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【研究成果】間質性肺炎があると肺がんが進行する仕組みを解明〜ビタミンCが切り札に?!〜

研究成果のポイント

・間質性肺炎は、通常の細菌による肺炎ではなくさまざまな原因で肺の壁(間質*1)に炎症が起き、咳や息切れが出る病気です。間質性肺炎があると健康な方と比べて肺がんを合併することが5倍以上も多く、その進行も早いことが報告されています。しかしその理由についてはわかっておらず、臨床現場では深刻な問題となっています。
・本研究では間質性肺炎合併肺がんのマウスモデルを世界で初めて開発し、患者さんのデータとともに解析することで、間質性肺炎と肺がんの両方に低酸素誘導因子*2(HIF-1)が重要な役割を果たしていることを解明しました。
・さらに、HIF-1阻害薬によって肺がんや間質性肺炎の進行を抑制できることに加えて、HIF-1阻害剤の代わりにアスコルビン酸(ビタミンC)が使用できる可能性があることも明らかにしました。
・本研究の成果は、HIF-1を標的とした間質性肺炎合併肺がんの新たな治療の開発につながることが期待されます。
 

概要

 広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学の下地 清史大学院生、中島 拓助教、服部 登教授らのグループは、「HIF-1が間質性肺炎による肺がんの進行を調節すること」を発見し、そのメカニズムについて新たな知見を蓄積しました。この研究成果は間質性肺炎合併肺がんに対する治療の発展に大きく貢献すると期待されます。
 本研究成果は、2023年11月27日に国際学術雑誌である『Journal of Translational Medicine』オンライン版に掲載されました。

論文情報

論文名:Hypoxia-inducible factor 1α modulates interstitial pneumonia-mediated lung cancer progression
著者名:Kiyofumi Shimoji1, Taku Nakashima1*, Takeshi Masuda1, Masashi Namba1, Shinjiro Sakamoto1, Kakuhiro Yamaguchi1, Yasushi Horimasu1, Takahiro Mimae2, Shintaro Miyamoto1, Hiroshi Iwamoto1, Kazunori Fujitaka1, Hironobu Hamada3, Morihito Okada2, Noboru Hattori1
1:広島大学大学院医系科学研究科 分子内科学
2:広島大学原爆放射線医科学研究所 放射線災害医療研究センター 腫瘍外科分野
3:広島大学大学院医系科学研究科 生体機能解析制御科学
*:責任著者
掲載雑誌名:Journal of Translational Medicine
DOI:10.1186/s12967-023-04756-6
https://translational-medicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12967-023-04756-6

背景

 間質性肺炎では、肺がんの合併が多くがんの進行も早いことが報告されています。また間質性肺炎合併肺がんでは、手術、放射線、抗がん剤(化学療法)といった主たるがん治療において間質性肺炎急性増悪*3のリスクがあり、治療選択肢が極めて少ないという問題があります。
 そのため間質性肺炎を合併する肺がんでは、合併しない肺がんよりも生命予後の見通しが悪く、新しい治療法が求められています。しかし、現在までその適切な動物モデルが開発されておらず、その病態について十分な検討を行うことができませんでした。
 そこで我々は、新たに間質性肺炎合併肺がんのマウスモデルを開発し、患者さんのデータとともに解析を行うことで間質性肺炎と肺がんの関わり合いについて検討し、新規治療薬について探索しました。

研究成果の内容

 「間質性肺炎モデル(マウスにブレオマイシン*4を投与)」と「がんを肺に移植するモデル」を組み合わせた間質性肺炎合併肺がんマウスモデルを初めて開発しました。間質性肺炎合併肺がんモデルでは、がんの周りに集まる細胞が変化しており、実際の患者さんと同様にがんが早く大きくなること、転移を起こすようになることが確認されました。
 その理由を探るためRNAシーケンス*5を行い、肺がんと間質性肺炎の両方でHIF-1シグナル伝達経路の活性化が関わっていることを明らかとしました。
 この結果をもとに、間質性肺炎合併肺がんモデルにHIF-1阻害薬を投与すると、肺がんも間質性肺炎も進行しなくなることがわかりましたが、HIF-1阻害薬は心臓や血管にダメージを与えることがわかっており、実際に患者さんに使うことはできません。そこで、その代わりとなる薬としてHIF-1の分解を助けるアスコルビン酸(ビタミンC)に注目しました。
 アスコルビン酸はHIF-1α阻害薬と同じぐらいHIF-1シグナル伝達経路にブレーキをかけてくれることがわかり、結果として肺がんと間質性肺炎両方の進行を抑えることがわかりました。

今後の展開

 本研究では間質性肺炎合併肺がんのマウスモデルを世界で初めて開発した点、肺がんと間質性肺炎の両方にHIF-1シグナル伝達経路が重要であること見つけた点に特徴があります。
今後は同モデルを用いてさらなる治療の標的を探索することや、アスコルビン酸治療の臨床への応用が期待されます。

参考資料

本研究の要旨

用語説明

*1 間質:肺の空気が入る部分である「肺胞」の壁の部分のこと。

*2 HIF-1:Hypoxia inducible factor(低酸素誘導因子)。細胞内が低酸素状態に陥った際に活性化されるタンパク質、転写因子のこと。

*3 間質性肺炎急性増悪:アクセルを踏み込んだように間質性肺炎が急激に悪化し、呼吸困難や低酸素血症をきたすこと。感染症や薬剤など原因はさまざまである。

*4 ブレオマイシン:抗がん剤の一種。マウスの間質性肺炎モデルを作成する際に一般的に使用される。

*5 RNAシーケンス:次世代シーケンサーを用いてメッセンジャーRNA(mRNA)等の配列情報を網羅的に読み取り、遺伝子の発現量を解析する手法のこと。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学 中島 拓
Tel:082-257-5196 FAX:082-255-7360
E-mail:tnaka*hiroshima-u.ac.jp

<広報に関すること>
広島大学広報室
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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