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【研究成果】前立腺癌治療の未来へ〜ドジオミクス解析による個別化治療の可能性〜

研究成果のポイント

* 放射線治療の線量分布を網羅的に解析するドジオミクス手法を用いて、局所前立腺癌の患者背景の違いが予後に与える影響を検証しました。
*治療前のPSA値やグリソングレードグループの値が高いほど、生化学的無再発曲線が分離する傾向が認められました。
*患者背景の違いに応じて適切な治療計画手法を使い分けることで、前立腺癌患者の予後を改善できる可能性が示唆されました。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科 村上悠大学院生、河原大輔助教、永田靖名誉教授らの研究グループは、ドジオミクス手法を用いて放射線治療を施行した局所前立腺癌患者のサブグループ解析を行うことで、放射線治療後の生化学的無再発生存期間に与える影響は治療前の患者背景によって異なることを明らかにしました。
 本研究成果は、2024年1月23日に欧州科学誌「British Journal of Radiology」に掲載されました。

論文情報

論文タイトル
Dosiomics for intensity-modulated radiotherapy in patients with prostate cancer: survival analysis stratified by baseline prostate-specific antigen and Gleason grade group in a 2-institutional retrospective study.

著者
村上 悠 M.Sca,b, 河原 大輔 Ph.Da,*, 征矢野 崇 M.Dc, 小塚 拓洋 M.D., Ph.Dd, 髙橋 由佳 B.Sce, 三宅 小夏 M.Sce, 柏原 賢一 M.D., Ph.De, 柏原 大朗 M.D., Ph.Df, 上間 達也 B.Scg, 小口 正彦 M.D., Ph.Dg, 村上 祐司 M.D., Ph.Da, 吉岡 靖生 M.D., Ph.Da, 永田 靖 M.D., Ph.Da

a 広島大学大学院 医系科学研究科
b がん研究会がん研究所 物理部
c 自衛隊中央病院 放射線科
d 東京大学医学部附属病院 放射線科
e 東京放射線クリニック
f 国立がん研究センター中央病院 放射線治療科
g がん研究会有明病院 放射線治療部
*責任著者

掲載雑誌
British Journal of Radiology

DOI番号
doi: 10.1093/bjr/tqad004.

背景

 従来の放射線治療計画は線量体積ヒストグラム(DVH)に基づいて実施されていますが、このDVHを用いた評価では治療計画の質を十分に評価することができない問題点がありました。近年、放射線治療の線量分布から線量の強度、形状、テクスチャーなどの情報を定量化するドジオミクス解析が注目を集めており、当研究グループは、あるドジオミクス特徴量が前立腺癌における放射線治療後の生化学的再発に関連することをいち早く明らかにしていました。本研究では、このドジオミクス特徴量を用いて治療前の臨床情報に基づくサブグループ解析を行い、患者背景の違いが予後に与える影響を検証しました。

研究成果の内容

 図2に治療前PSA値で分類したサブグループ解析の結果を示します。治療前PSA値が高いほど、生化学的無再発曲線が分離する傾向を示しました。この傾向は特徴量の種類によっても異なり、特にPTVから抽出した特徴量(画像中央)で最も顕著であることが分かりました (7年時の生化学的無再発率: 86.7% vs 76.1%, P < 0.01)。また、グリソングレードグループを用いたサブグループ解析でも同様の傾向が確認されました。

今後の展開

 我々は世界で初めて前立腺癌の生化学的再発に関するドジオミクス特徴量を発見し、その特徴量は治療前の患者背景によって大きく変化することを明らかにしました。これにより、ドジオミクスを用いた治療計画を行うことで予後が改善する可能性が示唆され、その恩恵は治療前の患者背景が悪い症例ほど大きい可能性があることが分かりました。今後は、この特徴量の堅牢性を多施設で検討するとともに、前向き介入試験によって本研究結果の妥当性を検証する必要性があると考えられます。

参考資料

図1.本研究の流れを示します。2施設のデータを統合した後、患者を治療前PSA値とグリソングレードグループに基づくサブグループに分割しました。その後、生化学的再発に関連するドジオミクス特徴量の中央値をカットオフとして、患者を2群に分割し、生化学的無再発期間をエンドポイントとしたカプランマイヤー解析を実施しました。

図2.生化学的再発に関連する3種類の特徴量を用いたカプランマイヤー解析の結果を示します。治療前PSA値が10 ng/ml以下 (a) と比べて、治療前PSA値が10 ng/mlを超える (b) 症例では、生化学的再発曲線が分離していることが分かります。

図3.将来展望を示します。従来は全ての症例にDVHを用いた放射線治療計画が行われていましたが、将来的には治療前の患者背景に応じてリスク分類を行い、患者背景が悪い症例にはドジオミクスを用いた治療計画を実施することにより、予後の改善が期待されます。

【お問い合わせ先】

病院放射線部 助教 河原大輔
Tel:082-257-1545 FAX:082-257-1546
E-mail:daika99*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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