の変化とともに用語も変更されるようになり、500近くの原因遺伝子が知られている。
※2細胞内寄生菌
細胞内寄生菌とはマクロファージなどの食細胞によって食菌され、そのなかで増殖し、食細胞の体内拡散に伴って病巣の拡散を引き起こす。サルモネラ、赤痢菌、レジオネラ、リステリア、結核菌などがある。IFN-が細胞内寄生菌の排除に重要とされる。
※3メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(mendelian susceptibility to mycobacterial disease: MSMD)
BCG, NTM, サルモネラなどの細胞内寄生菌に対して選択的に易感染性を示すIEIである。MSMD患者の多くはIFN-の産生障害あるいは作用障害を有し、その原因遺伝子としてIFNGR1, STAT1, IL12RB1など15種類以上知られている。海外ではIL12RB1変異が最多であるが、わが国ではIFNGR1, STAT1変異がほとんどである。
※4STAT1(signal transducer and activator of transcription 1)
STAT分子は、受容体関連キナーゼによってリン酸化されることによって活性化され、ホモ二量体またはヘテロ二量体を形成して、核に移行して転写因子として機能する。STAT1はIFN-などのリガンドによって活性化される。
※5ルシフェラーゼレポーターアッセイ
遺伝子発現解析法の1つであり、リポーター遺伝子にルシフェラーゼを用いることによって、発光量から目的の遺伝子の発現量を定量的に調べることが可能となる。