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パラリンピック競技大会の車いすバスケットボールで1試合あたり17件もの転倒が生じていることが判明~東京パラリンピック競技大会の映像分析による調査〜

本研究成果のポイント

  • 東京2020パラリンピック競技大会における男子、女子車いすバスケットボールの試合中に生じる転倒状況を映像分析した結果、1試合あたり男子で平均22.5件、女子で10.5件生じ、過去大会の報告と比べて増加していました。
  • 転倒の特徴としては、女子の試合では、パラアスリートの残存する身体機能に基づく障がいの重さの分類(以下、クラス分け)によって異なりましたが、男子の試合では異なる結果にはなりませんでした。
  • 車いすバスケットボール選手における転倒に関連する怪我の予防には、男女、障がいの重さの分類ごとに検討する必要があることが考えられる結果となりました。

概要

 東京パラリンピック大会時の車いすバスケットボール競技の公式映像73試合(男子42、女子31)を分析して、転倒がどの程度、またどのような状況で生じているのかを詳細に調査しました。
主な調査内容は、転倒の発生件数、クラス分け、頭部接触状況(ラウンド、プレーの局面(攻守)、プレー状況、接触の有無、反則の有無、転倒場所・方向、最初に床と接触した身体部位)に関するものでした。
合計1,269件の転倒が発生しました。男女の間では、反則の有無、転倒場所・方向、最初に床と接触した身体部位の4つの項目で傾向が異なりました。
女子においては、クラスによって高強度の転倒の発生割合が異なりました。
本研究成果は2023年2月7日に「American Journal of Physical Medicine and Rehabilitation」に掲載されました。

掲載論文

論文名:Characteristics of wheelchair basketball falls during the Tokyo 2020 Paralympics by sex and physical impairment classification: A video-based observational study.
著者:堤 省吾1、前田慶明1、笹代純平2、清水怜有2、鈴木 章2、福井一輝1、有馬知志1、田城 翼1、金田和輝1、吉見光浩1、水田良実1、安部倉 健1、江崎ひなた1、寺田大輝1、小宮 諒1、浦邉幸夫1*
1. 広島大学 大学院医系科学研究科 総合健康科学
2. 国立スポーツ科学センター スポーツメディカルセンター
* 責任著者
掲載雑誌:American Journal of Physical Medicine and Rehabilitation
DOI:10.1097/PHM.0000000000002211

背景

 車いすバスケットボール競技は、四肢欠損や脊髄損傷などの疾患を有するパラアスリートによるパラリンピック競技です。これまで転倒に関する報告は1本されていますが、パラリンピック大会の全試合(予選を含む)を対象とした調査は行われていません。さらに車いすバスケットボール選手は、身体に残存する機能により、点数が割り当てられる(クラス分け)のですが、クラス分けと転倒状況の関連も検討されていないままです。危険な転倒の予防策を検討する情報を得るため、実際の試合映像を分析し、試合中に発生する転倒にどのような特徴があるのか、調査しました。

研究成果の内容

 本研究では、東京パラリンピック大会中の車いすバスケットボール競技の全73試合を分析しました。本研究のアウトラインを図1に示します。試合映像を分析するにあたり、車いすバスケットボール選手の転倒は「身体部位と床との接触」と定義しました。全アスリートは、残存する身体機能に基づいたクラス分けにより、ハイポインター(残存機能:高い)とローポインター(残存機能:低い)の2群に分類されました。
 まず転倒件数は、東京パラリンピック大会車いすバスケットボール競技全体で合計1,269件発生していました。男子では944件、女子では325件であり、男性の方が約3倍多く転倒していました(表1)。どちらも前大会であるリオ大会を超える結果となりました。さらに転倒の特徴がクラス分けにより異なるかを検証したところ、男女で異なる傾向が得られました。他者との接触の有無、反則の有無、ペイントエリアと呼ばれるゴールに近いエリアでの転倒といったこれらの特徴は、強度の激しい転倒であることが予想されます。女子では、仮説通りハイポインターの方が激しい転倒をする割合がローポインターよりも高い結果となりました。しかし男子では、ローポインターとハイポインターの間で有意な差が認められませんでした。このように、東京2020パラリンピック大会での車いすバスケットボール競技において、男女間では転倒の特徴が異なり、さらに男子では、特にローポインターにおいて残存機能が低いにも関わらず、激しい転倒を有する割合はハイポインターと明らかな違いがなかったことが本研究の大きな成果といえます。

今後の展開

 本研究によって車いすバスケットボール中の転倒は、1試合あたり男子で平均22.5件、女子で平均10.5件も生じていました。また、男女やクラス分けにより転倒の特徴が異なることは、重要な結果だと思われます。特に重度の障がいをもつパラアスリートの転倒頻度の減少や危険な転倒予防のために、ルールの見直しや予防策を検討する必要が考えられます。今回得られた知見が、車いすバスケットボール選手の怪我の予防、ひいては競技が長く続けるために役立つことを期待します。そして筆者らは、今後もパラアスリートを対象とした調査、研究を続けていきます。



図1 本研究のアウトライン

表1 車いすバスケットボール選手の転倒発生状況の男女比較

【本件内容の問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 大学院生 堤 省吾

Tel:082-257-5413

E-mail:shogo-tutumi*hiroshima-u.ac.jp

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 准教授 前田慶明

Tel:082-257-5410

E-mail:norimmi*hiroshima-u.ac.jp

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 教授 浦邉幸夫

Tel:082-257-5405

E-mail:yurabe*hiroshima-u.ac.jp

  (注: *は半角@に置き換えてください)


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